介護保険は、利用者のニーズや介護事業の運営状況などに合わせて、3年ごとに制度の見直しが行われており、2024年は改定の年にあたります。
今回は、2024年度の介護保険制度改正で、利用者が知っておくべき内容とポイントについて解説します。
65歳以上が支払う介護保険料は、年間所得や年金収入に応じ、いくつかの段階に分かれています。
これまでは、9段階が標準的な区分でしたが、今回の改正で13段階に細分化されました。
具体的には、最も高い区分の「年間所得320万円以上」を細分化し、「420万円以上」「520万円以上」「620万円以上」「720万円以上」の4段階が新設されました。
この改正により、所得の多い人の負担額が増える一方で、所得の低い人の負担は軽減され、支払い能力に応じた負担の仕組みがより強化されることになります。
自治体が介護情報を一元的に管理するシステム基盤の整備が行われることになりました。
この新しいシステムにより、自治体や介護事業所、医療機関などが必要な情報を共有できるようになり、利用者に必要なサービスを切れ目なく提供できる仕組みが整います。
また、介護保険の利用者も、介護情報をよりスムーズに確認できるようになります。
今回の改正により、市町村から直接指定を受けた居宅介護支援事業所も、介護予防支援を提供できるようになりました。
この改正の背景には、介護予防サービスを担当する地域包括支援センターの業務負担を軽減する狙いがあります。
一方、利用者にとっては、要支援から要介護に移行しても、担当のケアマネジャーや居宅介護支援事業所が変わらないため、安心してサービスを利用できるというメリットがあります。
2024年8月から、介護保険施設(※1)やショートステイを利用する人の居住費(滞在費)が、1日あたり60円引き上げられます。
※1 介護保険施設:特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院
これにより、所得の低い人が申請をすることで適用される居住費(滞在費)の負担限度額も、1日あたり60円引き上げられます。
ただし、利用者負担第1段階の多床室利用者の負担限度額は変わりません。詳しくはこちらでご確認ください。
上記のような改正が行われた一方で、見直しが検討されたものの、見送られた内容もあります。それらについては、次回の2027年度改正までに結論が出される予定です。
以下では、今回見送られた項目のうち、高齢者の生活に影響を与える可能性のある3つをご紹介します。
①【見送り】ケアプランの有料化
「ケアプランの有料化」については、これまで何度も議論されてきましたが、今回も見送られることになりました。現在、在宅サービス利用者のケアプラン作成費用は全額介護保険から給付され、自己負担はありません。
一方、施設サービス利用者は自己負担しているため、公平性の観点から国が有料化を提言していました。
しかし、ケアマネジャーの業務負担の増加や利用者の介護サービス利用控え、さらに利用者の過度な権利意識助長の懸念など、多くの反対意見が出されたため、先送りとなりました。ただし、次の2027年度改正までには結論が出るようです。今後の動向に注目しましょう。
②【見送り】2割負担の対象拡大
介護サービス費の2割負担対象者の拡大案も、今回実施が見送られました。見送りの理由としては、主に以下の点が挙げられます。
1.物価高騰の中で、年金が主な収入である高齢者世帯の家計負担がさらに増加することへの懸念
2.自己負担額の増加による介護サービスの利用控えの懸念
3.介護サービスの利用控えに伴う介護者の負担増加の懸念
一方、国としては、年々増加する介護費用の財源確保と、介護従事者の待遇改善のためには、将来的には利用者負担の増加は避けられないと考えています。2027年度までに再検討を行うことが決定しています。
③【見送り】要介護1・2の総合事業への移行
要介護1・2の方を介護保険の対象から外し、市区町村の行う総合事業に移行する案も見送られました。
理由としては、移行によってサービスの質の低下や介護事業所の撤退が懸念されたこと、また利用者や業界団体からの反対の声が大きかったことがあげられます。
介護保険は今後も更なる見直しが予定されています。高齢者の生活に影響を与える可能性もあるため、制度がどのように変わっていくのか注視していく必要があるでしょう。
イラスト著作者:freepik
著者:中谷 ミホ
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。
保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級