葬儀の形式が多様化する昨今、何も決めずに亡くなった場合、家族間で意見がまとまらず、葬儀の準備が進まないことがあります。また、お墓を持っている人、持っていない人、いらない人など状況はさまざま。自分の意向だけを押し通さず、ほかの家族も納得する弔いの形を話し合っておくために、役立つ知識と話し合うポイントを紹介します。
元気なときに葬儀の話をするのは、縁起が悪いとはばかられるかしれません。しかし、別れは誰にでも訪れるからこそ、悔いなく送り出せるように、生前に本人と家族の意向をすり合わせておく必要があります。その際に大切なのは、「家族が後悔しない葬儀」を前提に話し合いを進めることです。
最近は規模と時間を縮小したお金をかけない葬儀が注目され、特に団塊の世代は家族に迷惑をかけまいとして、コストを抑えた葬儀を望む傾向が強くなっています。故人の遺志を反映してコスパ重視の葬儀を行ったとしても、参列した親戚から「こんなお葬式では成仏できない!」と文句を言われるかもしれません。覚えておきたいのは、嫌な思いをするのは残された家族であるということ。それを念頭に置き、参列者に「いいお葬式だったね」と言ってもらえる葬儀のやり方を話し合うようにしましょう。
次は、家族と話し合って決めておきたい内容を見てみましょう。主に「葬儀の目的」「参列してほしい人」「祭壇装飾や仏衣」の3つを決めておくと、葬儀を組み立てやすくなります。
・葬儀の目的
「参列者に生前の感謝を伝えるため」「供養のため」など、目的がはっきりすると後悔しない葬儀を実現しやすくなります。
・参列してほしい人
名前と連絡先をエンディングノートにリストアップし、あわせて生前の関係性を記載しておくとスムーズです。参列者の数が多ければ「一般葬」に、少人数なら「家族葬」になり、参列者の人数が把握できれば葬儀のスタイルも自ずと決まってきます。
・祭壇装飾や仏衣
祭壇のテーマカラーや好みの花を決めておきます。ただし、香りの強い花など葬儀に適さない種類もあるので事前に確認を。仏衣は白無地などの一般的なもの以外に、生前気に入っていた服やエンディングドレスを着せることも可能。棺に入れる副葬品は火葬の妨げになるものはNGです。
弔辞をお願いする人は、先方の意向を考慮する必要があります。また実際に葬儀を行うときに相手が元気でいるとは限りません。お願いしたい相手がいる場合、「可能であれば……」という言い方で伝えておくといいでしょう。
参列者の人数が決まると、葬儀のスタイルが決まってくると前述しました。ここでは葬儀の種類をチェックして、希望に合うスタイルを検討してみましょう。
・一般葬
故人と面識がある人だけでなく、関係者に広く参列をお願いして見送るスタイル。
・家族葬
故人と面識がある人だけで見送る少人数の葬儀。家族のみに限らず、親戚や親しい友人が参列する場合もある。
・一日葬
通夜を省略して葬儀を一日で執り行うスタイル。
・直葬
通夜も葬式もせず火葬のみを行うもの。故人にお別れを伝える時間が充分に取れないというデメリットがあります。
・自由葬
宗教に囚われず、自由に行う葬儀のこと。読経や焼香をしないケースもあります。
・偲ぶ会、お別れ会
葬儀後、別日にホテルやレストランで故人を懐かしみ、お別れをする時間を設けるスタイル。会費が香典より高くなり、拘束時間も長くなることがあるため、参加者への配慮が必要です。
参列者を何人呼び、どの形式の葬儀にするかは、予算だけでなく見送る人が納得するかを基準に決めていきます。参列者が少ない家族葬にして予算は抑えられても、頂きものの花が少なければ祭壇が殺風景で寂しい印象になりかねません。コスパ重視の末に「後悔」が生じないように話し合いを進めましょう。
