母が認知症と診断されたあと、かかりつけ医から「ガスコンロは危ないから、IHクッキングヒーター(以下、IH)に変えた方がいいよ」と言われました。しかしわが家は、ガスコンロを使い続けました。その理由とは?

1. 認知症の母とIHクッキングヒーターを見に行った

母がアルツハイマー型認知症と診断されてから半年が経った頃、かかりつけ医や薬剤師さんから、こんなアドバイスをもらいました。

「ひとり暮らしだと火事の心配があるから、IHに変えた方がいいよ」
「認知症が進行するとIHの操作方法がわからなくなるから、早めに交換した方がいいよ」

早速、実家の近くにある電器店へ行ってIHのパンフレットを集め、機能や価格について調べてみると、ビルドインタイプのIHの設置には本体に加えて、200Vの電源やガス管の閉栓工事が必要で、総額で20万円近い費用がかかることがわかりました。

しかし20万円をケチって、実家が火事にでもなったら後悔してもしきれないと思い、母を連れてIHが展示してある家電量販店へ行ったのです。IHを初めて見たときの母の反応は、こうでした。

母:「これ火がつかないんでしょ? ボタンも多いわね。操作できるかしら?」

当時70歳、しかも認知症の母が、いちからIHの操作を覚えられるのか? もしIHの操作ができずに、得意な料理をやめてしまったら? わたしは戸惑う母の姿から、そんなことを考えました。

またわが家のガスコンロは、電子レンジと一体型のビルドインタイプだったので、IHに買い替えると電子レンジまで変わってしまいます。新しい電子レンジの操作を、母は覚えられるだろうか? という問題もありました。

他にも、調理器具をIH専用に変える必要がありました。何十年と使い慣れた鍋やフライパンが使えなくなっても、母は料理を続けられるのかといった不安も加わり、本当にIHが正解なのかと思うようになったのです。 

わたしの最優先事項は、認知症が進行しても母に得意な料理を作り続けてもらうことでした。料理は材料を切ったり、鍋の火加減を調整したりするなど、いくつもの作業を同時にこなす必要があります。料理こそが認知症の最強のリハビリ、そう考えていたのです。

いくら軽度の認知症とはいえ、台所の環境がこれだけ一変してしまったら、母はIHの操作だけでなく、鍋が見つけられなくなったり、電子レンジで温めができなくなったりして、大好きな料理を諦めてしまうかもしれません。

介護の面でも母自身に料理をしてもらわないと、ヘルパーさんに料理をお願いするか、宅配弁当サービスを利用しなければならなくなります。

IHではなく、このままガスコンロを使い続けることはできないだろうか? そう考えたわたしは、新しいガスコンロのカタログも集めて価格や機能を調べ、4ヶ月検討した結果、最終的にガスコンロを選びました。

2. ガスコンロは想像以上に進化していて安全だった

母が愛用していたガスコンロのメーカーは、リンナイでした。同じリンナイであれば、母が操作に戸惑うこともないだろうと考え、見つけたのが「SAFULL(セイフル)」(以下セイフル)でした。

ガスコンロの一番の心配は、認知症の母が火を消し忘れてトイレなどに行ってしまい、鍋を焦がしたり家が火事になったりすることでしたが、「セイフル」はしっかり対策がされていました。

コンロにはすべてSIセンサーがついていて、鍋底の温度を感知します。鍋底が異常な温度になると自動消火したり、鍋の焦げ付きを防いでくれたりするのです。

他にも煮こぼれで火が消えても、ガスが自動で止まったり、鍋をコンロの上に置かないと火がつかない設計になっていたりと、認知症の母でも安全に扱えることがわかりました。

元々3口のガスコンロを使っていたのですが、これから料理の品数は減っていくだろうと考え、2口に変更。また、以前のガスコンロは、SIセンサーが1箇所にしかついていなかったのですが、全口へのSIセンサー装着の義務化で、2口ともについていて安全でした。

結局、母は「セイフル」を約10年使ったのですが、鍋の焦げ付きも火事もなく、安全に料理を続けられたのです。しかし母の認知症が重度まで進行した今、あることがきっかけで母のガスの使用は中止することになりました。

3. なぜ黒ずんだ汚れのついた皿が見つかったのか?

遠距離介護で実家に帰省した際、いくら洗剤でこすっても落ちない黒ずんだ汚れのついた皿が台所にありました。

理由を探るべく、実家に設置してある見守りカメラの映像で母の行動を確認したところ、ガスコンロの上に皿や漆器を乗せ、直接火をかけていたことがわかりました。

母は料理を温めるために電子レンジを使おうとしたのですが、使い方がわからなくなって、皿をガスコンロに乗せて火をつけて、料理を温めようとしていたようです。

10年ぶりに「セイフル」の機能を説明書で調べると、下の写真のように着火ボタンをロックできるレバーがついていました。今はこのレバーを使って、母が操作しないよう対策をしています。

認知症と診断されてから11年が経った今でも自宅で生活できているのは、あの時ガスコンロを選択して、母に料理を続けてもらったことも大きいと思っています。認知症になったらIHと決めつけるのではなく、ガスコンロも選択肢のひとつとして検討してみてください。

なぜ黒ずんだ汚れのついた皿が見つかったのか?
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著者:工藤 広伸

介護作家・ブロガー
1972年岩手県盛岡市生まれ、東京都在住。2012年より岩手で暮らす認知症の母を、東京から通いで遠距離在宅介護を続けている。途中、認知症の祖母や悪性リンパ腫の父も介護し看取る。介護に関する書籍の執筆や、企業や全国自治体での講演活動も行っている。認知症介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。著書に『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』(翔泳社)、『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)ほか
介護ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/

音声配信voicy『ちょっと気になる? 介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

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