ケアラーのみなさんの中には、年を重ねるにつれて、「病気にかかりやすくなった」「体調を崩すことが多くなった」など、健康に対する悩みが増えている方もいるかもしれません。しかし、体調を崩しやすいのは年齢のせいではなく、免疫機能が低下している可能性があります。
日々、免疫機能を高めていきたいところですが、「具体的に何をしたらいいかわからない」という方もいるでしょう。そこで今回は、免疫をバランスよく機能させるための7つの生活習慣について解説します。かぜやインフルエンザ、新型コロナウイルス感染症などにかかりにくい体をつくるためにも、ぜひ毎日の生活に取り入れてください。
新型コロナウイルス感染症が流行して以来、「免疫力」という言葉をよく耳にするようになりました。しかし、実をいうと「免疫力」という言葉は造語であって、医学の専門用語には存在しません。
免疫力は、一般的に「免疫機能を正しく機能させて、外から体内に入ってくる病原体から体を守る能力」の意味で使われますが、免疫機能は自律神経や内分泌系とも連動した非常に複雑なもの。単純に「力」として測れるものではないのです。
また、免疫機能は「高ければ高いほどよい」と思われがちですが、それも大きな誤解です。免疫機能が弱まっていると、ウイルス、細菌などの病原体やがん細胞をやっつけることができませんが、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は、花粉や食べ物などに対して免疫が過剰に反応することでおこります。免疫が弱まると病気にかかりやすくなる一方、免疫反応が強すぎることで起こる病気もあるため、「あくまでもバランスが大切」だということを覚えておきましょう。
免疫力の説明で触れたように、免疫機能とは「細菌やウイルスなどの病原体や異物から、体を守るための生体防御機能」です。免疫機能を担っているのは白血球の免疫細胞で、免疫細胞には、生まれながらにもっている自然免疫(マクロファージ、顆粒球、NK細胞などが働く)と、後天的に獲得する獲得免疫(ヘルパーT細胞、キラーT細胞、B細胞などが働く)があります。
自然免疫と獲得免疫の主な働きは次のとおりです。
●自然免疫:病原体の侵入を素早く検知して攻撃。併せて、獲得免疫に病原体の情報を伝達します。
●獲得免疫:自然免疫が退治しきれなかった病原体を攻撃するとともに、戦った敵(病原体)を記憶し、次に同じ敵が侵入したときに素早く対応します。
免疫バランスを整えるには、食事や運動など、さまざまな方法があります。ここでは、免疫のバランスをよくする7つの生活習慣を紹介するので、ぜひ実践してみてください。
3-1.【生活習慣1】腸内環境を整える
食べ物の通り道である口から肛門までは、さまざまな病原体が侵入しやすい場所であるため、多くの免疫細胞が集結しています。とくに、腸内には免疫細胞であるリンパ球の半数以上が集まっていて、腸内細菌と共存しているため、腸内環境を整えることが免疫機能を良好に保つことにつながります。
免疫のバランスを保つためには、免疫を調節する細胞たちを育てる腸内細菌のエサとなる食物繊維や発酵食品などを積極的にとることや、睡眠不足、ストレスを避けることが大事です。なお、腸内環境を整えるのにおすすめの食品は、次のとおりです。
①食物繊維が豊富な食品
きのこ類、海藻類、野菜類、いも類、豆類、果物類など。きのこ類には免疫を活性化するβ(ベータ)グルカンという食物繊維が豊富に含まれています。
②発酵食品
ヨーグルト、チーズ、納豆、みそ、キムチ、ぬか漬けなど。発酵食品に含まれる菌には、腸内環境を整える作用があります。
〈POINT〉
●食物繊維が豊富な食品を積極的にとる
●発酵食品を積極的にとる
●眠睡不足やストレスを避ける
3-2.【生活習慣2】栄養バランスのよい食事をとる
多くの野菜に含まれるビタミンA・C・Eは、免疫機能を上げる効果が期待されています。また、青背魚に含まれる脂は、免疫の過剰な反応を抑えると考えられているので、意識してとるようにしましょう。
