厚生労働省が発表したデータに、65歳以上の女性の5人に1人が低栄養傾向だというものがあります。高齢者はなぜ低栄養な状態に陥ってしまうのでしょう?そこには高齢者をとりまく生活状況や環境的な要素が大きく影響しています。年を重ねても、食べることの楽しみや喜びを感じてもらいながら、できる限り元気でいてもらうために、家族できるサポートについて考えてみたいと思います。
「令和元年国民健康・栄養調査」結果の概要(厚生労働省)〈※1〉によると、65歳以上の高齢者のうち、低栄養傾向な人(BMI≦20㎏/㎡)の割合は男性12.4%、女性20.7で、とくに65歳上の女性の5人に1人はこの傾向にあるということになります。
高齢者になるとなぜ低栄養な状態になってしまうのでしょうか?その原因として、次のようなものが挙げられます。
・加齢や自身の健康状態によるもの
・金銭的な事情や独居などの生活環境によるもの
・配偶者や親しい友人との死別による精神や心理的な事情によるもの
こういった要因が体や心の状態と複雑に絡み合い、食欲の低下や食事の摂取量の減少を引き起こすことで栄養バランスの偏った食事につながり、結果として低栄養につながるのかもしれません。
また、低栄養によって体力や筋力が減少し動くことがおっくうになると、お腹が空くことも減りついつい食事を抜くというように、気付かぬうちに低栄養の負のスパイラルに陥ってしまうことがあるのです。
※1「令和元年国民健康・栄養調査」結果の概要(厚生労働省)
よくあるケースとして、毎日3食きちんと食べているにも関わらず低栄養傾向になってしまうことです。そこには食事内容が大きく関係しています。介護の前段階にあたる「フレイル」(加齢によって心身が老い衰えた状態のこと)を予防するには、たんぱく質を充分に取ることが重要となります。なぜなら、たんぱく質は、筋肉や身体の組織を維持させることで筋力を付けたり、免疫力を上げたり、認知症にも影響するホルモンや脳に影響を与える栄養素となるからです。昨今では、高齢者の積極的なたんぱく質の摂取がフレイル予防につながることが、多くの研究によりわかってきました。
しかし、高齢になると淡泊な味付けや食材を好む傾向があるため、タンパク質が豊富な肉類を使った献立を避けるようになりがちです。さらに一人暮らしや、家族と同居していても生活時間の違いから個食になることで、手軽に食べることができるパンや麺類など、食事内容が炭水化物に偏りがちになる傾向もあります。
ほかにも、たんぱく質を多く含む肉や魚は咀嚼が大変だったり、骨が面倒だったり、食べやすくするための調理も大変なため、ついつい食べることを避けがちになってしまいます。こういったさまざまな事情が重なり合っているため、たとえ3食きちんと食べていても、栄養バランスがきちんと摂れていない低栄養な状態に陥ってしまうのです。
さらに、高齢者の食事には咀嚼機能(食べ物を噛み砕き、唾液と混ぜ合わせて飲み込みやすくする機能)や嚥下機能(食べ物を口の中で噛み砕き、口からのど、食道、胃へ送り込む機能)の維持が重要になります。
咀嚼機能が低下すると、栄養の吸収や消化がスムーズにいかなくなり、味を感じられなくなったり、咀嚼による脳の刺激で感じられる満腹感を得にくくなってしまいます。
嚥下機能が低下すると、高齢者の死亡原因の上位である誤嚥性肺炎(唾液や食べ物などと一緒に細菌やウイルスが気管支や肺に入って発症する肺炎)を起こしやすくなってしまいます。咀嚼や嚥下の機能の低下が、要介護状態への入口になってしまうことは少なくないのです。
高齢者にとってバランスの取れた食事が、心身の健康に密接に関わっているということがわかっていても、一人暮らしの高齢者が、3食準備をすることはままなりません。また子世代との同居でも、高齢者向けの食事を、毎食他の家族が用意することは容易ではありません。そこで日々の暮らしに取り入れたいのが、高齢者の食事をサポートしてくれる商品やサービスです。
たとえば、高齢者でもたんぱく質が摂りやすいようにやわらかく煮込んだ肉料理や、骨を抜いた魚を使った料理の、レトルト食品や冷凍食品を活用してみてはどうでしょう。栄養士が監修していたり、高齢者向けの味つけになっているなど、さまざまな特徴を持った商品が数多くあるため、高齢者の好みに合ったものを選ぶことができます。さらに、保存期間が長くストックも可能なため、災害時にも役立ちます。
また、高齢家族に栄養バランスの取れた食事を摂ってほしい場合は、高齢者向けの配食サービスを利用してみるのもよいでしょう。まずは1日1食だけ取り入れてみるなど、部分的な利用も可能です。配食サービスの利点は栄養面のサポート以外にもあり、本人に手渡ししてくれる業者を選ぶことで、一人暮らしの高齢者の安否確認にも活用することができます。
写真下:ピクスタ
高齢者が食事を作るキッチン環境にも配慮が必要です。なぜなら、キッチン環境が快適で使いやすくないと食事を作ることがおっくうになり、出来合いの総菜に頼るなど、食事の栄養が偏りがちになってしまいます。
高齢になると腰が曲がるといった体型の変化により、それまで届いていたキッチンの棚に手が届かなくなったり、筋力や握力の低下により水道のレバーや冷蔵庫の開け閉めが困難になるといった、それまでになかった問題が発生します。
一方で、昔作っていたレシピを思い出し作業の手順を考えたり、手先をよく使うことから、料理は認知症を予防するものとして注目されています。つまり、キッチンの構造が使いづらいと料理をしなくなり、料理をしなくなると栄養面の心配事が増え、同時に認知症予防につながる日常動作がなくなることになります。
また、火を使わないから安全だと考え最新のオール電化キッチンにリフォームしても、使い方を一から覚えるのが大変な高齢者にとっては、ありがた迷惑になることもあります。それよりも、棚の配置を変えて動きやすい動線を確保したり、疲れたら座ることができるキッチン用の椅子を設置したり、水道のレバーを上げ下げしやすいタイプのものに交換するなど、慣れ親しんだキッチンの利便性を向上させ、高齢者でも使いやすい環境に整えることを心がけてください。また、便利グッズを活用することもオススメです。自宅のキッチンで料理を続けてもらうことは、低栄養問題や認知症予防において、大きな意味を持つことになるのです。
高齢者はさまざまな事情のため、食べることに対する意欲が減ったり、食べること自体が思うようにならないことがあります。家族は高齢者の食事の変化を理解し、低栄養に陥ってしまうサインを見逃さないようにしましょう。栄養補給はもちろんのこと、年を重ねても食べるということの楽しみや喜びが感じられる生活のサポートを、ぜひ心掛けてみてください。
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい人への介護やサポートをする、ケアラーのためのプラットフォームです。 MySCUE(マイスキュー)は、高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。