ふと指先に視線を向け、美しいネイルを見るたびに心が弾む。そんな小さなときめきを運び、高齢者の心の健康を支えるのが「福祉ネイル」です。高齢者のネイルケアをもっと身近に感じてもらい、その魅力を知ってもらうため、一般社団法人 日本保健福祉ネイリスト協会代表理事の荒木ゆかりさんに話を伺いました。

1. 高齢者が利用できる福祉ネイルとは?

福祉ネイルは、高齢者、障がい者、病気療養中の人を対象としたネイルケアで、介護施設、就労支援の作業所、回復期のリハビリ病棟で提供されています。美容を目的に爪をマニキュアで彩るだけでなく、施術を通じたスキンシップや会話によるコミュニケーションで気持ちを明るく穏やかにすることを目的としています。

「リウマチで手指の関節が変形し、コンプレックスを持っていた高齢女性が福祉ネイルを行ったところ、ピンクのネイルカラーをお孫さんに褒められて自信を取り戻し、半年後には『ネイルなしで外出するのは恥ずかしい』とまで言っていただくようになりました。男性の利用者様からは、ハンドトリートメントや爪磨きのニーズがあり、『気持ちが明るくなった!』と笑顔が見られました」(荒木ゆかりさん)

介護保険は適用外ですが、自治体が費用の一部を負担する動きがあります。先陣を切った徳島県美馬市では、高齢者外出等促進事業として高齢者福祉ネイルケア実証事業をスタート。特定のデイサービスに限りますが、利用者が安価で福祉ネイルを利用できる取り組みが好評です。

高齢者が利用できる福祉ネイルとは?

2. ユマニチュード®に通じる福祉ネイルの手法

認知症ケアに効果的なユマニチュード®という技法をご存じですか? その人の能力を尊重し、見る・話す・触れる・立つことをケアの中で実践するものです。福祉ネイルは施術の際、利用者の方と目線を合わせ、前向きな言葉を投げかけ、手に触れながらコミュニケーションを図ります。そして歩行が可能な方の場合、立ってネイリストのもとに移動していただきます。福祉ネイルはユマニチュード®と一致する点が多く、その人が持つ能力を引き出す力があると考えられるのです。

また日本保健福祉ネイリスト協会では、心理療法の一つである回想法を模倣した手法を採用。故郷や学生時代についての質問を投げかけてアイデンティティの再形成を目指します。自分の存在価値を認められると、言動に前向きな変化が見られるようになるといわれています。

ユマニチュード®に通じる福祉ネイルの手法

3. データで立証!福祉ネイルで人の心はどう変わる?

2023年11月に日本保健福祉ネイリスト協会が開催した、第4回(学術)研究集会で次のような研究結果が発表されました。

宮城県にある公立黒川病院の回復期リハビリテーション病棟で、福祉ネイルが気分に与える影響を調査しました。この研究では、交感神経が高まると分泌量が増加する唾液アミラーゼという消化酵素に注目。入院中の女性患者25名を対象に唾液アミラーゼ値を調べた結果、福祉ネイル前後では「17.0±4.8kTU/Lから51.3±10.1kIU/L」に上昇が認められました。これは不安やイライラが改善されて、気持ちが前向きに変化したことを表しています。また、マニキュアは施術された本人が鏡がなくても常に目にすることができ、彩りが長く持続するため、長期にわたって精神的な効果が続くことも報告されています。

データで立証!福祉ネイルで人の心はどう変わる?

4. 施設でも福祉ネイルの必要性を実感!

日本保健福祉ネイリスト協会が介護福祉施設の関係者全般を対象に実施したアンケートによると、52件中美容レクリエーションを行っている施設は17.3%。導入事例はまだ少ないのが現状ですが、取り入れた施設においては「利用者様の状態が良くなった」という回答が100%を占めています。その理由として「笑顔が増えた」「美容をきっかけにポジティブな発言が多くなった」「若い頃を思い出すことで思い出話に花が咲く」といった声が報告されています。

「介護業界は人手不足が続き、施設職員は多忙を極めています。利用者様の話をゆっくり聞く時間が充分に取りづらい中で、その隙間を埋めるという意味でも福祉ネイルの必要性が高まることを期待しています」(荒木ゆかりさん)

施設でも福祉ネイルの必要性を実感!

5. サービス内容をチェックして、体の状態に配慮して実施しましょう!

日本保健福祉ネイリスト協会では、カラーリング、ネイルアート、ハンドトリートメント、リペア、ケアを提供しています。急な入院などでネイルオフ(ジェルネイルを落とすこと)が必要になるケースを考慮してジェルネイルは行わず、カラーリングでは除光液で落とせるマニキュアを塗布。ネイルアートでは手描きで季節の花やペットの絵を描き、ハンドトリートメントの際はアロマオイルを使い、血行を促進します。リペアでは乾燥などで割れた爪を修復し、カラーリングに抵抗がある人には爪の表面を磨いてツヤを出すケアを提供します。

認知症でじっとしているのが難しかったり、手の震えが止まらなかったりするケースもあり、安全面を考慮して爪切りやニッパーは使わず、伸びた爪はやすりで整えていきます。また拘縮が強く手を開けない場合は、ゴムボールを握った状態でカラーを施すなどそれぞれに応じたケアが可能。所要時間はカラーリングで20分、ハンドトリートメントだけの場合は10分程度となっています。

「高齢になると『私なんか……』と、ご自身に対して否定的な言葉が聞かれます。福祉ネイルをきっかけに自分を好きになれると、お友達ができたり、新たな楽しみが見つかったりするので年齢を理由に楽しむことを諦めないでほしいと思います」(荒木ゆかりさん)

サービス内容をチェックして、体の状態に配慮して実施しましょう!

6. まとめ

指先がキレイになると自分を好きになり、今の自分を肯定できると積極的に毎日を楽しむ気持ちが生まれます。マニキュアに抵抗があればトリートメントや爪のお手入れから一歩踏み出してみるのもいいでしょう。ネイルケアは贅沢な楽しみではなく、髪を切るのと同じ身だしなみの一つなので気軽に試してみてはいかがでしょうか?

 

監修:荒木ゆかりさん

荒木 ゆかり(あらき・ゆかり ※写真下)
一般社団法人日本保健福祉ネイリスト協会代表理事、ネイルサロンP&B代表
2005年ネイルサロンP&B設立、2015年一般社団法人日本保健福祉ネイリスト設立、官公庁にて福祉ネイリストの職業を広める為のプレゼンなど多数経験。また、各所で身だしなみ講座や美容講座を開催している。
https://fukushinail.jp/



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著者:MySCUE編集部

MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護にあたるケアラーをサポートをするプラットフォームです。 シニアケアをスマートに。高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。

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