近年の熱中症は室内でおこるケースがふえていますが、もちろん屋外も要注意です。炎天下の屋外で熱中症のリスクが高まることはいうまでもありません。暑い時間帯の外出はなるべく控えたいものですが、どうしても外出しなくてはならないこともあるでしょう。そんなときに熱中症のリスクを避ける対策、とくに高齢者にとって重要な対策について、帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長・救急医学講座教授の三宅康史先生に伺いました。

1. 外出時は、環境省の「全国の暑さ指数」をチェック

熱中症の危険性は、温度だけで決まるのではなく、湿度や直射日光、輻射(ふくしゃ)熱の影響も大きく受けます。

 

湿度が高いと汗の気化が妨げられて体が冷えにくくなりますし、直射日光によって体は温められ熱をため込んでしまうからです。直射日光で壁や路面が熱を持ち、その熱で体が温められることを輻射熱と言います。

 

温度にこれらの要素も加えたのが、「暑さ指数」とも呼ばれる「WBGT(湿球黒球温度)」です。単位は気温と同じ「℃(摂氏度)」で示されますが、値は気温とは異なり、熱中症の危険度を示す指数です。

 

暑さ指数は、天気予報で告知されるほか、環境省の専用サイトでも地域別の情報が公開されています。外出前にスマートフォンなどで調べ、暑さ指数に合わせた行動をとりましょう。

 


●環境省・熱中症予防情報サイト
全国の暑さ指数(WBGT)

暑さ指数の予測値が31℃に達したら、原則として運動を中止することがすすめられます。33℃に達したら「熱中症警戒アラート」が発令されます。この場合は、以下のことを心がけてください。

 

・どうしても急ぐ用事以外は外出を控える。
・室内では必ずエアコンを使って涼しくする。
・普段以上に水分補給を心がける。

 

最近では、WBGT指数計付きの温湿度計も多種類が市販されています。これから温湿度計を買うなら、そういうタイプを選ぶと、より熱中症対策に役立つでしょう。

外出時は、環境省の「全国の暑さ指数」をチェック

2. のどが渇いていなくても、時間を決めて水分の補給を

夏の外出に、水やお茶などの飲み物は必須です。冷たい飲み物のほうが効率よく体を冷やせるので、冷やした水や麦茶などを、氷とともに保冷効果の高い水筒に入れて持参するのがおすすめです。重さが気になる場合は、小さめの水筒に氷だけを入れておき、飲む前に水を足すようにしてはいかがでしょうか。

 

高齢者はのどの渇きを感じにくいので、のどの渇きを感じてからではなく、タイミングを決めて水分を補給することが大切。外出先では忘れやすいので、同行の家族やケアする人がスマートフォンでアラームをかけておくなど、工夫してこまめに水分を補給しましょう。

 

外出先で食事をとるときは、食前・食中・食後にも、意識的に水分を補給するよう心がけましょう。外出時間が長くなったら、水分補給を兼ねてカフェで一休みするなど、こまめに休憩をとることも大切です。

 

なお、それほど汗をかいていないときは水分だけでもかまいませんが、汗を多くかいたときには、水分補給とともに梅干しを食べたり、塩飴をなめたりして、汗とともに失われた塩分も補給すると安心です。さらに、もし脱水傾向が見られたら、経口補水液やスポーツドリンクを補給しましょう(詳しくは次項)。

のどが渇いていなくても、時間を決めて水分の補給を

3. 尿の量や回数の減少は脱水のサイン

熱中症は、脱水を基盤としておこります。家にいるときも同様ですが、とくに外出時に目安になる脱水のサインが、尿の量や回数が減少することです。高齢者の外出に同行していて、普段よりトイレの回数が少ないと感じたら、脱水を疑って水分の補給を促しましょう。唇や舌、皮膚のかさつきなども、外部から見てわかる脱水のサインです。

 

このときに補給する水分は、できれば経口補水液やスポーツドリンクなどがおすすめです。これらは、汗と一緒に失われるナトリウムなどのミネラルや、水分の吸収を促進する少量のブドウ糖などを含んでおり、脱水時に必要な栄養素を速やかに体に吸収できます。高齢者と外出するときは、水やお茶を十分に持参すべきですが、脱水に備えてスポーツドリンクなどもあればなおよいでしょう。

 

なお、経口補水液やスポーツドリンクは、ナトリウムや糖分を含むため、脱水傾向がないときに多く飲むのはよくありません。とくに腎臓病や高血圧、糖尿病などがある高齢者は、一時的に飲むとしても問題になる場合もあるので、あらかじめ主治医に相談しておくと安心です。

