夏は、年齢を問わず熱中症に注意が必要ですが、とくに高齢者は熱中症を起こしやすい上、重症化しやすいので十分な注意が必要です。高齢者自身はもちろん、周囲の人が十分に気を配り、熱中症の予防や早期発見に努めましょう。高齢者の熱中症がなぜ重症化しやすいかというメカニズムとともに、高齢者の熱中症の特徴や早期発見のポイントを、帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長・救急医学講座教授の三宅康史先生に解説していただきます。
高齢者の熱中症は、発症数が多いだけでなく、重症化しやすいのが特徴です。熱中症による死亡者のうち、約8割は65歳以上の高齢者が占めるほど死亡例も多いので十分な注意が必要です。
その理由の1つは、高齢になると暑さを感じにくくなり、体温調節機能が低下するということです。本来脳が暑さを感知すると、体は皮膚の血流量や汗の量を増やして放熱し、体温を下げます。しかし、加齢とともに暑さのセンサーが鈍くなってくる上、体温調節のための反応と機能も低下してきます。そのため、高齢者は体の熱を放散しにくく、深部の体温が上昇しやすいのです。
また、高齢者は元々体の水分量自体が少なくなっています。体の水分量は、生まれたころには80%程度ですが成長とともに減り、成人は平均60%、高齢者は50〜55%になります。熱中症は脱水を基盤として起こりますが、高齢者は体の水分量が少ない分、暑さや水分不足の影響を強く受けます。元々脱水気味であるため、熱中症のリスクが高まるのです。さらに、高齢者はのどの渇きを感じに傾向が強いため、水分補給も遅れやすくなります。
このように、高齢者には熱中症を起こしやすいさまざまな悪条件が揃っています。それらを踏まえて熱中症の予防や早期発見に努めることが大切です。
熱中症というと、運動中に急激に症状が出て倒れるイメージが強いかもしれません。確かにそのようにして起こる熱中症もありますが、高齢者の場合に多いのは「じわじわ進行する」ケースです。
室内でも掃除などで体を動かしているときとは限らず、蒸し暑い部屋で何もしていないときなどに、じわじわと長い時間をかけて体調が悪化することが多いのです。そのため本人も周囲の人も気づきにくく、手を打たないまま重症化してしまうのです。熱中症で搬送された後、「あれが熱中症だとは思わなかった」という人も少なくありません。
高齢者の場合、その日のうちに気づいて搬送されるとは限らず、数日かけて徐々に悪化することもあります。それだけに、高齢者に見られやすい熱中症のサインを知っておき、見逃さないようにすることが大切です。
一般的な熱中症の初期症状としては、めまいや立ちくらみ、こむら返り、顔のほてり、大量の発汗、脱力感などがありますが、高齢者の場合、特に気をつけたいのが「何となく元気がない」「普段より静かにしている」「ぼんやりしている」「食欲が落ちている」「横になっていることが多い」という場合です。「声をかけても反応しない」「反応が遅い」「少しおかしな返答をする」という場合は、さらに重症のサインです。
「少し疲れているのかも」「ちょっと体調が悪いのだろう」などと思ってやり過ごすのではなく、「熱中症のサインではないか」と疑うことが大切です。意識がはっきりしていて自分で水分補給できる場合は、引き続き水分を補給するとともに、体が熱ければ冷やすなどの対策をしましょう。意識がはっきりしていない場合や自分で水分をとれない場合は、救急車を呼んでください。
夏は「高齢者の元気がなかったら熱中症を疑う」というくらいの気持ちで注意しておきましょう。
以下のような症状・兆候があるときも熱中症や、その前段階となる脱水傾向を疑う必要があります。
・長時間トイレに行っていない
・尿の色がいつもより濃い
・くちびるや口の中が乾いている
・皮膚に張りがなく、カサカサしている
・拭いても汗がでる、またはまったく汗をかいていない
・体が熱い
「体が熱い」というのは、熱中症で表れる代表的な症状です。手で触れて熱く感じるときや体温を測って熱がある場合、夏はかぜなどによる発熱と決めつけずに熱中症も疑いましょう。ただし、高齢者はわきの下で測る体温が、正確に体温を反映しないケースもあります。「発熱していないから大丈夫」と油断せず、ほかの症状も見て判断してください。
高齢者の熱中症は徐々に進行することも多いので、普段から周囲の人が以下のような点に気をつけておくことが早期発見につながります。
●体調
元気はあるか、食欲はあるか、発熱はないか、唇や皮膚が普段より乾燥していないかなどに気を配っておきましょう。
●具合
体重、血圧、心拍数、体温などの変化をチェック。脱水や熱中症が進行すると、体温上昇のほか、体重減少、血圧低下、心拍数の増加などが見られます。
●環境
部屋の温度や湿度(目安は室温28℃以下、湿度50〜60%)、風通し、換気、日当たりなどをチェックして、熱中症を防ぐ環境づくりをしておきましょう。
著者:三宅康史
三宅康史(みやけ・やすふみ)
帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長・救急医学講座教授
1985年、東京医科歯科大学卒業、同年東京大学医学部附属病院救急部。1986年、公立昭和病院脳神経外科・救急科(ICU)・外科 研修医~医長。1996年、昭和大学病院救命救急センター助手。2000年、さいたま赤十字病院救命救急センター長・集中治療部長。2003年、昭和大学医学部救急医学准教授、2011年、昭和大学病院救命救急センター長、2012年、昭和大学医学部救急医学教授。2016年、帝京大学医学部救急医学講座教授・同附属病院救命救急センター長、2017年、同高度救命救急センター長、現在に至る。『医療者のための熱中症対策Q&A』(日本医事新報社)、『現場で使う!!熱中症ポケットマニュアル』(中外医学社)など著書多数。