終活で話題になることが多い「エンディングノート」ですが、買ってはみたけれど引き出しの奥で眠ったままになっていませんか。まずはエンディングノートを書く目的を理解し、さらに書くべき内容、書いてはいけない内容についても解説します。家族で話し合いながら、いざというときに役立つエンディングノートを作成しましょう。
終活と聞いて最初に「エンディングノート」をイメージする人は少なくないと思いますが、そもそも何のために書くのでしょうか。まずはエンディングノートを書く目的を解説します。
エンディングノートは、自分に万が一のことがあった際に家族が困らないように必要な情報を書いておくものです。もし何も情報が残っていなければ、どの場所に、どのくらいの財産があるかわからず、相続手続きに手間取る可能性があります。葬儀を行うにしても誰を呼んでいいかわからず、家族が右往左往するかもしれません。特に親子が離れて暮らしていると、親の交友関係や経済状況を子どもが把握しきれないのでエンディングノートの必要性が高まります。書く本人の人生の振り返りではなく、あくまでも家族のために書くということを覚えておきましょう。
親自身が自主的にエンディングノートを書いてくれたら話は早いですが、終活に無関心な親もいるでしょう。子どもがエンディングノートをすすめると、財産目当てと誤解されて拒否されてしまうこともあります。そこで前向きかつ、自然な流れでエンディングノートを書いてもらうためのアプローチ法を紹介します。
・第三者にすすめてもらう
子どもの言うことは聞かなくても、親しい関係の第三者に「私も書いてみたけれど、あなたもやってみたら?」とすすめられたら素直に耳を傾ける場合があります。関心を持ってもらうには、エンディングノートに関する雑誌や新聞の記事を見せるのも有効です。
・誕生日にアプローチする
誕生日プレゼントにエンディングノートを渡し、末永く元気でいてほしいという思いととも に、より良い未来の準備として書くことをすすめてみます。その際、いきなり財産情報を書かせると拒否感を生むことがあるので、介護や医療情報から書き始めてもらうようにすると気持ちのハードルが下がりやすくなります。
・終活セミナーに誘う
「近所で開催している終活セミナーに行ってみない?」と一緒に学ぶ気持ちで親を誘ってみます。セミナーを聞いてエンディングノートの必要性に気づいてもらうのも有効な一歩です。
どうしても親の気持ちを動かすのが難しければ、子どもが親に必要な情報をヒアリングして書き留めておくのも選択肢の一つです。親子仲が良い場合に限られますが、年を重ねるうえでたがいの不安を減らすためと誠意を伝えながらトライしてみましょう。
次は、エンディングノートに書くべき項目について考えてみましょう。記載するのは主に「事実情報」と「要望」の二種類ですが、できる限り事実情報に絞って書くのがポイントです。ここでは書くべき項目を具体的に紹介します。
・基本情報
氏名、生年月日、住民票の住所、本籍地、戸籍の筆頭者と続柄。
・医療情報
「病名の告知、余命宣告、延命治療を希望するか、しないか」についてきちんと意思表示をしておきます。これらは要望に該当しますが、デリケートな項目だからこそ家族に迷いや後悔を与えないために記載しておく必要があります。希望する・しないに加えて、その「理由」を明記するのがポイント。家族と意思の相違があっても、思いが伝わると本人の意思を尊重しようという気持ちになる。
・財産と保険
どこに、どんな財産を保管しているかという情報は、相続手続きをスムーズに行うために必須。金融資産は金融機関名・支店名・種類・口座番号を記載し、有価証券は証券会社名・種類・銘柄や名称を書いておくこと。保険は保険証券番号、保険種類のほかは、保険証券の保管場所を記入しておきます。受取人や期限などは不要です。
・不動産
不動産情報は、役所から届く固定資産税の納税通知書を見れば確認が可能。しかし 相続手続きで混乱しないように自宅以外に不動産を所有している場合は、住所と不動産の種類を記載しておきます。
・趣味嗜好
