エステは若い世代だけに向けてのサービスと思うかもしれませんが、今回は高齢者に特化したエステにクローズアップします。最近は人に会うのも外出も面倒くさい……。そんな曇った心を晴れやかにする「介護エステケア」の魅力について、介護エステケア協会会長の古澤由加里さんに伺いました。

1. 「介護エステケア」はどんなサービス? 美容エステとの違いとは?



介護エステケアは高齢者を対象とした、介護保険適用外のエステサービスです。瘦身や美顔といった美容目的ではなく、エステティシャンとの触れ合いを通して、心地良いと感じる時間を過ごしてもらうことを目的としています。「介護エステケア」という名称は、介護エステケア協会が定めたものであり、一般的には「介護美容」「高齢者美容」「シニアエステ」と呼ばれています。

介護エステケア協会では、腕(ひじから下)、脚(ひざから下)、顔のケアを提供し、費用は1時間で3,850円。ペースメーカーへの影響を考慮して美容機器は使わず、さまざまな手技を組み合わせて施術を行います。たとえば、手を細かく動かしてマッサージする「振動法」で血流を促進。人が最も心地良いと感じる秒速5cmでゆっくり皮膚をさする「軽擦法」や、「リンパドレナージュ」などで、デリケートな高齢者の皮膚に負担をかけないよう注意を払います。

体の拘縮(こうしゅく)角度や関節の可動域を考慮し、椅子に座って行う以外に、横になったままべッドを挙上させて行うこともでき、1部位の施術時間は20分程度。週に一度のペースで実施すると、身だしなみの意欲が継続してQOLの向上につながりやすいといわれています。

心地良い時間を過ごしてもらうには、マッサージテクニックだけでなく、エステティシャン のコミュニケーション能力が重要になります。一例をあげると、「肌がキレイですね」といった外見への賛辞だけではなく、手の筋肉のつき具合などから生活の様子を読み取って、「一生懸命、家事をされてきたのですね」と意識して人生を肯定する会話を展開します。また、高齢者がエイジングによる外見の変化を恥ずかしいと感じていると思われる場合、シミやシワに刻まれた歴史を聞き出し、頑張って生きてきた証であることを伝えます。年齢を重ねた自分を受け入れるきっかけを作るのもエステティシャンの技量の一つと言えるでしょう。

2. 高齢者向けエステを選ぶ4つのポイント

さまざまな事業者が高齢者向けエステを提供しています。安全かつ快適にサービスを受けるために、事業者選びのポイントをチェックしておきましょう。

●施術者が「美容」と「介護」の資格を持っている
エステティシャンの資格は民間団体が発行しており、国家資格は不要です。民間資格の種類はたくさんあり、レベルもさまざまです。エステティシャンの技量を知るには、SNSやホームページで経歴や実績を確認しておくと安心です。また美容業界でキャリアを積んでいても、高齢者特有の心身の変化は気づきにくいことがあるため、介護・看護の資格があるとより安心です。

●高すぎず、安すぎでもない適正な価格設定
価格帯は事業者によって異なりますが、1時間あたり2,000~5,000円が適正価格の範囲内といえます。2,000円以下だとキャリアが浅く、モニター価格である可能性があります。逆に5,000円以上ですと、高額な化粧品の使用が付加価値となっている場合があります。サービス内容と価格のバランスを見極めましょう。

●化粧品セールスについての正しい認識がある
認知機能が低下していると自分の意思で化粧品を購入しても、すぐに記憶が曖昧になり、「無理やり買わされた」とトラブルになる可能性があります。心配なときは家族が事前に化粧品の購入を断っておきましょう。

●施術前のアセスメントが丁寧
施術前に家族やケアマネジャー、施設スタッフにアセスメントを行い、利用者の持病の有無、認知症の症状などを把握して施術に入るのが望ましい形です。利用者の状態を知ろうとする姿勢が、安全で良好なコミュニケーションにつながります。

