認知症の方の中には、なかなか寝付けなかったり、夜中に何度も起きてしまうなどの睡眠トラブルに悩まされている方も多くいます。その影響で昼夜が逆転し、昼間に長時間眠ってしまう方もいます。認知症の方の睡眠トラブルは、ケアラーやご家族など周りの人たちの睡眠不足にもつながる危険性があるため、見逃すことのできない問題です。

そこで今回は、認知症の方に起こりやすい睡眠不足について詳しく解説します。周りの方ができるサポート方法についてもお伝えしますので、ぜひ参考にしてみてください。

1. 認知症の方が抱える4つの睡眠トラブル

認知症の方の睡眠障害は、症状によってさまざまな特徴があります。改善のためには、それぞれの特徴に合わせた対処法を実践することが大切です。

①概日(がいじつ)リズム睡眠障害
概日リズムとは約24時間周期の体内時計のことで、認知症になるとこれを調節する機能が低下するため、「夜に寝付きにくくなる」「夜中に何度も起きる」などの症状が表れます。悪化すると朝方から昼すぎまで眠ってしまったり、何時間も昼寝してしまったりと、昼夜逆転の生活になっていきます。「アルツハイマー型認知症」の方に多いパターンです。



②レム睡眠行動障害
浅い眠りである「レム睡眠」のときに、突然大きな声を出したり暴力を振るったりといった激しい行動が出ます。レム睡眠時にたびたび行動障害を繰り返すため、本人もケアラーも体を休めることができません。「レビー小体型認知症」の方に多いパターンです。

③閉塞性睡眠時無呼吸
認知症と合併しやすい疾患の1つといわれており、寝ている間に気道が閉塞して呼吸が停止し、酸素が取り込めない状態になる疾患です。認知症の方が夜中にいびきをかいている場合は、このパターンの可能性があります。

④むずむず脚症候群
「レストレスレッグス症候群」とも呼ばれる疾患です。じっとしたり横になった姿勢をとったときに、脚がむずむずしたり痛みが走ったりといった強い不快感が表れます。夕方から夜間にかけて増悪する傾向にあり、睡眠障害の原因となります。



写真:著作者:wirestock/出典:Freepik

2. 睡眠と認知機能の関係とは?

睡眠不足のときは頭がボーっとして物事に集中できなくなったり、仕事や勉強に支障をきたしたりします。これは脳が働いていない状態であり、睡眠不足が認知機能を低下させていると考えられます。

また睡眠不足の状態が続けば、認知症のリスクが高くなるとされています。アメリカのブリガム・アンド・ウィメンズ病院などの研究では、十分に睡眠をとっていた人に比べて不眠症を訴えていた人は、認知症のリスクがおよそ2倍になったと報告されています(※1)。

一方、眠りすぎもよくありません。9時間以上など必要以上に長い時間寝ている方は、そうでない方に比べてアルツハイマー型認知症になるリスクが高くなるといわれています(※2)。

高齢者は若者に比べて必要な睡眠時間が少なくなりますが、やることがなくだらだらと布団の上で過ごす方も増えていきます。しかし昼夜のメリハリがない生活を続けていると認知症になりやすくなるため、注意が必要です。

※1 Examining sleep deficiency and disturbance and their risk for incident dementia and all-cause mortality in older adults across 5 years in the United States
※2 厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会:健康づくりのための睡眠ガイド2023 (案)

3. 家族ができる配慮や対処法

寝室が暑すぎたり寒すぎたりすると、うまく寝付けないことがあります。まずは室温や湿度を調節して、寝室を快適な状態にしましょう。

また、マットレスや枕などの寝具も本人のからだに合ったものを選ぶと、睡眠の質を上げることにつながります。さらに、眠るときに騒音がないか、部屋が明るすぎないかなどもチェックしてみましょう。

●規則的な生活習慣のサポート
1日のほとんどを布団の上で過ごすような生活をしていると、睡眠と覚醒のメリハリがつかずに昼夜逆転しやすくなります。まずは就寝時間と起床時間を決め、午前中はなるべく日光を浴びるようにしましょう。

食事や入浴の時間なども一定にし、規則的に生活できるようサポートすると、徐々に昼夜逆転の生活が改善していきます。

●からだを動かすようにする
夜に質のよい眠りをするためには、日中の活動量を上げるのも効果的です。1日中家にいるような場合には、家の周りを少し散歩するだけでも構いません。ラジオ体操をしたり軽いストレッチをしたりするのもおすすめです。高齢家族が行う場合は、無理のない範囲でからだを動かせるようにサポートしましょう。

ただし就寝前に運動をするとからだが興奮状態になってしまうため、就寝前4時間は運動を避けることが望ましいといわれています。



●アルコールやカフェインの摂取量に注意する
寝酒によって寝付きがよくなる方もいると思いますが、アルコールは睡眠の質を悪くするため夜間覚醒につながることがあります。利尿作用もあるため、就寝前の過剰摂取には注意しましょう。

また、コーヒーや紅茶などに含まれるカフェインには覚醒作用があり、寝付きを悪くすることがあるため、夕方以降は摂取を控えたほうがいいでしょう。

●痛みや不快感を取り除く
認知症の方は、自身が感じている痛みや不快感をうまく周りに伝えられないことがあります。本人しかわからない腰痛があったり、パジャマの締め付けによる不快感があることによって、睡眠トラブルが引き起こされている可能性もあります。

からだの特定の場所を、何度も「気にする・さする・押さえる」などの行動をしていないか観察してみましょう。その原因を取り除くだけでも睡眠トラブルが改善することがあります。

4. ケアラー自身の睡眠不足は認知症リスクを高める?

近年、認知症と睡眠障害には関連があることがわかってきています。アルツハイマー型認知症の原因として考えられているのが、βアミロイドタンパク質の脳内蓄積です。この物質は深い眠りである「ノンレム睡眠」のときに排出されると考えられています(※3)。

そのため睡眠不足が慢性化してノンレム睡眠が十分にできていない状態が続くと、βアミロイドタンパク質が蓄積して認知症になるリスクを高めてしまうのです。

認知症の方を介護しているケアラーは、夜間覚醒の対応などで睡眠不足になりやすいとされています。つまり、認知症の方はもちろん、その方を介護するケアラー自身も睡眠不足に注意する必要があります。睡眠時間の確保が難しい場合は、アイマスクやアロマディフューザーなど快眠をサポートするアイテムを使うのもおすすめです。




※3 Xie L, Kang H, Xu Q, Chen MJ, Liao Y, Thiyagarajan M, et al. Sleep drives metabolite clearance from the adult brain. Science (New York, NY). 2013;342(6156):373-7.

5. まとめ

今回は認知症の方に起こりやすい睡眠トラブルや、周りの方ができる対処法について解説しました。認知症は物事が忘れっぽくなるだけでなく、体にさまざまな症状が表れます。睡眠トラブルもその1つです。寝付きが悪くなったり夜間覚醒が増えたりすると、ケアラーの負担も大きくなります。それぞれのパターンに合わせて、適切に対処することが重要です。

またケアラーの睡眠不足は、将来認知症になるリスクを高めると考えられています。自分のことは後回しになりがちなケアラーですが、時には自分自身を労わることも大切です。快眠をサポートするアイテムや周りの人に頼りながら、睡眠不足にならないよう、放置しないように心がけてください。


写真(トップ):著作者:rawpixel.com/出典:Freepik

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著者:MySCUE編集部

MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護をするケアラーに役立つ情報を提供しています。シニアケアをスマートに。誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。

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