年金以外の収入がない場合、「年金だけで老人ホームの費用を賄えるだろうか?」と心配になる方もいるでしょう。今回は、年金だけで入れる可能性のある老人ホームと入居が難しい場合の対策について解説します。

1. 事前に確認しておくべき2つのこと

年金だけで入れる老人ホームを見つけるためには、事前に以下の2点を確認しましょう。

 

①年金支給額
まずは年金支給額を把握します。厚生年金受給者(国民年金含む)、国民年金受給者それぞれの平均年金月額は、以下のとおりです。

 

平均年金月額

 

「令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」(厚生労働省))を元に作成)

・平成30年度 
 厚生年金受給者 145,865円
 国民年金受給者 55,809円
・令和元年度
 厚生年金受給者 146,162円
 国民年金受給者 56,049円
・令和2年度
 厚生年金受給者 146,145円
 国民年金受給者 56,358円
・令和3年度
 厚生年金受給者 145,665円
 国民年金受給者 56,479円
・令和4年度
 厚生年金受給者 144,982円
 国民年金受給者 56,428円

②老人ホームにかかる費用
次に、老人ホームにかかる費用を確認しましょう。以下2種類があります。

・初期費用
・月額費用

 

【初期費用】
入居前にまとめて支払う費用です。0円から数千万円と大きく幅があります。

アパートやマンションの入居時に支払う、「敷金」や「家賃の前払い」と同じ意味合いのものです。前払いによって月額費用の負担が減る仕組みになっています。

 

【月額費用】
月額費用の項目例は、以下のとおりです。

・居住費(家賃)
・管理費
・食費
・水道光熱費
・医療費
・介護サービス費(1~3割)
・日用品費(ティッシュ、シャンプー、オムツなど)

 

2. 年金だけで入れる老人ホームの種類

介護が必要な方が入居できる施設のうち、費用負担が比較的少ないのが「公的施設」です。

年金だけで老人ホームの費用を賄いたいと考える方には、以下の公的施設をおすすめします。

・特別養護老人ホーム
・介護老人保健施設
・介護医療院
・ケアハウス

 

これらの施設は、国や自治体などの公的機関が運営しており、助成金などにより費用を安く抑えられる仕組みになっています。以下の表に、年金だけで入れる可能性のある公的施設をまとめました。

 

      

●特別養護老人ホーム
初期費用
 0円
月額費用 9~15万円
特徴 
・介護サービスが充実
・終身利用が可能
入居条件
・原則要介護3以上

●介護老人保健施設
初期費用 0円
月額費用 8~15万円
特徴
・医療ケアが充実
・原則3ヶ月を目安に退所する
入居条件
・要介護1以上

●介護医療院
初期費用 0円
月額費用 8~15万円
特徴
・医療ケアが充実
・終身利用が可能
入居条件
・要介護1以上で医療依存度が高い

●ケアハウス
初期費用 0~数百万円
月額費用 9~17万円
特徴
・生活支援サービスや介護サービスを受けられる
・収入に応じて費用が異なる
入居条件
・一般型:60歳以上
・介護型:要介護1以上、65歳以上で家族からの支援が受けられない、身寄りがない


一方で、上記以外の民間施設といわれる「介護付き有料老人ホーム」「住宅型有料老人ホーム」などは、民間企業が独自に料金を設定して運営しています。

そのため、公的施設よりも料金が高くなることが多く、入居費用を年金だけで賄うのが難しい場合があります。

3. 年金だけでは入れない場合の対策2つ

国民年金だけが収入源という方の場合、入居費用が賄えるのか不安になる人も少なくないでしょう。

そこで、年金収入だけで老人ホームの費用を賄うことが難しい場合にできる対策を2つ紹介します。

 

①生活保護を申請する
自宅での生活が難しく、年金だけでは入居費用を賄うことがどうしても難しい場合は、生活保護を申請するのも1つの方法です。

民間の有料老人ホームでも、生活保護を受給して入居する人もいます。また、生活保護受給者を対象とした料金体系を設けている老人ホームもあります。

年金以外で入居費用を賄う方法がないという方は、お住まいの自治体の福祉事務所(生活相談窓口)に生活保護の申請について相談してみましょう。

②軽減制度や助成制度を利用する
介護保険サービスの軽減・助成制度や自治体独自の助成制度を利用して、自己負担額を抑えるという選択肢もあります。代表的な制度は以下のとおりです。

・負担限度額認定制度(特定入所者介護サービス費)
所得に応じて食費・居住費に負担上限額が定められ、超えた分が介護保険から支給される

・高額介護サービス費支給制度
所得に応じて介護サービス費に負担上限額が定められ、超えた分は払い戻しを受けられる

・高額介護合算療養費制度
医療費と介護サービス費の自己負担分を合算し、高額になった場合は上限額を超えた分が支給される

・自治体独自の助成制度
サービス利用時の自己負担額の助成、居住費の助成など

これらの制度を利用する場合、市区町村窓口への申請が必要です。申請しなければ支給を受けられないため、忘れないようにしましょう。

4. 在宅介護も選択肢になる

施設入居以外に在宅介護という選択肢も検討できます。

在宅介護では、介護保険の支給限度基準額(1ヶ月に利用できる介護保険サービスの上限額)の範囲内であれば、所得に応じて1〜3割の自己負担で介護サービスが利用可能です。

たとえば、要介護3(支給限度基準額は27万480円)のケースでは、支給限度基準額の範囲内で最大限サービスを利用すると、自己負担額は最大で約2万7,000円(1割負担の場合)となります。

具体的な在宅介護サービスの組み合わせの例として、以下のような使い方ができます。

・通所介護:3回/週
・訪問介護:3回/週
・ショートステイ:月1回、3泊4日

なお、支給限度基準を超えた場合は、超えた分は全額自己負担となることに注意しましょう。在宅介護を選択する場合は、担当のケアマネジャーに予算の上限額を伝えておくことも大切です。

5. まとめ

年金だけで老人ホームに入る場合、費用の安い公的施設への入居が現実的な選択です。しかし、年金だけで入居が難しい場合は、生活保護の受給や各種軽減・助成制度の利用を検討しましょう。経済的な負担を抑えるために在宅介護を選ぶのもひとつの方法です。

なお、入居費用について相談できる窓口は、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターです。心配な方は相談してみましょう。

 

 監修者:中谷ミホ

 

イラスト:Freepik ※トップ画面





この記事の提供元
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著者:鈴木康峻

2008年理学療法士免許取得。長野県の介護老人保健施設にて入所・通所・訪問リハビリに携わる。
リハビリテーション業務の傍ら、介護認定調査員・介護認定審査員・自立支援型個別地域ケア会議の委員なども経験。
医療・介護の現場で働きながら得られる一次情報を強みに、読者の悩みに寄り添った執筆をしている。

得意分野:介護保険制度・認知症やフレイルといった高齢者の疾患・リハビリテーションなど

保有資格:理学療法士・ケアマネジャー・福祉住環境コーディネーター2級

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