介護の負担は物理的なものだけではありません。介護の大変さを周囲に理解してもらえず、辛さを分かち合う人がいないことで、孤独感やストレスが増すこともあります。
関東地方在住のCさんの母親は、7年前に脳梗塞で車椅子生活になりました。両親と同居しているCさんは、主介護者である父親とともに母親のサポートをしています。
Cさんは平日は仕事、週末は自宅での家事と介護に明け暮れています。父親は「自分の時間を優先しなさい」と言ってくれますが、週末くらいは父親にゆっくり過ごしてほしいという思いや、自分のことばかり優先するわけにはいかないという罪悪感に揺れています。
また、結婚や子育ての話題に花を咲かせる友人たちには、母親の介護の話を切り出しにくく、Cさんは次第に友人たちの誘いを断ることが多くなりました。
友人たちがおしゃれなカフェで過ごしたり、旅行を楽しんだりしている様子をSNSで見るたびにCさんは「生きる世界が違う」「私だけどうして……」と、取り残されたように感じ、孤独感をつのらせていました。
写真下:ピクスタ
Cさんのように、介護に日々直面していると、それまで親しかった友人と話題が合わなくなり、介護とは無関係の生活を目の当たりにして辛いと感じる人はとても多いです。介護の悩みだけでも苦しいのに、友人たちとの距離を感じて味わう孤独は、体験した人にしかわからないでしょう。
私自身、母がくも膜下出血で要支援1から要介護5へ急激に状態が悪化し、同時に祖母の認知症の症状も悪化した時期に、親しい友人から「大変だとは思うけれど、何がどう大変なのかよくわからない」と言われ、落ち込んだことがあります。
また、ある時には「すごいね! 私には介護なんて絶対にできない!」と無邪気に言われ、「私だって、やりたくてやっているわけじゃない!」と腹が立ち、しばらく連絡を取らなくなったこともあります。
苦しい胸のうちは、実際に介護をしている人と分かち合うのが一番です。行政が開催している介護関連の講座や講演会、家族会などがありますが、介護をしている人の多くが、自分の時間を作ることがままなりません。リアルでの参加が難しい場合は、都合の良い時間帯に参加できるインターネット上での集いを探してみましょう。また、SNSでの発信も良い方法です。
私はインターネット上で気持ちを分かち合える人に出会えたことで、ずいぶん救われました。介護にまつわる苦しい気持ちをブログに綴ったところ、同世代で介護に直面している人から「私もです!」と、コメントやメッセージをいただくようになりました。文字だけのやりとりでしたが「辛いのは自分だけじゃないんだ」と感じることができました。
後日、ある人から「あの時、私自身はコメントを書き込むことができませんでしたが、橋中さんと他の方とのやり取りを見て、とても勇気づけられました」と伝えられたこともあります。直接の反応がなくても、自分の体験を発信することで、誰かが救われることだってあるのです。
介護の辛さを分かち合いたい、打ち明けたいと感じた時は、家族会などの話せる場を探したり、ブログやSNSで自分の気持ちを発信すると、心の痛みが少し和らぐことでしょう。
直接会ったり、SNSで発信したりすることに躊躇する時には、私が代表を務める介護者メンタルケア協会のHPでも、介護に関する悩みを書き込めるフォームを用意しています。
Cさんはインターネットで介護経験のある人たちとつながり、心の余裕ができるようになりました。その頃、思いがけないことが起こります。久しぶりに会った友人から「母ががんで3年間闘病していて、最近余命宣告を受けた」と聞かされたのです。SNSでは楽しそうな投稿ばかりをアップしていた友人たちも、実生活ではさまざまな悩みを抱えていたのです。「自分だけが特別に大変なわけではなかったんだと、孤独感が和らぎました」とCさんは話されました。その後、Cさんは友人たちとの関わりを少しずつ取り戻せたそうです。
介護が大変な時期には、親しかった人と心の距離ができてしまうことがあります。しかし、時間の経過とともに関係が再び戻ることも少なくありません。介護によって一時的に距離ができた場合でも、「いずれまた関係が戻るかもしれない」と思うことで、ストレスを減らせるでしょう。連絡を完全に断ち切ってしまわず、距離を柔軟に保ちながら関係を維持し続けるのも良いですね。
写真(トップ):出典:Freepik
著者:橋中 今日子
介護者メンタルケア協会代表・理学療法士・公認心理師。認知症の祖母、重度身体障がいの母、知的障害の弟の3人を、働きながら21年間介護。2000件以上の介護相談に対応するほか、医療介護従事者のメンタルケアにも取り組む。