高齢者と美容は縁遠いように思いますが、キレイでいたい気持ちに年齢は関係ありません。高齢者向けの美容にはさまざまなサービスがあり、外見をキレイにすると体と心に意外な変化が生まれるといわれています。今回は、高齢者に「キレイ」が必要とされる理由をひもときます。ぜひケアラーの皆さんも参考にしてみてください。

1. 気持ちの若返りを後押し、QOLを高める美容サービス

高齢者と話をしていると「年齢を重ねていくと、鏡を見るのが嫌になった」という声を聞くことがあります。鏡を見ることが減り、外見に無頓着になると外出がおっくうになるもの。ずっと家にいると生活は単調化し、何かしようという意欲が下がり、負のスパイラルに陥ってしまいます。そんなときにおすすめしたいのが、高齢者向けの美容サービスです。

「キレイになった自分を見て心が華やいだ」「人に会いたくなった」「明るい色の服が着たくなった」など利用者の感想はさまざま。また、面倒くさいという口癖が減ったり、一日の大半を居室のベッドで過ごしていた方が食堂に足を運ぶようになるなど、外見のアンチエイジングではなく「気持ちの若返り」を目的としているのが特徴です。

超高齢化社会となった現在、ただ長生きするのではなく、より良く生きるQOLを意識した生き方が重視されています。美容を生活に取り入れることは、充実感や幸福感を味わう機会を増やし、QOLの向上につながると期待されています。

気持ちの若返りを後押し、QOLを高める美容サービス

2. 美容サービスの種類と、「快適」がもたらす効果

高齢者を対象とした美容サービスの種類は幅広く、カットを中心としたヘアケアをはじめメイク、エステ、ネイル、ハンドケアなどがあります。介護・看護の有資格者が美容の資格を取って活動していることも多く、その場合、高齢者の心身を熟知しているので要介護度が高くても安心してサービスを受けることができます。

サービスの種類はさまざまですが、肌へのタッチと会話によってもたらされる癒やしは、全ての美容サービスに共通するメリットと言えます。顔や手に優しく触れられると「大切にされている」と感じて自尊心を取り戻すことにつながり、丁寧に話しを聞いてもらい受容・肯定される経験は高齢者の心に快適な記憶として刻まれます。記憶障害が進行した認知症の高齢者は、施術を受けたことは忘れても「○○さんは今度いつ来るの?」と、セラピストの名前は覚えていることがあるそうです。「心地良い時間を与えてくれる人」と過ごした記憶は、単調だった日常に彩りを与えてくれるに違いありません。

美容サービスの種類と、「快適」がもたらす効果

3. 不安やうつが軽減 。心を解きほぐすメイクセラピー

高齢になり人の手を借りる機会が増えると、「申し訳ない」という気持ちが強くなり、長生きに罪悪感を抱えることがあるといいます。迷惑をかけたくなくて人との関わり合いを避けるようになり、施設にいても部屋に閉じこもってしまいがちになります。また、孤立が進むとリフレッシュの選択肢が少なくなり、うつ状態にもなりかねません。

美容サービスの一つに、心理カウンセリングとメイクを組み合わせたメイクセラピー(化粧療法)があります。メイクセラピーではメイク前にフェイシャルマッサージを行うことがあります。肌に優しく触れられることで安心感や幸福感を覚え、不安の軽減効果が期待できます。また、メイクで顔が華やぐと元気だった頃の自分を思い出し、自分らしさの回復につながるともいわれています。周りからの「キレイになったね」という声掛けも有効です。自己肯定感が上がって自分を大事にしようという気持ちになったり、自信がついて外に積極的に出かけようという意欲を刺激し、うつ症状の改善につながるともいわれています。

不安やうつが軽減 。心を解きほぐすメイクセラピー

4. 身だしなみが整うと社会参加への意欲がアップ

朝のヘアセットがキレイに決まると仕事に行くモチベーションが上がり、反対に上手くいかないと出かけるのがおっくうになったことはありませんか? 身だしなみの良し悪しは生活意欲を左右する要素の一つであり、それは高齢者においても同じです。

ふだんはレクリエーションへの参加を断る女性の利用者が、ネイルをした日は参加してくれたという報告もあり、キレイになると気持ちが高揚し、コミュニティーへの参加意欲が高まる傾向があるようです。社会参加を拒む背景には、老いた姿を見られたくない、自信が持てないというネガティブ思考が隠れているのかもしれません。美容はコンプレックスを自信に変え、社会とつながることで会話や体を動かす機会の創出に貢献します。

身だしなみが整うと社会参加への意欲がアップ
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著者:北林あい

介護・ 医療・ヘルスケア分野を得意とするフリーライター。30代で発症した乳がんの闘病中、体は元気になっても気持ちが前を向かず心の整え方に四苦八苦。その経験を機に 、さまざまな喪失体験からの回復をサポートするグリーフケア(悲嘆のケア)を学び、臨床傾聴士(上智大学グリーフケア研究所認定)の資格を有する。現在は、乳がんのピアサポートや自殺念慮がある人の傾聴に従事し、「聴く」と「書く」の両軸で活動中。私生活では80代の母と同居し、守る人がいる幸せと重さを実感する毎日。

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