高齢者の食事ケアを安全かつスムーズに行うには、心身の特徴を把握し、リスクを最小限に抑えることが大切です。今回はシニアケア初心者の方に向け、食事ケアのポイントと注意点をわかりやすく解説します。
高齢者の食事における注意点を3つにまとめました。
1.かむ力や飲み込む力が弱くなっている
加齢とともに、かむ力や飲み込む力が低下し、食べ物が誤って気管に入る「誤嚥(ごえん)」が起きやすくなります。食べ物と一緒に口内の細菌が気管に入ると「誤嚥性肺炎」を引き起こし、重症化する恐れがあります。そのため、食べ物の硬さや大きさなどに配慮が必要です。
2.唾液の分泌量が低下している
こちらも加齢とともに起こる特徴で、水分の少ない食べ物(パンやビスケットなど)や、粉物(きな粉など)は、口にするとむせやすくなります。食べ物の水分量を増やしたり、トロミを付けたりするなどの工夫で、むせや誤嚥を予防できます。
3.食べ物を適切に認識できない場合がある
認知症による認知機能の低下や、脳卒中の後遺症による「半側空間無視(※1)」により、食べ物を認識できない場合があります。このような場合は、ケアラーが声かけをすることで気づき、食事が進むことも多いです。
食べる量が少なくなると、低栄養状態になる可能性があるため、食が進んでいないときは見過ごさず、原因を探るようにしましょう。
※1 左半分、もしくは右半分の空間を認識できなくなる状態のこと。
高齢者が落ち着いて食事を楽しめるよう、事前に次の4つを済ませておきましょう。
■トイレに行く
食事中にトイレに行くと集中力が途切れるうえ、居室でポータブルトイレを使う場合は臭いで食欲を損なう可能性もあります。
食事前にトイレを済ませておくことで、高齢者もケアラーも落ち着いて食事に集中できます。
■口腔体操で唾液の分泌を促す
口腔体操でのど周辺の筋肉をマッサージしたり、口や舌を動かしたりすると、唾液の分泌が促進されて飲み込みもスムーズになります。
■口の中をきれいにする
口内に汚れが残ったまま食事をすると、細菌が体内に入り、感染症のリスクが高まります。食事前には、歯みがきやうがいで口内を清潔にし、入れ歯は外して洗浄してから装着しましょう。
■手指や机を清潔にする
加齢に伴い免疫力が低下する高齢者も少なくないため、食事前に手洗いと机の清掃・消毒を行い、感染リスクを減らすことが大切です。
また、食事ケアを行うケアラーも手指を清潔に保ち、必要に応じてマスクを付けるようにすると感染予防に有効です。
食事ケアは、次の6つの手順で行います。
1.姿勢を整える
食べ物の誤嚥や窒息を防ぐには、適切な姿勢で食事をすることが不可欠です。以下に状態に応じた姿勢の整え方をまとめました。
〈椅子または車椅子の場合〉
足の裏がしっかり床に着くようにして深く座り、あごを引く。
〈リクライニングベッドの場合〉
ベッドを60°前後にギャッジアップ(※2)し、ひざが軽く曲がるよう調整する。腰がベッドの折れ目に収まるようにし、必要に応じて後頭部に枕やクッション入れ、首が反らないようにする。
机の高さは、高齢者がテーブルに肘を乗せたときの角度が90°になるくらいが理想です。
※2 介護用ベッド(ギャッチベッド)の背もたれやひざの角度を調整すること。
2.隣に座り、目線を合わせる
立ったままの食事ケアは、威圧感を与えやすく、また、ケアされている方の口内の観察がしにくくなります。誤嚥のリスクも高まるため、食事ケアは必ず隣に座って行いましょう。片麻痺がある場合は、麻痺のない側に座ってケアを行います。
3.声かけをする
認知機能の低下が見られる高齢者には「今日は鮭のムニエルですよ」など具体的に伝えると、食事時間の認識が生まれ、食欲増進につながります。
また「少し熱いですよ」「冷たいですよ」と、温度に合わせて声かけをすることで、誤嚥ややけどを防ぐ安全対策になります。
4.口の中を湿らせてから食べ始める
食事の一口目はお茶や汁物などの水分を摂ってもらい、口の中を湿らせましょう。口内が乾いていると誤嚥しやすくなるため、水分で潤すことでその後の食事がスムーズに進みます。
5.少しずつ口に運ぶ
食事の量は、一回につきティースプーン一杯程度が目安です。多量を口に入れると誤嚥しやすくなるため、少量ずつ口に運びましょう。
スプーンは高齢者の口より低い位置から差し出し、あごが上がらないように配慮します。スプーンを口の奥まで運ぶと、吐き気や誤嚥の原因になるため、注意しましょう。浅く口当たりの良いシリコーン製スプーンを活用するのも効果的です。
6.食べるペースに合わせる
食事を急かすと誤嚥や窒息につながるため、高齢者がしっかり飲み込んでから次の一口を運びましょう。完食にこだわりすぎず、30分程度で食事を終えるのが理想です。また、「主菜・副菜・汁物」を交互に口に運ぶことで、飽きるのを防ぎ、食が進みやすくなります。
会話に夢中になると誤嚥しやすくなるので、雑談は控えめにして食事に集中できるよう配慮しましょう。
食後のケアも高齢者の健康維持に欠かせません。以下のケアを行いましょう。
■口腔ケアを行う
口内に食べ物が残ったまま放置すると、口腔トラブルや誤嚥のリスクが高まります。歯みがきやうがいを忘れずに行い、清潔な口内環境を保ちましょう。
■食後30分程度は座位の状態を保つ
食後すぐ横になると、胃や食道から食べ物が逆流し、窒息の恐れがあります。横になって休憩したいという要望があれば、食後30分経過してからにしましょう。
■食べた量を記録する
食べた量を記録し、少ない場合は間食で補うなど、必要に応じて食事内容や提供方法を見直しましょう。
著者:小原 宏美
大学で音楽療法を学び、卒業後は児童養護施設、高齢者通所介護施設にて勤務。生活支援と並行して、音楽療法による利用者のQOL向上に取り組む。
現在はフリーライターとして、介護や音楽などに関する記事を執筆している。保有資格:保育士・介護福祉士・日本音楽療法学会認定音楽療法士(補)