ただし、高エネルギー、高塩分、高脂質の食品は、アレルギーなどによる炎症を促進する可能性があるので控えめに。いろいろな食品をバランスよく、腹八分目に食べることが大切です。
〈POINT〉
●できるだけいろいろな種類の食材を取り入れる
●野菜を積極的にとる
●青背魚を意識してとる
●高エネルギー、高塩分、高脂質の食品は控えめにする
3-3.【生活習慣3】適度な運動をする
適度に筋肉を動かすと、マイオカインという物質が筋肉から出て、NK細胞やキラーT細胞の働きを促進します。また、運動をすると血液やリンパ液の流れがよくなるため、免疫細胞が全身を巡りやすくなり、病原体をいち早く見つけて対処できます。
ただし、ヘトヘトになるような激しい運動のあとは、一時的に免疫機能が落ちることがわかっています。無理をせず、「適度」な運動を心がけましょう。体調がすぐれないときに無理をすると、状態が悪化する危険もあるので、長時間の持久性運動や負荷が高い筋トレなどは体調のよいときに行ってください。
〈POINT〉
●適度な運動を習慣にする
●通勤時間や昼休みを利用して意識的に歩く
●駅や買い物などの際は積極的に階段を利用する
3-4.【生活習慣4】質のよい睡眠をとる
睡眠不足は免疫機能を低下させます。質のよい睡眠を十分にとるようにしましょう。眠りにかかわるホルモンのうち、夜間に分泌されるメラトニンは免疫機能を上げるといわれているため、正常に分泌させるためにも、規則正しいリズムで睡眠をとることが大切です。朝日を浴びることや、就寝前のストレッチなども、質のよい睡眠につながります。
〈POINT〉
●十分な睡眠をとる
●就寝と起床の時間はできるだけ一定にする
●起床後は朝日を浴びる
●寝る前に軽めのストレッチを行う
3-5.【生活習慣5】ぬるめの湯につかる
入浴によって血流がよくなると、免疫細胞の循環もスムーズになります。また、ゆったりとお湯につかってリラックスすれば、安眠やストレス解消にもつながります。就寝の1~2時間前にぬるめの湯にゆっくりつかり、体内深部の温度を上げておくと、体温が下がるタイミングで眠気がおこり、入眠しやすくなります。
〈POINT〉
●入浴は就寝の1~2時間前に
●38~40℃のぬるめの湯に15~20分程度つかる
●好みの香りの入浴剤を使い、リラックス効果を上げる
●入浴できないときは、足湯でもOK
3-6.【生活習慣6】よく笑う
「免疫細胞や免疫物質は、笑うことで活性化される」ということが、いくつかの実験で証明されています。お笑い番組やコメディー映画、動画配信サイトの面白動画を見るなどして、思いっきり笑うことは、免疫機能にプラスに働くでしょう。また、口角を上げてつくり笑いをするだけでも、免疫細胞が活性化されることがわかっています。日頃から、意識的に笑顔をつくるように努めてください。
〈POINT〉
●お笑い番組やコメディー映画を見るなど、大笑いする機会をつくる
●口角を上げてつくり笑いをする
3-7.【生活習慣7】ストレスをためない
ストレスは、免疫機能を低下させる大きな原因ですが、そこには自律神経やホルモンなどの内分泌系も複雑にからみ合っています。ストレスを完全になくすことはほぼ不可能なので、いかに上手に付き合っていくかがポイントです。短時間でもリラックスできる時間をつくり、趣味を楽しむ時間をつくるなどして、ストレスをためない生活を心がけましょう。
〈POINT〉
●心身ともにリラックスできる時間をつくる
●感情をため込まない
●悩みは親しい友人などに相談する
●深呼吸をする
著者:三宅幸子(みやけ・さちこ)
順天堂大学医学部 免疫学講座教授。
東京医科歯科大学医学部卒業。順天堂大学で内科臨床研修後、同大学膠原病内科大学院で臨床免疫学を学ぶ。大学院卒業後、米国ハーバード大学ブリガム女性病院リウマチ免疫科に留学し、シグナル伝達に関する研究に従事。帰国後は、国立精神・神経医療研究センター神経研究所を経て、順天堂大学医学部の教授に就任。自己免疫の病態解明と新規治療法の開発に取り組む。