断水になったとき、トイレはどうするの? 停電で困ることって何? 備蓄品って具体的に何が必要? 災害が起きたときは、ライフラインや流通がストップしてしまう可能性があるため、日頃からの備えがとても大事です。また、新型コロナウイルス感染症が流行して以降は、「避難所に避難する」ことだけが正しい選択肢ではなくなっており、在宅避難の知識もきちんと身につけておく必要があります。とはいえ、避難の経験がないと、いざ準備をしようと思ってもわからないことだらけですよね。そこで今回は、イラストレーターであり、防災士でもある草野かおるさんが、「おうち避難のテクニック」について4コママンガを使いながら紹介します。
新型コロナウイルスが流行した際、世界中でトイレットペーパーの買い占め騒動が起こったのを覚えていますか? もちろん日本も例外ではなく、みんなが一斉に買いだめしたために、スーパーやドラッグストアの棚が空っぽに……。ティッシュペーパーや女性の生理用品も軒並み売り切れとなりました。
しかし、当時SNS上に投稿されていた「トイレットペーパーは中国産が多く、輸入が止まって不足する」という話はまったくのデマで、トイレットペーパーはほぼ100%が国内生産です。多くの人は「自分はデマに踊らされることはない」と思いながらも、「今のうちに買わないと大変なことになるかもしれない」と考え、購入に走ってしまったのでしょう。
経済産業省はコロナ禍になるずっと前から、日常用とは別に1カ月分程度のトイレットペーパーの備蓄をすすめています。理由は、大規模災害への備えです。阪神・淡路大震災では、トイレ不足とともにトイレットペーパーが不足。東日本大震災でも、被災地だけでなく全国的にトイレットペーパーが不足しました。
また、国産トイレットペーパーの約4割が静岡県で生産されているため、南海トラフ地震が発生して静岡県が被災すると、深刻な供給不足に陥る可能性があります。もちろん各メーカーとも非常時への備えは行っていますが、それでも1カ月程度の混乱が予想されています。だからこそ、日常用とは別に「1カ月分の備蓄を推奨」となるのです。
トイレットペーパーの平均的な使用量は、1人当たり1週間で1ロールといわれています。つまり、4人家族の場合は1カ月で16ロールが必要になるため、買い占めパニックを想定して、2カ月分の買いおきがあると安心ですね。かさばるトイレットペーパーの備蓄場所には頭を悩ますところですが、芯なしで長尺のトイレットペーパーを備蓄用にするなどの工夫で、万が一に備えましょう。
キッチン用の袋には、サラサラして半透明な「ポリ袋」と、ツルツルして透明な「ビニール袋」がありますが、ポリ袋の方は熱に強く、湯せんでごはんが炊けます(ただし、0.01㎜以上の高密度ポリエチレン製をお使いください)。鍋を汚さず、おかずも一緒に作れる上に、そのまま開けて食べれば、食器も不要です。一方、ビニール袋は耐熱用にはできていないので、注意してください。ポリ袋やビニール袋は手袋のかわりにもなるため、手が洗えない状況では、感染症予防対策にも重宝します。そのため、手が入る大きさのものを購入しておくとよいでしょう。
ほかの袋ものだと、45Lゴミ袋も便利です。穴を開けてかぶれば、風や寒さよけ、簡易的なレインコートにもなりますよ。水を入れて運ぶ容器にしたり、水が止まったトイレの排泄袋にもなります。
食品を包むのに使うラップは、皿を包んでから食材をのせ、食べ終わったらラップだけ捨てましょう。そうすれば皿を洗う必要がなくなるので、節水につながります。また、においを閉じ込める特徴を生かして、生ゴミをしっかり包むのも賢い使い方。災害時は、ゴミの収集がままならないので、とても役に立ちます。そして、意外に知られていないのが、スマホをラップで包んでもタッチパネルが使えるということ。噴火、豪雨の際に粉じんや雨を防いで、故障のリスクを軽減できますよ。ラップはそのままねじってひねるとひもになり、それを三つ編みすれば、丈夫なロープにもなります。停電で脱水できない洗濯ものを干すのに役立つので、覚えておいてください。
また、アルミホイルは直火に強いので、フライパンに敷いて使うとフライパンを汚さずにすみます。過去の災害では、フライパンにアルミホイルを敷いて、そこに配給のお弁当の中身をのせて温めたという話もありました。
非常時に大活躍するキッチン用品は、多めに備蓄しておくのがおすすめです。購入するときは、ラップは長さがたっぷりあるもの、ゴミ袋は枚数が多いものを選ぶとよいでしょう。
地震のときは、建物が無事でも驚いて転んだり、階段を踏み外したり、落下物につまずいたりしてけがをする危険性が高くなります。夜間の地震で停電すれば、非常用ライトのあるなしが、命にかかわるといっても過言ではありません。
防災用の懐中電灯は、ランタン型やペン型、ラジオつきなどさまざまなタイプが市販されていますが、ぜひ常備してほしいのがヘッドライトです。ただし、頭に装着すると対面する相手にまぶしい光を浴びせてしまうので、使い方には十分注意してください。おすすめの使い方は、ヘッドライトをペンダントのように首から下げる方法です。ライトは照射角度が調整できるものを選んでください。首から下げたライトは、足元や手元など、見たいところを照らしてくれます。何より両手が使えるので、転びそうになったときにしっかり防御できます。荷物も持てますし、お年寄りや子どもの手を引くことも可能です。