高齢者向けエステを選ぶ4つのポイント

3. 外出や身だしなみの意欲が変化。高齢者向けエステの効果

高齢者向けエステにはどんな効果が期待できるのでしょうか? 心・脳・体の側面からそれぞれの効果を紹介します。

●心への効果
キレイになった顔を鏡で見て、喜びの感情が生まれると、やる気や幸福感を促すドーパミンと呼ばれる神経伝達物質の分泌が活性化されると言われています。自宅にこもりがちだと感情の動きが減り、何事に対しても心が動かず、面倒くさいと思いがち。エステを受けて心が華やぐと感情にスイッチが入り、「せっかくキレイになったから出かけてみたい」「あの人に会いに行きたい」という意欲がわきやすくなります。介護エステケア協会のアンケート調査によると、施術した350件中250人以上が施術後に「やる気が向上した」、100人以上が「外出したくなった」と回答しています。

●脳への効果
顔と脳は近い位置にあるため、フェイシャルエステで顔を刺激すると、血行が促進されて、脳の働きの活性化が期待できます。 

●体への効果
運動の頻度が減ると慢性的に体が冷えて筋肉が緊張し、1日中エアコンの効いた部屋でじっとしていれば特に足元が冷えやすくなります。手脚を優しくマッサージして温まると、副交感神経が優位に働き、筋緊張がほぐれて痛みの緩和が期待できます。

介護エステケアを受けた高齢者からは、「昔の自分に戻ったみたい」「お父さんに見せてあげたい」といった声が聞かれ、身だしなみや外出意欲に変化が見られます。また、家族や施設スタッフからは「夜の眠りが深くなった」「言動が攻撃的だった方がレクリエーションに参加してくれるようになった」などポジティブな変化を実感する声が届いています。

外出や身だしなみの意欲が変化。高齢者向けエステの効果

4. 施術はどこで受けられる? 訪問先をチェック

高齢者向けエステは、施術者が介護施設や自宅に出張して行う訪問型サービスです。介護施設は特別養護老人ホームや小規模多機能ホーム、グループホーム、民間の有料老人ホームなど多岐にわたり、デイサービスやショートステイの利用中にサービスを受けられる施設もあります。一対一の施術のほか、レクリエーションの一環として行うときは5人程度で顔の体操やマッサージを行います。

サービスを利用する際は、提供事業者のSNSやホームページ、施設に置かれたチラシなどから情報収集し、高齢者本人や家族、あるいはケアマネジャーを通して事業所に予約を入れるのが一般的です。介護者である家族のレスパイト(休息)目的で利用することも可能です。

施術はどこで受けられる? 訪問先をチェック

5. まとめ

老いを若さの喪失と捉えると、加齢によりできなくなったことに意識が向き、気持ちがふさいでしまいます。高齢者向けエステは、身体面だけでなく心理面への効果をも期待することができ、現在の自分を受け入れて自信や自己肯定感の回復をサポートしてくれます。心の元気を取り戻したいときに、利用してみてはいかがでしょうか?


監修:古澤由加里さん

古澤 由加里(ふるさわ・ゆかり ※写真下)
介護エステケア協会会長
結婚を機にヘルパーの資格を取り、デイサービスに勤務。高齢者の知恵や手仕事に感銘を受け、高齢者のできることを活かせない現状に疑問に感じる。2015年、介護福祉士の資格を取得して、「介護エステケア」という造語と技術と理論を開発。有償ボランティアで訪問開始。「もっと会いに来てほしい」という声を受け、介護エステケア協会を設立。法人格がある方が活躍の幅が広がると考え、17年に自力でNPO法人の設立手続きを行う。18年介護保険内事業をスタートし、居宅介護支援事業所を設立。21年訪問介護事業をスタート。介護保険内サービスと介護保険外サービスを合わせて提供する体制づくりや、他団体と協力して障害者や高齢者のモノづくり支援を行っている。介護エステケアは全国で年間延べ2964名以上の方へ施術を行っている。https://furusawa19840328.wixsite.com/kaigoesutekea


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著者:MySCUE編集部

MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい人への介護やサポートをする、ケアラーのためのプラットフォームです。 MySCUE(マイスキュー)は、高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。

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