高齢の親の介護やシニアケアをしている女性で「更年期」に該当する人は多いでしょう。そもそも「更年期」とはどのようなものなのでしょうか。
今年9月、満を持して開講した第1回目の『じぶん介護塾』では、女性のホルモンの変化について学び、理解を深めました。本記事ではその様子をレポートします。
2023年8月に出版した拙著『一人暮らしでも大丈夫 自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)が現在も版を重ねるロングセラーとなっています。読者の方から「座右に置いておきたい」といったさまざまなご感想を頂くなか、本というかたちではなく、サロン形式で情報をお伝えする場を作りたいと思い、このたび始めたのが『じぶん介護塾』です。「この先、じぶんでじぶんを護り、健やかに穏やかに生きていきたいと願う大人」を参加対象としています。
『じぶん介護塾』の第1回目のテーマは「ウェルエイジングのために今からできること」。
「アンチエイジング」という考え方は、おもに外見について「老化を食い止めて若々しさを維持する」という考え方です。一方「ウェルエイジング」は年齢を重ねることを前向きに捉え、外見と内面、双方から魅力を重ねていくという考え方で、時代の意識は「ウェルエイジング」へとシフトしています。
ウェルエイジングを実践するポイントのひとつは、自分の変化と向き合うこと。
今回は女性ホルモンの変化などに詳しいカウンセラーの森井恵子さんを講師にお招きし、お話を伺いました。
高齢の親のケアラーのなかには該当する人も多いと思われる「更年期」。森井さんによると、「更年期」とは閉経前後の約10年間のことを指し、例えば50歳で閉経した場合は45~55歳が「更年期」にあたるといいます。
更年期を迎えると卵巣機能が低下し、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減少します。それに伴ってホルモンバランスが崩れ、体にさまざまな変化が起きます。
卵巣からのエストロゲンの分泌は、脳がコントロールしています。 脳の視床下部から「もっと分泌せよ!」とシグナルが出されても、機能が低下した卵巣はそれに応じることができずエストロゲンは不足したままです。すると脳はバグが生じて混乱し、同じく脳がつかさどっている自律神経の調節機能などにも乱れが生じ、不調をひきおこします。
エストロゲンは卵巣以外の器官にも影響を与えているため、不足することで体のいろいろな機能に不調が起こりやすくなります。症状や程度は人によりさまざまですが、なかでも、日常生活に支障をきたすまでの不調が起きるのが「更年期障害」です。
参加者からは「この暑さは自分の体からくるものなのか、気温が高いせいなのかよくわからない」という質問がありました。前触れもなく急激にほてりを感じ、汗をかいたり、顔が赤くなったりするのは「ホットフラッシュ」と呼ばれる更年期の症状で、女性ホルモンの急激な低下によって起こります。森井さんによると、ホットフラッシュかそうでないかは「冬でも突然、頭や顔に汗をかくか」、あるいは「寝ているときにも起きるか」といったことで見分けることができるとか。
更年期になると、ホットフラッシュや動機・息切れといった自律神経系の症状のほか、手指などの関節の痛みやしびれなど身体的な症状もあります。
さらにイライラ、情緒不安定、気分の落ち込みや睡眠のトラブルなどメンタル面での症状も起きます。これはエストロゲンの減少によって神経伝達物質の一種である「セロトニン」が不足し、感情のコントロールがうまくいかなくなるためです。
更年期に大切なのは「とにかく休むこと」と森井さん。また、シャワーですませてしまう日もあるかもしれませんが、「しっかりと湯船に入る」ことも効果的だといいます。
さらに、息を吸ってゆっくり吐くという「呼吸」を意識することで気持ちを落ち着かせる効果があるといいます。毎日の生活習慣や休息を十分とることが更年期を上手に乗り切るポイントのようです。
ケアラーのなかには休む時間がなかったり、休むことに罪悪感をもつ人もいるかもしれませんが「呼吸」を意識することは気軽に習慣化できそうですので、ぜひ試してほしいと思います。