親の趣味嗜好を子どもが熟知しているとは限らないので、自分の好きなもの、苦手なもの、やってみたいことを明記しておきます。意思表示が難しくなった際に希望する環境を整えやすくなり、手術前に行きたい場所に行くことがかな ったり 、認知症で記憶力が衰えても悔いのない最期を迎えることができます。
・葬儀とお墓
遺影用写真の保管場所、宗旨・宗派・菩提寺などの連絡先、墓地管理者の連絡先、墓地の規約(契約書)、年間管理料や今まで渡していたお布施の額を記載しておきます。
・訃報時の連絡先
知らせたい人の氏名、連絡先、関係、知らせなくてもよい人の名前を記載しておきます。
エンディングノートは事実情報に絞り、要望を書くのは控えるべきと前の章で述べました。理由は、本人が書いた要望が家族不和の原因になることがあるからです。例えば「介護は近くに住む次女にお願いしたい」と書いたとします。すると、ほかのきょうだいは「頼まれたのは次女だから」と介護に関わるのを嫌がり、揉め事に発展する可能性があります。どうしても思いを伝えたい場合は、家族と話し合いながら作成することをおすすめします。ここでは、エンディングノートに書いてはいけない項目をチェックしましょう。
・介護する人
家族の事情や親への思いはさまざまなので、親が安易に介護者を指定しない。
・葬儀の具体的なスタイル
葬儀を行う人に任せる方が無難です。ただ、祭壇の色合いや使ってほしい花、ひつぎの中に入れたいものがあれば書いておくと良いでしょう。
・喪主の指名
指名された人への負担と家族間の意見の相違を避けるため、残された家族に任せる。
・財産の分け方
財産分与については法的効力のある遺言書に記載しておきましょう。
・預貯金の残高や有価証券の評価額
金融財産が多いとわかれば、相続人が自分の相続分を確保したいがために親を施設に入れないなど、理不尽なことになりかねません。
・カード類の暗証番号、スマホ・PCのパスワード
暗証番号やパスワードは、防犯対策として記載場所のヒントのみ記入し、情報は別の場所に保管しておきましょう。
・通帳・キャッシュカード・銀行印の保管場所
盗難のリスクを考えて、信頼できる家族にだけ口頭で伝えておきましょう。
上記項目の記載欄を設けたエンディングノートもありますが、すべての欄を埋める必要はありません。必要ない項目は空欄にしておき、逆に足りない部分は自分で補い、家族が困らないエンディングノートを作成しましょう。
エンディングノートに財産分与の方法を記載したことで、遺言書を作成したと安心していませんか? しかし、法的効力のある遺言書を作成するには、本人が遺言の全文、日付、氏名を手書きして、押印(スタンプ印は不可)する必要があります。したがって、自分の意思を書いただけでは法的効力は発生しません。直筆で日付、氏名、押印があれば、それがエンディングノートであっても遺言書になり得ますが、本人が亡くなったあとも家庭裁判所で遺言書の検認としてエンディングノートを持参する必要があります。家族の揉め事になりやすい財産分与に関わることはエンディングノートに記載せず、遺言書は遺言書で別に作成することをおすすめします。
エンディングノートは、自分に万が一のことがあった際に家族が困らないように事実情報を記載するものです。「こうしてほしい」という書き手の希望が強いと、残された家族を困らせることがあると覚えておきましょう。
参考:『1000人の「そこが知りたい!」を集めました 人に迷惑をかけない終活』明石久美監修(オレンジページ)
著者:明石久美(あかし・ひさみ)
明石行政書士事務所代表。相続・終活コンサルタント、行政書士、ファイナンシャル・プランナー(1級・CFP)、葬祭アドバイザー、消費生活アドバイザーほか。遺言書作成、おひとりさま準備、相続手続きなどの相続業務を17年行っており、講師歴は19年。葬儀、墓などにも詳しいため、終活も含めたセミナーを全国で行うほか、メディア出演、執筆・取材等を通じた情報発信も行っている。著書に『読んで使えるあなたのエンディングノート』(水王舎)ほか多数ある。