「仕事と介護の両立という日常」を安全に長く続けるために、働く介護者は自分が置かれている身の回りの3つの環境、「家庭の環境」「職場の環境」「自分の心身の健康」を最適化する必要があり、前回の記事では、「家庭の環境」を整備する方法を解説しました。今回は、「職場の環境」「自分の心身の健康」を最適化するポイントを、株式会社ワーク&ケアバランス研究所代表取締役の和氣美枝さんに解説していただきます。

1. 介護離職しないための「職場の環境」の最適化とは?

家族が要介護状態にある場合、日常生活動作のサポートには関わらなくても、家族にしかできないサポートもあります。例えば、家族や親族が何らかの理由で救急搬送されたら、多くの人は仕事の手を止めて、上司にその旨を報告し、早退して病院に駆けつけるのではないでしょうか。

また、家族が搬送された病院が飛行機や新幹線を使って移動する距離にある場合は、その日は仕事を全うして、翌日に会社を休み、家族のそばに駆けつける人も少なくないでしょう。この早退や休みは、恐らく年次有給休暇で対応することが多いと思います。

一命をとりとめたら、必ず退院があります。退院後の生活に何らかのサポートが必要になるのであれば、それは入院中に家庭環境の整備をします。病院の相談室への訪問や役所の手続き、地域包括支援センターでの相談などは主に平日の日中に行われることが多くなります。その場合もまた年次有給休暇を使わなくてはならないのでしょうか。

介護離職しないための「職場の環境」の最適化とは?

2. 目的に合わせて、6種類の制度を活用しよう

事業主に雇用されている労働者であれば、育児介護休業法で規定されている介護休暇のほか、全部で6種類の制度を活用することができます。目的に合わせて公的な制度を使い分けて、介護期における労務提供義務を果たします。基本的な考え方は「就業時間内は就業に専念する」です。しかしながら、家族にしかできないことや、諸事情で家族が直接的な介護に関わらざるを得ない時もあります。そんな時は、労務提供義務が全うできなくても、みなさんの勤続年数に影響のない休みの取り方や、働き方の選択ができる公的な制度を利用しましょう。6種類の制度を下記に紹介します。

①介護休業
仕事に集中するための家庭環境の最適化を図る、いわゆる介護体制の構築ために活用する、一定期間のまとまった休業です。くれぐれも介護そのものに専念するために活用することはお控えください。介護休業中は労務提供義務が消滅します。対象家族1人につき、3回まで通算93日まで申請することができます。休業中は無給ですが、復帰後に申請すれば介護休業給付金を受け取ることができます。介護休業を3回に分けて申請する例としては、1回目の申請は「介護の初動期のてんやわんや時期に家庭環境の最適化のために活用」し、2回目の申請は、「対象者の状態変化にともない、家庭環境の最適化を大きく見直す時」に、そして最後は「お看取り時期に使う」などの使い方もあります。

②介護休暇
スポット的にまたは一時的に、直接的な介護も含む、介護やお世話、通院同伴や役所手続きなどを行う時に使う休暇です。突発事態で、家族が介護をせざるを得ない状況の場合は、当日、口頭による申請でも可としています。対象家族1人につき年間5日、対象家族が2名以上の場合は年間10日を1日または時間単位で申請することができます。

③所定労働時間の制限
就業規則において決められた就業時間以上の就労、つまり残業を免除してもらうことのできる制度です。

④時間外労働の制限
働き方改革によって、時間外労働の制限がありますが、それをさらに1ヶ月24時間、1年で150時間までとすることができます。

⑤深夜業の制限
いわゆる「夜勤」の免除です。午後10時~午前5時の間の就業を免除できる制度です。

⑥事業主が講ずべき措置
短時間勤務、フレックス勤務、始業終業時刻の繰上げ繰下げ、またはそれらに準ずる助成の4つの措置のうち、業種業態や会社の経営判断によって1つ以上を選んで採用しなくてはならない、と法律で決まっています。