尿の量や回数の減少は脱水のサイン

4. 帽子や日傘、服装の工夫で熱中症対策を

夏の外出に、帽子や日傘は必需品です。衣服も、熱をためにくく逃がしやすい素材やデザインを選びましょう。

 

●帽子や日傘で直射日光をカット
気温が同じでも、直射日光にさらされると熱中症のリスクが高まります。帽子や日傘で、絶えず「自分用の日陰」を作ることが大切です。高齢者にはツバの広い帽子をかぶせ、大きめの日傘に一緒に入るなどの気遣いを。最近は、熱中症予防に効果的な遮熱・遮光効果の高い日傘(雨傘としても使用可能)が市販されていますので、これから買うならそういう商品を選ぶとよいでしょう。

 

●衣服の素材は綿や麻、速乾性のある化学繊維など
衣服の素材は、綿サッカー生地や麻などの天然素材なら、吸水性・通気性に優れており、高齢者が心地よく着られるうえ、熱中症対策ができます。あるいは、本人が嫌がらなければ、速乾性のある化学繊維を選ぶのもよい方法です。最近の速乾素材は、汗による湿気を速やかに吸収・放出し、気化を促して体を冷やすように作られています。

 

●衣服の色や形状にも注意
黒っぽい色は熱を吸収するので、白や淡色の衣服を選びましょう。体を締めつけず、風を通しやすいデザインのものがおすすめです。ただし、電車やレストラン、店舗などでは冷房が効いているので、すぐ羽織れる薄手の長袖なども持参して、こまめに調整しましょう。

帽子や日傘、服装の工夫で熱中症対策を

5. 便利な冷却グッズも活用しよう

夏の外出時には、暑い屋外でも手軽に体を冷やせる次のようなグッズも活用するとよいでしょう。

 

●冷却スカーフ
最近では、水で濡らして絞り、振ることで冷却効果を発揮するスカーフが多く市販されています。外出先でもトイレなどで濡らしてすぐ使えるので便利です。首は頭部と体をつなぐ2つの太い血管(頸動脈・頸静脈)が通り、脈が測れるほど皮膚から血管までの距離も近いので、首を冷やすことで体を効率的に冷やせます。水で絞ったタオルを家で冷やしておき、保冷バッグに保冷剤とともに入れて持参してもOK。

 

●ネッククーラー
スカーフより、さらにしっかり首を冷やせるのがネッククーラー。やわらかい保冷剤入りのものや冷蔵・冷凍して使うリング式、バッテリーのついた電動式などがあります。外出前に冷蔵・冷凍したり、充電したりと必要な準備をしておきましょう。

 

●ポータブル扇風機
最近、多くの人が携帯している小型の扇風機は、暑い屋外、とくに無風のときに顔や首すじ、わきなどを冷やすと意外と頼りになります。手持ちタイプや首かけタイプがあり、乾電池式か充電式かなど、使いやすいものを選びましょう。

 

●うちわ・扇子
オーソドックスですが、うちわや扇子もあればやはり便利です。濡れタオルで顔や腕を拭いたあと、あおいで風を送ると、気化熱によって皮膚からの熱の放散が促され、効率よく体を冷やすことができます。

便利な冷却グッズも活用しよう

6. まとめ

夏の外出は「暑さ指数」の情報をチェックして準備やスケジュール調整を。冷たい水分や帽子、日傘、通気性のよい衣服などは必須アイテムです。脱水に備えての経口補水液や、効率よく体を冷やせるグッズなどもあればより便利。忘れずにこまめに水分を補給し、休憩もとりましょう。

 

 

この記事の提供元
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著者:三宅康史

三宅康史(みやけ・やすふみ)
帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長・救急医学講座教授
1985年、東京医科歯科大学卒業、同年東京大学医学部附属病院救急部。1986年、公立昭和病院脳神経外科・救急科(ICU)・外科 研修医~医長。1996年、昭和大学病院救命救急センター助手。2000年、さいたま赤十字病院救命救急センター長・集中治療部長。2003年、昭和大学医学部救急医学准教授、2011年、昭和大学病院救命救急センター長、2012年、昭和大学医学部救急医学教授。2016年、帝京大学医学部救急医学講座教授・同附属病院救命救急センター長、2017年、同高度救命救急センター長、現在に至る。『医療者のための熱中症対策Q&A』(日本医事新報社)、『現場で使う!!熱中症ポケットマニュアル』(中外医学社)など著書多数。

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