赤ちゃんがキッチンなど危険な場所に入るのを防ぐ、ベビーゲートがあります。わが家ではこれを、在宅介護用に応用して使っています。なぜ必要になったのか、どんな使い方をしているかについてご紹介します。
認知症がまだ軽度の頃の母は、デイサービスに持って行く連絡帳や体を拭くタオルなどの荷物を自分で準備していました。しかし認知症の進行とともに、何を持って行ったらいいのか分からなくなってしまったため、ヘルパーさんに準備をお願いするようになったのです。
ヘルパーさんは、デイサービスに持って行く荷物を居間や寝室に置いていたのですが、たびたび荷物がなくなるようになりました。その理由は、母がデイサービスに持って行く荷物と認識できずに、必要のない荷物だと思って片づけてしまうからでした。
さらに荷物を入れるバッグまでなくなるようになり、ヘルパーさんは準備のやり直しに加えて、バック探しに時間を取られるようになってしまったので、母に見つからない場所に荷物を置くようにしたのです。
最初は実家の1階にある客間に荷物を隠していたのですが、母はその荷物を見つけて、片づけてしまうことがありました。そこで今度は母が絶対に入らないであろう、2階に上る階段の途中に、荷物を隠すようにしました。
実家の階段は1階から上って、踊り場を90度曲がるとさらに階段がある構造になっているので、踊り場を曲がった先の階段に荷物を置けば壁で隠れるため、1階にいる母からは見えません。
デイサービスから帰ってきたら、スタッフさんが階段に荷物を隠し、翌日ヘルパーさんがその荷物を回収して洗濯し、新しいタオルや着替えを準備する運用にしました。この運用に変更したおかげで、ヘルパーさんがバック探しに時間を取られることはなくなったのです。
母はシャルコー・マリー・トゥース病という、手足の筋肉が萎縮する難病を抱えています。外出する際は歩行介助が必要ですし、家の中は壁伝いで何とか歩けるレベルなので、2階には上らないと思っていたのですが、ある日階段に隠したはずの荷物がなくなっていたのです!
荷物がなくなった理由を探るため、わたしは実家に設置してある見守りカメラの映像を確認しました。すると母はデイサービスのスタッフさんが階段に荷物を隠す姿を覚えていて、スタッフさんが帰ったあとに両手をついて階段を上って荷物を取り、片づけていたのです。
母が荷物へのこだわりが強いことは分かっていましたが、まさかそこまでするとは!
もしもひとり暮らしの母が誤って階段から落ちてしまったら、骨折だけでなく命に関わる大きな事故につながるかもしれません。また母と一緒に住んでいないので、何かあってもすぐには駆けつけられません。
デイサービスのスタッフさんからも、お母さんが階段を上って荷物を取ろうとすることがあって、転落する可能性があるから早急に対策したほうがいいと言われ、新たな対策が必要になったのです。
最初は福祉用具専門相談員さんを実家に呼んで、2階に上らないようにするための福祉用具はないか聞いたのですが該当するものがなく、DIYで扉や柵を設置するしかないと言われました。
しかしわたしはDIYが得意ではないので、簡単に設置できる扉や柵を探し始めたのです。
最初は階段の転落防止の柵がないか、介護用品を中心にインターネットで探しました。しかしベッドから転落を防止するベッドガードばかり出てきてしまい、わたしの希望に叶うものは見つかりませんでした。
介護用品で欲しいものが見つからなかったときによく使う手として、ベビー用品のカテゴリも探すようにしています。赤ちゃんに触って欲しくないものや危険なものは、認知症の人にも触って欲しくないものであることが多いためです。
ベビー用品のカテゴリをインターネットで探していたところで偶然見つけたのが、ベビーゲートでした。これを1階の階段の入口に設置すれば、母は2階に上れなくなります。
ただベビーゲートが簡単に開いてしまうと、母はゲートを開けて2階に上る可能性があるので、ゲートが開かないロック機能がついたものでないといけません。鍵を使ってロックするタイプだと紛失したときに困るので、鍵を使わずにロックできるものを探しました。
Youtubeを見ていたところ、マグネットで自動ロックされるオートクローズ機能がついたベビーゲートを見つけたので、すぐにネットで購入し、自分で階段に設置しました。ベビーゲートの価格は5000円程度で、設置は30分くらいで終わりました。
下の写真を見ると分かるのですが、レバーを解除しないとベビーゲートは開きません。母はレバーの開け閉めができないので、2階に上ることはなくなりましたし、転落の心配もなくなりました。
本当はベビーゲートなど設置せず、母に自由に動きまわってもらったほうがいいと思っているのですが、骨折や転落事故を起こしてしまったら、後悔してもしきれません。まさかベビーゲートが在宅介護にも役立つとは思っていませんでしたが、設置して本当によかったです。
著者:工藤 広伸
介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。2012年より岩手で暮らす認知症の母を、東京から通いで遠距離在宅介護を続けている。途中、認知症の祖母や悪性リンパ腫の父も介護し看取る。介護に関する書籍の執筆や、企業や全国自治体での講演活動も行っている。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。著書に『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』(翔泳社)、『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)ほか
介護ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/
音声配信voicy『ちょっと気になる? 介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442