「特別養護老人ホーム」と「介護医療院」は、いずれも公的な介護保険施設ですが、それぞれ役割や目的が異なります。今回は、ご家族の入所先を探している方に向けて、両者の違いを解説します。

1. 特養と介護医療院の概要

特別養護老人ホーム(特養)は、在宅生活が困難となった高齢者が、常時の介護サービスを受けて生活するための施設です。食事・排せつ・入浴などの介護、機能訓練などを受けられます。

介護医療院は、介護と医療を受けながら長期療養と生活をするための施設です。医療ニーズの高い高齢者向けの施設であり、Ⅰ型とⅡ型の二つの類型があります。

 

Ⅰ型:重篤な身体疾患を有する方、身体合併症のある認知症の高齢者などが対象

Ⅱ型:老人保健施設に相当し、症状が安定している方が対象

2. 特養と介護医療院の違い①入所条件・期間・入所難易度


【特養】
入居条件
・65歳以上で原則要介護3以上の方
・40~64歳で特定疾病と診断された要介護3以上の方
・特例入所が認められた要介護1〜2の方
・常に介護を必要とする方

入居期間
・終身利用が可能

入居難易度
・高い

【介護医療院】
入居条件
・65歳以上で要介護1以上の方
・40~64歳で特定疾病と診断された要介護1以上の方
・高度な医療ケアが必要な方
・長期療養が必要な方

入居期間
・終身利用が可能

入居難易度
・高い


特養は生活の場として機能しており、介護の必要性が高い方を受け入れています。そのため、要介護度も原則3以上でなければ入所できません。入所まで数年待つ場合もあります。

 

入所は申し込み順ではなく、要介護度の高い方や生活困窮者、身寄りのない方などが優先です。

 

一方介護医療院は、高度な医療的ケアと介護を必要とする方を対象としています。しかし、医療機関ではないため、専門的な治療が必要な方は対象外です。

 

また、全国にある介護医療院の施設数は、令和5年12月31日時点で816施設とまだ少ない状況です。このため、入所を希望する地域に介護医療院がない場合も多く、特養と同様に入所の難易度が高いといわれています。

3. 特養と介護医療院の違い②サービス内容

特養と介護医療院で受けられるサービス内容は以下の通りです。

 


【特養】
・日常の介護
・健康管理
・機能訓練・レクリエーション
・認知症ケア
・看取り

【介護医療院】
・日常の介護
・医学的管理・ケア
・リハビリテーション
・認知症ケア
・看取り

特養では、食事・排せつ・入浴などの日常的なケアに加え、日々の健康管理や服薬管理なども受けられます。専門の機能訓練指導員による機能訓練や、レクリエーションも提供されます。認知症ケアから看取りまで、高齢者のケアが充実しているのが特徴です。

一方、介護医療院では、日常的な医学的管理と介護による生活の支援を受けられます。重度の認知症や寝たきりの方が多く入所しています。
また、以下のような医療的ケアを受けられるのも介護医療院の特徴です。

・痰の吸引
・経管栄養(胃ろう含む)
・在宅酸素療法
・床ずれの処置
・検査
・投薬
・注射、点滴など

4. 特養と介護医療院の違い③人員配置

【特養】
・医師:健康管理及び療養上の指導を行うために必要な数
・薬剤師:なし
・看護職員:1以上(入所者3に対して、看護職員または介護職員を配置)
・介護職員:1以上(入所者3に対して、看護職員または介護職員を配置)
・リハビリ専門職:規定なし
・栄養士:1以上
・介護支援専門員:なし(入所者100に対して1以上)
・放射線技師:なし
・生活相談員:1以上(入所者100に対して1以上)
・機能訓練指導員:1以上

【介護医療院】
Ⅰ型
・医師:48:1(施設で3以上)
・薬剤師:150:1
・看護職員:6:1
・介護職員:5:1
・リハビリ専門職:実情に応じた適当数
・栄養士:入所定員100以上で1以上
・介護支援専門員:1以上(入所者100に対して1以上)
・放射線技師:実情に応じた適当数
・生活相談員:なし
・機能訓練指導員:なし

