「ヤングケアラー」「ビジネスケアラー」「ダブルケアラー」など、最近「ケアラー」という言葉をメディアでよく耳にします。高齢者や障がい者などをケアする人(介護者)を意味する言葉ですが、それはあくまでも、当事者から離れた客観的な視点で捉えたものです。というのも、ケアラー自身は、ケアラーとしての自覚がないことが多いのです。その理由はなぜなのか、また、ケアラーとしての自覚がないことで起こる問題点などについて、考えてみたいと思います。
まず、ケアラーの定義について、改めて考えてみます。「ケアラー」とは、病気や障がい、高齢による心身の衰えなどによって介護やシニアケアが必要になった人を、無償で世話する人のことを指します。この場合の介護者(ケアラー)は、多くの場合、介護やシニアケアを必要とする方の家族であることが多く、それ故に時間や労力を無償で提供するケ-スが生じているのが現状です。
また、介護やシニアケアと言っても、日常的な作業が多く、また質的にも量的にも千差万別です。だからこそ、ケアラー自身、その行為が介護やシニアケアだと自覚することが難しいという事情もあります。たとえば、高齢で体が衰えてきたご両親に代わって、食料品の買い物や家の掃除などの家事を、子供たちをはじめとする家族が手伝うことがあります。。その程度のことはちょっとした「お手伝い」だと感じている人が多いのですが、実はこれも介護やシニアケアの始まりであり、お手伝いしている人は「ケアラー」に該当します。しかし、手伝いをしている本人は、単にちょっとしたお手伝いをしてあげているだけなので、その自覚がないことが多いのです。
どこからが「ケア」なのか、明確な指標などはありません。しかし、先ほどの例(家事手伝い)や病院の付き添いといった物理的な行動を伴わなくても、家族である高齢者に対して不安や心配(ちゃんとごはんは食べているか、最近あまり外出しなくなっているのが心配など)があり、気になっているということだけでも、ケアの始まりだともいえるのです。
こうした無自覚な状態は人によって数年続くこともあり、その期間中もケアラー自身の疲労はたまっていきます。こうした無自覚なケアラーを、MySCUEでは「潜在ケアラー」と捉えています。自覚することはもちろん重要なことですが、一番避けなければならないのは、潜在ケアラーが無自覚なまま身体的、精神的な疲労をため込み、介護離職や要介護者への虐待など、本人や要介護者にとって望ましくない結果を招くことです。
高齢化が急速に進み、要介護者も増えている(※1)のに反比例して、介護やシニアケアの主体となるケアラー世代の人口は減っています。また、数十年前と比べ、核家族化や単身者の増加(※2)など、家族の形態も大きく変化しています。そのため、ケアを必要とする方とその家族が別々に住んでいたり、さらには遠距離に住んでいることも多く、ご家族(ケアラー)の負担は、以前と比べ、比較にならないほど大きいものとなっています。
※1 令和5年版高齢社会白書(全体版)(PDF版)
令和5年版高齢社会白書 第2節 高齢期の暮らしの動向 2.健康・福祉
※2 厚生労働省 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況
前述したような事情を抱えたケアラーが、自覚のないまま介護やシニアケアの領域に足を踏み入れていった場合、さまざまな問題にぶち当たります。そこで、高齢者の世話をするケアラーのケースについて考えていきたいと思います。
ケアラーが、高齢者の介護やシニアケアをすることになったきっかけについて見てみると、その原因の第1位は認知症で18.1%となっています(※3)。そして、認知症を抱えたご家族への対応は、複雑です。
●認知症対応の難しさ
認知症を疑われる症状があったり、認知症の診断を受けた高齢者を抱えるケアラーは、日常的にさまざまな面でとまどいや不安を感じ、肉体的にも精神的にも追いつめられやすくなります。特に認知症についての知識がない場合、特有の言動(同じことを何度も聞く、物をなくす、性格が変化して怒りっぽく暴力的になるなど)にうまく対処することは、とても苦労することでしょう。
「否定してはいけない」といった認知症患者への対応の原則も、ケアラー初心者や潜在ケアラーにとってはすぐには受け入れ難く、ある程度の時間や覚悟が必要になります。
●仕事や家庭との両立、お金の不安
介護やシニアケアのために、自分自身の時間や労力を割くことも大きな負担となります。仕事をしている人はもちろん、専業主婦、あるいは無職や休職中など、どんな境遇にあっても、介護やシニアケアを必要とする家族の生活支援は、さまざまな場面で必要となります。その結果、家族や職場など周りとの折衝や調整で神経をすり減らし、ストレスを抱える人も少なくありません。要介護者の状況によっては、介護費についての不安や心配を抱えることもあるでしょう。
※3 令和5年版高齢社会白書(全体版)(PDF版)
要介護者のケアを担うことになったケアラーのさまざまな悩みや困り事を解決するには一体どんなことが必要になるのでしょう?
