高齢のご家族の「見守り」で最も大切なのは、本人の尊厳を保ちながら、安全と健康を確保すること。さらに社会的なつながりを維持し、孤立しないための配慮が必要です。また、見守る側のストレス軽減も重要です。たとえ高齢の親御さんが認知症でも、専門的な支援を活用することで一人暮らしを続けることができるのです。
高齢の家族の見守り」と言っても、「一人暮らし」「高齢者のみの世帯」「日中独居」などさまざまなケースがあります。高齢の家族がどんな状況であっても、ご本人の”尊厳を保持”した見守りをすることが重要です。そこで、1982年に福祉の先進国であるデンマークで提唱された『介護の三原則』(※1)という考え方を「見守り」にも取り入れてみてはいかがでしょうか?
『介護の三原則』とは、「生活の継続性」「自己決定の尊重」「残存能力の活用」という3つの基本理念をベースにした考え方です。これらを家族の見守りに適用させると、ポイントは以下のようになります。
①生活の継続性
住み慣れた生活環境や生活リズムなどを変えず、それまでの生活を継続できるようにサポートすること。「見守り」において、見守る側の都合で強引に生活環境やそれまでの習慣を変えることは望ましくありません。
②自己決定の尊重
介護やシニアケアを必要とする人自身が生き方を決め、介護者(ケアラー)はその決定を尊重すること。「見守り」において、見守られる側の気持ちに寄り添い、望む生活や困り事を聞いた上での見守り方を考えます。
③残存能力の活用
介護者(ケアラー)の支援は最低限に留め、介護やシニアケアを必要とする人に残っている能力を最大限に生かすこと。先回りをして介護やシニアケアを必要とする人を過保護にするのではなく、現状でできていることを大切にしたサポート体制を構築します。
高齢者の行動を制限し自由を奪う「監視」ではなく、『介護の三原則』の基本理念をベースとした高齢の家族の「見守り」をすることを心掛けましょう。
※1 デンマーク(医療経済研究機構 厚労省)
東京消防庁は、令和3年中に管内で発生した日常生活における事故(交通事故を除く)で約12万3,000人が救急搬送された人のうち、半数以上が高齢者(65歳以上)だったというデータ(※2)を発表しています。一番多い原因は「ころぶ」で、単に転ぶだけでも年齢が高くなるほどケガにつながるリスクも高まることが分かります。ころぶ場所の5割以上が「住宅内」。見守りには段差の軽減やそのためのサポートなど、高齢者が家の中でころばないようにする工夫が求められます。
総務省が令和3年に発表したデータでは、住宅火災による年齢階層別死者数(放火自殺者などを除く(※3)のうち、高齢者の占める割合は約7割に達し、その割合の増加が予想されると警鐘を鳴らしています。火災が発生しにくい器具への交換や室内の整理整頓、火災が発生した際に周りや家族に知らせるITを活用したサービスなどによる見守りは、高齢家族の命を守ることにもつながります。
また近年の酷暑による影響も無視できません。東京23区の令和5年夏(6~9月)の熱中症死亡者のうち、約9割が65歳以上の高齢者であったこと、そしてそのうち多くの方がエアコン未使用(設置のない場合および故障の場合も含む)であったことがわかっています(※4)。高齢になると体温調節機能が低下し、暑さやのどの渇きを感じにくくなることに加え、エアコンの使用に抵抗を感じる方が多く、気が付いたときには手遅れになるケースが後を絶ちません。ここでもITを活用したサービスなどによる見守りで室内温度の管理やエアコンの適切な使用を促しましょう。
高齢者が健康的に生活する条件の1つに、栄養バランスの取れた食事が挙げられます。ところが一人暮らしの高齢者は、買い物や料理をすることが難しくなり、食事を抜いたり、簡単なものだけで食事を済ましてしまいがちです。それが低栄養を引き起こし、要介護状態や寝たきりの原因になってしまうことがあります。特に高齢家族が遠方に住んでいる場合、食生活を管理することはより難しくなります。そのような事態になる前に、栄養バランスが考えられた宅配食を利用するなど、なんらかの対応を検討してみましょう。また、宅配食を選ぶ際は、安否確認も含めて必ず利用者に手渡しするような業者を選択するようにしましょう。このような業者は、利用者に何か異変があれば業者から家族に連絡がいくため、見守りの役割も果たしてくれます。1日に1回でも外部の人に会うという機会を作ることも見守りにおいて非常に重要です。
※2 東京消防庁〈安全・安心〉〈トピックス〉〈救急搬送データからみる高齢者の事故〉 (tokyo.lg.jp)