亡くなってから葬儀の日までは時間が短く、遺影に使う写真の保管場所がわからないと、家族は写真探しにあわてふためくことになります。そうならないように遺影の保管場所をエンディングノートなどに明記しておくと安心です。遺影写真をスマートフォンで撮影している場合は、写真フォルダから取り出せるように家族にパスワードを教えておく必要があります。
遺影にどんな写真を選ぶかは自由ですが、亡くなった人を思い出してもらうには、その人らしい自然な姿の写真が望ましいといえます。最近は写真スタジオでの遺影撮影も浸透してきたようですが、過度な加工や修正が入った写真は、その人らしさが失われてしまい、参列者は違和感を覚えるかもしれません。また本人と家族では、よいと思う写真が違うことがあるので、複数枚の写真を用意して家族に選んでもらうと、故人の面影を偲びながら送ることができます。
先祖代々続く「一般墓」は、お墓を引き継いでいる人と墓地の管理者の許可があれば入れます。「夫の家のお墓に入りたくない」というケースは、慣習や親族の意向によるので希望がかなわないこともあります。
お墓の承継者がいない、遠方でお墓参りに行けない、お墓を持っていないという場合は、寺院や霊園などが遺骨の管理と供養を行う「永代供養の墓」という選択肢があります。永代供養の墓には、ほかの遺骨と一緒に合祀される「合祀墓・合葬墓」、屋内に遺骨を収める「納骨堂」、樹木を墓標とする「樹木葬」があります。永代供養といっても遺骨を無期限で管理・供養してもらえるわけではなく、契約期間があります。7回忌、13回忌、33回忌、50回忌を区切りとするところが多く、契約期間が終わると遺骨は合祀墓に移されます。子どもの代まで管理してもらうなら相応の期間を定め、その期間に必要な管理費などを残しておきましょう。
お墓を作らない弔い方には、遺灰を許可された海や山に撒く「散骨」があります。また故人を近くに感じたいという思いから、遺骨を自宅などに保管する「手元供養」を選ぶケースもあります。
最近は、「参列者を呼ぶつもりがないから葬儀を希望しない」「管理が大変だからお墓はいらない」という人も以前より増えています。葬儀を希望しない場合は、火葬だけで済ませる「直葬」という選択肢があります。直葬は、遺体を火葬炉で火葬して終了となります。日本では、原則亡くなってから24時間を経過しないと火葬できず、その間は葬儀社や斎場などの安置室で遺体を安置しておきます。時間になったら安置所から火葬場に遺体を移動させて、火葬炉へ直行するのでお別れの時間が取れません。きちんとお別れをしたいときは、自宅に安置する方法があります。納棺師に来てもらい身体をきれいに整えてもらい、メイクなどで生前のお姿に近い状態にしてもらったり、一緒に納棺したりなど、納棺の儀を執り行うと気持ちの区切りがつけやすいかもしれません。
葬儀もお墓も必要ないという場合、火葬した遺骨を一切拾わず火葬場で処理してもらう「ゼロ葬」があります。火葬後の収骨方法は地域によって異なり、東日本は遺骨をすべて拾い上げて骨壺に収めますが、西日本では遺骨の一部のみを収骨します。「ゼロ葬」はこのような風習とは異なる葬儀の新たな形といえます。しかし現時点でゼロ葬を執り行える斎場はほとんどなく、実現は難しいのが現状です。
昨今は葬儀の省略化、簡略化が目立ちますが、お金をかけないことが家族のためになるとは限りません。家族が嫌な思いをしない葬儀を念頭に、参列した人が故人を偲び、気持ちの区切りをつけられる葬儀の形を家族で話し合ってみましょう。
著者:明石久美(あかし・ひさみ)
明石行政書士事務所代表。相続・終活コンサルタント、行政書士、ファイナンシャル・プランナー(1級・CFP)、葬祭アドバイザー、消費生活アドバイザーほか。遺言書作成、おひとりさま準備、相続手続きなどの相続業務を17年行っており、講師歴は19年。葬儀、墓などにも詳しいため、終活も含めたセミナーを全国で行うほか、メディア出演、執筆・取材等を通じた情報発信も行っている。著書に『読んで使えるあなたのエンディングノート』(水王舎)ほか多数ある。