上記の③から⑥は定期的に要介護者の介護に関わる場合に使うことを目的とした制度です。これらの制度を活用しながら、働き方の工夫をして仕事と介護の両立をします。働き方の選択肢はあっても仕事は一人で行っているわけではありません。一緒に仕事をしている仲間や求められている業務を考慮して働き方の工夫をします。従って、介護離職しないための職場環境の最適化は一人で行わず、上司や人事部と話し合いをしながら、進めていくことが大事です。

なお対象家族およびその状態も法律で規定されています。対象家族の範囲はあなたを基準に、父母、祖父母、きょうだい、事実婚を含むパートナー、子ども、孫、義父母です。同居や扶養の条件はありません。さらに、その対象家族が負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態にあれば、各種制度の申請ができます。高齢者だけではなく、子どもの障害や医療的ケアが必要な時の介護にも活用できます。ただし、上記の①から⑥は雇用条件によって申請できない場合もありますのでご注意下さい。

目的に合わせて、6種類の制度を活用しよう

3. 最も大切なのは、「自分の心身の健康管理」

仕事と介護の両立という生活を送るために最も大事なことが「自分の心身の健康」です。心も体も健康でなければ、仕事も介護もプライベートも何もかもうまくできません。しかしながら、介護が身近にある生活をしていると、要介護者が不憫でならない、要介護者がかわいそうという思いが芽生えることがあります。

また、周りからも「あなたより要介護状態になってしまった家族の方がつらいのよ」と言われると、「確かにそうかもしれない」とマインドコントロールされて、自分の心の痛みや苦しみにふたをするようになることがあります。しかし、無自覚なストレスほど怖いものはありません。前触れなく、ある日突然、爆発するのです。これはあなただけではなく、要介護者を支える家族全員に言えることです。

自分の心や体が疲れていることに気づいてほしい、そしてもはや無自覚ならば、「もう少しできる」「まだ大丈夫」というような心の声が聞こえたら、自動的に距離をとって心も体も休める、というルールを作ってもらいたいと思います。

自分の心の声に気づけないのであれば、心の声を吐き出す機会を作りましょう。それは、誰かと話をするということです。ランチ時に同僚と話をするだけでもよいですし、会社に相談窓口等があるのであれば積極的に活用してほしいと思います。相談ごとがなくてもよいのです。思いを吐露するだけで心の健康が保てることもあります。そして、睡眠時間も大事です。眠れなくても横になるなど、体を休めることも大事です。

心も体も自分でコントロールすることが難しくなってしまったのであれば、医療機関に頼ることも必要です。

最も大切なのは、「自分の心身の健康管理」

4. まとめ

介護と仕事を両立するための知識について紹介いたしました。親の介護状態や家族の都合で仕事を辞めなければならない人も少なくありません。しかし、「働き続けたい」という気持ちがあるのなら、介護離職以外の選択肢を検討した方がよいと思います。

ケアラーにとって大切なのは、「一人で考えないこと」「相談先をもつこと」です。また、自分が介護に対しての悩みを打ち明けることで、ほかのケアラーにとって役立つ情報になったり、精神的な支えになったりすることもあります。あなたの経験がきっと誰かのためになるときがくると思います。

次回は、介護離職をさせないために、同僚や上司ができることを解説します。

この記事の提供元
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著者:和氣美枝(わき・みえ)

一般社団法人 介護離職防止対策促進機構 代表理事。株式会社ワーク&ケアバランス研究所 代表取締役。1971年、埼玉県生まれ。大学を卒業後、マンションディベロッパー業界で15年間、マンションの企画や現場管理などに従事。在職中の32歳の時に母親が精神疾患になり、38歳で「介護転職」を選択。2013年に「働く介護者おひとり様介護ミーティング」という介護者のコミュニティーを開始。2014年には「ワーク&ケアバランス研究所」(2018年に法人化)という屋号で活動を始め、2016年には一般社団法人介護離職防止対策促進機構を立ち上げる。
研修や個別相談のご依頼は株式会社ワーク&ケアバランス研究所までお問合せ下さい。
https://wcb-labo.com/

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