※3 「高齢者の生活実態に対応した住宅火災対策の在り方に関する検討部会報告書」
※4 東京都監察医務院 令和5年夏の熱中症死亡者の状況(東京都23区・速報値)
介護の現場では、言葉以外の表情や視線、姿勢や身なりといった非言語コミュニケーションによる観察も、高齢者の状態を判断する材料として重要視されています。
たとえば、離れて暮らす高齢家族に毎晩電話をしていても、相手の情報は声だけなので非言語コミュニケーションによる観察はできません。高齢家族が遠方に住んでいる場合などは、携帯電話のテレビ電話機能などを活用した「見守り」を検討してみましょう。高齢家族が電子機器を使いこなせない場合は、帰省時にご家族が設定を行い、親は簡単な操作だけでテレビ電話がつながるような環境を作ることをおすすめします。
認知症の予防や進行を防ぐためには、他者と交流して脳を活性化させることが有効だといわれています。他者との交流を通じて社会的なつながりを持ち続ければ、健康寿命にも好影響を与えます。一方、健康に不安などを抱えて引きこもりがちになると、社会的なつながりが減少し、地域で孤立しがちになります。そんな状態は、健康寿命に悪影響を与えかねません。
内閣府が発表した令和6年版「高齢社会白書」(※5)によると、65歳以上の人に「親しくしている友人・仲間がいる」という質問に、「たくさんいる」「普通にいる」「少しいる」と答えた人の合計が前回の調査(平成30年度)では93.7%だったのに対して、令和5年度の調査では82.8%に減少しています。新型コロナウイルス感染症が蔓延したことも影響している可能性があるものの、この傾向が続いていけば、自ずと健康寿命にも悪影響を及ぼし、要介護状態の高齢者が増加していくことになりかねません。
そういった事態を防ぐためにも、高齢者にとって友人・仲間、あるいは近くに親戚がいるような環境、住み慣れた地域コミュニティーとつながり続けるということは、非常に大切なのです。つまり、認知症が疑われる高齢家族をご自身の住む地域に呼び寄せて同居をすることで、高齢家族はそれまでの社会的なつながりを失い、一気に認知症を進めてしまう危険性もあるのです。離れて暮らしていても、専門職の方や地域の人、ITの活用などを使って見守ることで、高齢家族は住み慣れた地域で社会的なつながりを持って生活することができます。それは、高齢家族の健康寿命によい影響を与える要素となるのです。
高齢家族に「見守り」が必要と感じるのは、高齢家族に対する何らかの心配事があるためです。その心配事が大きくなればなるほど、見守る側は多大なストレスを感じることになります。ただ、見守る側の心配事を解決するためだけに「尊厳の保持(見守りのポイント1)」を無視することは、高齢家族との関係性を悪化させる可能性が高く、さらなるストレスを生む原因になりかねません。
高齢家族と良好な関係性を保つためにも、ITを活用した機器の利用や、福祉や専門家の支援を受けながら、ストレスフリーな見守りを目指しましょう。
高齢のご家族が一人暮らしをしている場合、高齢家族の自宅の両隣やご近所さん、地域の民生委員やかかりつけ医に「何かあれば連絡をください」とご自身の連絡先を渡しておくだけでも、地域の目による見守りにつながります。地域の公的な福祉の相談機関である(高齢家族が住む地域の)「地域包括支援センター」に高齢家族の心配事を相談しておくのも1つの方法です。電話だけでもいいのです。心配事の内容によっては、地域包括支援センターの職員が、高齢家族の自宅を訪問して様子を見に行ってくれることもあります。
そこで介護サービスの導入が必要だと判断されると、地域包括支援センターがその後の流れを教えてくれます。さらに、介護サービスを利用するようになると、高齢家族は日常的に他者と関わる機会が増えるため、非言語コミュニケーションも含めて自然に多くの目による「見守り」が構築されていきます。一人で抱え込むのではなく、専門家の支援を上手に取り入れていくことができれば、たとえ高齢家族が認知症であっても、住み慣れた地域で一人暮らしを続けることが可能になります。
写真(トップ):ピクスタ
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい人への介護やサポートをする、ケアラーのためのプラットフォームです。 MySCUE(マイスキュー)は、高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。