Ⅱ型
・医師:100:1(施設で1以上)
・薬剤師:300:1
看護職員:6:1
・介護職員:6:1
・リハビリ専門職:実情に応じた適当数
・栄養士:入所定員100以上で1以上
・介護支援専門員:1以上(入所者100に対して1以上)
・放射線技師:実情に応じた適当数
・生活相談員:なし
・機能訓練指導員:なし



特養では、手厚い介護や機能訓練に対応できる人員が配置されています。一方で医療的ケアを重点的に行う施設ではないため、医師は常駐していません。

 

一方介護医療院では、長期的な療養生活ができるよう、医師・薬剤師・看護職員・リハビリ専門職・放射線技師といった医療従事者の配置が充実しています。介護医療院はI型とⅡ型で人員配置が異なり、Ⅰ型は医療により特化した人員配置となっています。

5. 特養と介護医療院の違い④費用

月額費用の目安
【特養】9~15万円
【介護医療院】8~15万円

 

いずれも公的施設であるため、入居一時金はありません。
主な費用は以下のとおりです。

・食費
・居住費
・施設サービス費
・日常生活費(理美容代・レクリエーション・日用品費など)
・加算(基本サービスよりも手厚い対応や、人員配置の充実などによりプラスされる報酬)

 

特養は、上記に加えて医療費(医療機関の受診や薬代など)が別途必要です。

介護医療院は、医療ケアにかかる費用が施設サービス費に含まれています。手厚い医療を受けられる分、特養よりも費用が高額になる傾向があります。

 

※公的施設では所得に応じて減免制度を利用でき、上記よりも費用を抑えられる場合があります。

6. 特養と介護医療院の違い⑤居室タイプ・設備

【居室タイプ】
特養・介護医療院ともに、以下4タイプの部屋があります。

 

多床室:2〜4人で利用する、家具やカーテンなどで仕切られた部屋

個室:1人で利用できる部屋

ユニット型個室:共有スペースをいくつかの個室が囲んで配置されたうちの1部屋

ユニット型個室的多床室:壁で仕切られた部屋を個室のようにして生活する部屋

 

個室やユニット型は、よりプライバシーに配慮された設計になっているため、多床室よりも居住費が高めに設定されています。

 

【設備】

【特養】
・居室
・医務室
・食堂
・機能訓練室
・浴室

【介護医療院】
・療養室
・診察室
・食堂
・機能訓練室
・浴室
・医療設備(処置室・臨床検査施設・エックス線装置、調剤所)

いずれも、手厚い介護を受けられるための設備がそろっています。介護医療院は医療ニーズに対応できる設備が充実しており、処置や検査、調剤なども可能です。

7. まとめ

【特養】
メリット
・終身利用が可能
・手厚い介護や機能訓練、レクリエーションを受けられる
・看取りケアを受けられる

デメリット
・待機者が多く、入所までに時間がかかる
・高度な医療ケアは受けられない

【介護医療院】
メリット
・終身利用が可能
・高度な医療ケアと手厚い介護、リハビリを受けられる
・長期療養が可能
・看取りケアを受けられる

デメリット
・施設数が少ない
・特養より費用が高い傾向


 監修者:中谷ミホ

イラスト著作者:freepik



この記事の提供元
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著者:鈴木康峻

2008年理学療法士免許取得。長野県の介護老人保健施設にて入所・通所・訪問リハビリに携わる。
リハビリテーション業務の傍ら、介護認定調査員・介護認定審査員・自立支援型個別地域ケア会議の委員なども経験。
医療・介護の現場で働きながら得られる一次情報を強みに、読者の悩みに寄り添った執筆をしている。

得意分野:介護保険制度・認知症やフレイルといった高齢者の疾患・リハビリテーションなど

保有資格:理学療法士・ケアマネジャー・福祉住環境コーディネーター2級

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