●相談
まず必要なことは、「相談すること」です。相談先は、介護やシニアケアといえば必ず名前が挙がる地域包括支援センターはもちろんですが、そうした公的な機関への相談にハードルを感じられるのであれば、きょうだいなどの他の家族や親戚などの血縁関係に加え、介護やシニアケアを経験した友人や知人、会社の同僚など、周りで相談しやすいどんな人でもよいのです。
写真:著作者:freepik
また、対面や電話での相談に負担感を感じるのなら、介護関連のサイトやSNSなどに不安なことや困っていることなどを投稿してみるのもよいかもしれません。必ずしも解決につながらなくても、自分の思いを外に吐き出すことがストレスや不安感の軽減につながります。また、そうした情報発信や周囲からの働きかけで、意外なところからの助けや役立つアイデアなどが見つかるかもしれません。とにかく周囲とつながることが重要なのです。
●介護保険サービス
介護保険サービスの利用も、できる限り早い段階で検討すべきでしょう。利用するためには、要介護認定(そのためには要介護認定の申請も必要)が必要となり、まだ介護やシニアケアに対する覚悟ができていなかったり、「まだ必要ではないのでは?」という認識から、どうしても腰が引けてしまうことは多々あると思います。しかし、ケアラーが請け負っていた家事などの日常的なサポートの代行を負担感の低い額で利用できたり、放っておけば悪化・進行しかねない要介護者の状態を維持するのに役立つサービスの利用なども、ひいてはケアラー自身にとってメリットのあることです。少しでも「要支援・要介護」の可能性を感じたら、介護保険サービスの利用に向け、情報収集や相談を始めてみることをおすすめします。
●ケアラーの心と体を癒すケアを
ケアラー自身の「ケア」も、非常に重要です。就労しているケアラーなら、要介護者に必要なことのために自身の休暇の何割かを削って奔走するなど、ケアラーは公私ともに忙しい毎日を送ることになります。仕事に穴を開けないために減ってしまった自分の時間。それをすべて代行してもらうことは難しくても、可能な限り代行サービスを利用して自分の時間を確保する、また、自分の時間には自分の好きなことのために優先的に使うなどの工夫はとても重要です。
また、「しっかりしないと」と精神力でなんとか保っていた体力についても、実は人知れずどこかに負荷がかかっているかもしれません。全身を検査してもらえる人間ドックを予約してみる、マッサージやアロマ、整体など、少しお金をかけて身体のメンテナンスを行ったり、一日の節目節目に深呼吸をする、数分瞑想をしてみる、その日にあったことや思ったことなどをノートやアプリに書き留めて吐き出してみるなど、自分にあった心身のケア方法を探してみるのもおすすめです。
写真:著作者:jcomp, 出典:freepik
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい人への介護やサポートをする、ケアラーのためのプラットフォームです。 MySCUE(マイスキュー)は、高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。