写真上:セミナー当日に収穫した朝採りのフレッシュハーブでミニスワッグ(壁飾り)を作りました。ローズマリー、マートル、ミント、タイム、ミントを束ねて。ささやかながら、私から参加者の皆さまへのプレゼントです。
写真上:講師の森井さんからはハーブティーと布ナプキンの嬉しいプレゼントが。こちらのハーブティーは森井さんが運営する【Holistic Remedy】のオリジナルブレンド「カラダケア」。女性ホルモンを整え、PMS、月経痛、更年期に適しています。
会場からは「更年期に適した食べ物を教えてほしい」という声がありました。
森井さんによると、セロトニンを増やすオメガ3(DHA、EPA)の油や肉、魚、大豆、豆腐などトリプトファンが含まれる食品がおすすめだとか。そのほか、鉄、ビタミンB6、ナイアシン、葉酸、ミネラルなどの成分も摂取するのも望ましいとのこと。ただ、食品でバランスよく摂るのは難しいもの。そのような場合は、サプリメントを利用するとよいそうです。
また、昨今「エクオール」という成分が注目されています。これは大豆から抽出される成分のことで、女性ホルモンであるエストロゲンと似た働きをするため、更年期症状の緩和や骨粗しょう症予防などさまざまな効果が期待できるといいます。
日本人でエクオールを作ることのできる腸内細菌をもっている人は2人に1人(※)という割合らしく、サプリメントを服用することで更年期の症状が改善したと実感している人もいるようです。
講師の森井恵子さんには会場からの質問に終始熱心にご回答いただきました。私が今回森井さんに講師にお願いした理由は、spotify(音楽などが楽しめるデジタル配信サービス)で聞いていた「PMSに効くラジオ」という番組がきっかけでした。ご自身が経験されたPMDD(月経前不快気分障害)について、非常に多岐にわたる原因があることやその改善策を毎回わかりやすく解説していただき、目から鱗が落ちるような知識を得ました。
私は以前、一リスナーとして森井さんに疑問を送り、番組でとりあげて頂いたのですが、その際に「疑問をもつことは大切」というアドバイスを頂き、とても嬉しかったのを覚えています。
日々の生活のなかで「自分の体の変化」に気づく余裕をもつこと、そしてそのことに対して放置せずに自分で調べたり、ときには専門家に頼ることも大切だと感じました。
参加者からは「今までいろいろな病院に行ったが疑問は解消されなかった。今日のお話でようやく腑に落ちることがありました」などの意見が聞かれました。
※更年期ラボ「エクオールは2人に1人しか作れない」(大塚製薬)参照
【森井恵子さんプロフィール】
Horistic Remedy主宰。自身の経験を生かし、日本でもまだ認知の薄いPMDD(月経前不快気分障害)やさまざまな女性疾患などの専門カウンセリングを行う。独自の経験に基づいたカウンセリング・メソッドから得られる効果は多くのクライエントの症状を改善している。また今後、PMDDをはじめとする様々な女性の悩みの早期解決が求められる時代になることから、カウンセラーやアドバイザーの養成講座も行っている。独自に開発した「子宮ヨガ」講師でもある。おもな著書に『いつもやってくる殺したくなる自分にサヨナラ 』(ヴォイス)がある。
※森井さんが運営する【Horistic Remedy】では更年期に適しているハーブティーやサプリメントを販売しています。
著者:小山朝子
介護ジャーナリスト。東京都生まれ。
小学生時代は「ヤングケアラー」で、20代からは洋画家の祖母を約10年にわたり在宅で介護。この経験を契機に「介護ジャーナリスト」として活動を展開。介護現場を取材するほか、介護福祉士の資格も有する。ケアラー、ジャーナリスト、介護職の視点から執筆や講演を精力的に行い、介護ジャーナリストの草分け的存在に。ラジオのパーソナリティーやテレビなどの各種メディアでコメントを行うなど多方面で活躍。
著書「世の中への扉 介護というお仕事」(講談社)が2017年度「厚生労働省社会保障審議会推薦 児童福祉文化財」に選ばれた。
日本在宅ホスピス協会役員、日本在宅ケアアライアンス食支援事業委員、東京都福祉サービス第三者評価認証評価者、オールアバウト(All About)「介護福祉士ガイド」も務める。