最近のヘッドライトはLEDが主流で、明るく電池も長もちします。いざというときに備えて、手に入りやすい単4電池を使用するタイプを選ぶのがよいでしょう。ヘッドライトの数は家族の人数分そろえておくと安心です。ちなみに、首から下げたヘッドライトを通勤時にも利用している私の友人は、「夜道での足元の明かりはもちろん、車や歩行者が自分に気づいてくれるのがよい」といっていました。
さらに、階段のステップや電灯のスイッチ、メガネケースなどに蓄光シール(太陽光や蛍光灯などの光を吸収して、暗くなると発光するシール)を貼っておくと、普段の生活でも小さな明かりが目印になって役立ちます。コンサートを盛り上げるケミカルライトも、災害時には心強い味方になってくれるでしょう。紹介したグッズの多くは100円均一ショップで手に入るので、複数用意しておくと安心ですね。
東京都の調査によると、ペットボトルの購入や水のくみおきで、震災の飲料水を確保している人は65.2%にのぼるそうです。一方、非常用トイレ(携帯トイレ)を準備している人は17.6%となっており、飲料水の備えとは大きな差があります。しかし、災害で断水してしまえば、「トイレが使えない」ことを忘れてはなりません。
災害発生から仮設トイレが設置されるまでは、早くても3日ほどかかります。また、近隣に仮設トイレが設置されたとしても、「落ち着かない」「汚れが気になる」「夜は怖い」などがストレスになり、体調をくずす人が出るケースもあります。そのため、在宅避難の場合は、トイレも自前で用意する必要があります。
ホームセンターなどで売られている「携帯トイレ」は、排泄袋と凝固剤(オムツや生理用品などに使われている素材)がセットになっているものが主流です。使い方は、トイレにかけた袋に排泄し、凝固剤で固めるだけ。可燃ゴミとして捨てることができます(捨て方は、自治体のルールに従ってください)。排泄袋の下に下地袋をかけておくと、後処理も楽になるでしょう。
ただし、携帯トイレは1セットで1回分。1人1日5回トイレに行くとして、家族4人で7日間過ごすには140回分が必要です。1セット100円として費用を考えると、非常用トイレの備蓄に二の足を踏む人が多いのもうなずけますよね。
費用を考えるなら、携帯トイレの代用品としてペットシーツ(犬のトイレ用シート)を使う方法がおすすめです。ペットシーツなら、100円均一ショップで1枚10円ほど。ものにもよりますが、レギュラーサイズで500mLペットボトル1本近くの水分を吸ってくれるので、人間の1回分の尿量にも十分対応できます。使用する際は、45Lのゴミ袋などを排泄袋としてトイレにかけ、中にペットシーツをセットして用を足しましょう。
凝固剤セットは別に用意して、大便時のみ使うなど工夫しましょう。断水時でも、家族が気兼ねなくトイレが使えるように、2週間分ほど備えておいてください。
災害時の食事で「食べ慣れた味」を食べられると、メンタル的にもプラスになります。常温保存可能で賞味期限が長く、常食としても活用できる食品をストックしておくとよいでしょう。
●ゼリー食品:被災時は精神的ショックのために、なかなか食欲がわきません。そんなときは、栄養補給を目的にした、のどごしのよいゼリー飲料があると助かります。ゼリー菓子もおすすめです。
●野菜ジュース:非常時は野菜不足になりがちですが、常温保存が可能な野菜ジュースがあれば、栄養と水分を同時にとれます。スープやカレーに使うとコクが出るので、日常の料理でも重宝しますよ。賞味期限の長い缶タイプのものをストックしておきましょう。
●ロングライフパン:通常のパンは賞味期限が短いので、長期保存(約35~180日)が可能なものを備蓄しておくとよいでしょう。最近は企業ごとに製造方法が工夫され、保存料不使用でもふんわりした食感のものが市販されています。味もバラエティーに富んでいるので、日常食としても活用できます。
●お菓子:お菓子は高エネルギーのものが多く、災害時には貴重な栄養源になります。普段から食べ慣れているお菓子も、賞味期限を見ながら備蓄するとよいでしょう。個別包装であれば、避難時の携帯食にもなります。
災害で火が使えないときに活用できる主食食品としては、水だけでごはんに戻る非常食のアルファ米があげられます。また、通常のインスタントラーメンなら15分程度、乾麺のスパゲティなら3〜6時間ほど水で戻せばやわらかくなります。パスタソースのかわりに、お茶漬けのもとやふりかけなどであえれば、冷製和風パスタになりますよ。
今は、日常食としても活用できる食品が多く市販されているので、好みの食品を探してみてください。なお、介護食などの特別な食品や、アレルギーや食事制限がある場合の食品は、物流の混乱を考えて1カ月分ほど備蓄しておくのがよいでしょう。
著者:草野 かおる(くさの・かおる)
防災士、イラストレーター。
PTA、自治会で16年にわたり防災活動にかかわった経験を生かし、東日本大震災の数日後にブログ配信を開始。防災についての講演会、執筆、SNS配信なども精力的に行っている。著書に『おうち避難のためのマンガ防災図鑑』(飛鳥新社)『4コマでわかる! おかあさんと子どものための防災&非常時ごはんブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。