健康でイキイキとした毎日を過ごすには、腸内環境を整えることが大切です。大腸には600 兆個以上もの腸内細菌が生息していますが、腸内環境が悪化すると便秘や下痢だけでなく、さまざまな不調を引き起こしてしまいます。また、腸の健康は免疫力や代謝にもかかわってくるので、十分注意が必要です。
腸内環境を整えるポイントは、毎日の過ごし方と食生活、そして「うんち力」にあります。いつまでも若々しく、健康でいるためにも、今回紹介する腸によい暮らし方や食べ方、よいうんちの作り方を参考にして、腸年齢の若返りをはかりましょう。
大腸には600兆個以上、1,000種類以上もの腸内細菌が存在します。体によい働きをする菌もいれば悪い働きをする菌もいて、それらの菌の構成により、健康は大きく左右されます。これまでは「善玉菌2割、悪玉菌1割、日和見菌7割が理想のバランス」というのが定説でしたが、近年は研究が進んで新たな観点が着目されるように。そのキーワードとなるのが、腸内細菌研究の第一人者である理化学研究所・辨野義己先生が提唱する“長寿菌”です。
「実は、日和見菌の多くは未知の菌であり、今でも詳しいことはよくわかっていません。それで、『善玉菌というとビフィズス菌ばかりが注目されるけれど、ほかにも知られざる力を秘めた菌が存在するのではないか』と考えて研究した結果、長寿菌の存在が明らかになったのです」と辨野先生は話します。
辨野先生は、全国の健康な長寿者が多い地域を訪れ、食事や生活習慣を観察。さらに、腸内細菌を調査したところ、ある菌種が特徴的に多く検出されました。それが「大便菌」「ラクノスピラ」「ビフィズス菌」の3つで、辨野先生はこれらを総称して「長寿菌」と名づけました。ちなみに、大便菌の学名は「フィーカリバクテリウム(あるいはフェイカリバクテリウム)」ですが、一般にもわかりやすいように辨野先生がネーミングしたのだそうです。
「腸内細菌に占める長寿菌の割合は、普通の人では30%程度ですが、健康な長寿者では50~60%を占めていました。彼らに共通していたのは、食物繊維が豊富な野菜をたくさん食べ、発酵食品も取っていること。さらに、自分で野菜を育てている人が多く、畑仕事で下半身の筋肉を日常的に鍛えていることでした」(辨野先生)
ではなぜ、「食物繊維+発酵食品+下半身の運動」という生活習慣によって、長寿菌が増え、健康で若々しい腸を保つことができるのでしょう。ここからは、その詳しい仕組みについて解説していきます。
一般的に、腸内環境は加齢とともに悪くなり、50代を境に一気に悪化するといわれています。しかし、現代は若い人の中にも、腸年齢が老化している人が多くみられます。なぜでしょう? その最大の原因は、偏った食生活です。
「若い人に多い、野菜不足で肉中心の高脂肪・高たんぱくの食事は、長寿菌を活性化させる食物繊維が圧倒的に少ないうえ、悪玉菌のエサになりやすいのです」(辨野先生)
そんな話を聞くと、「自分の腸年齢はどのくらいなのだろう」と気になってきますよね。以下に、〈腸年齢チェックシート〉を掲載しておくので、まずは自分の腸内環境がどのような状態なのかを確認してみましょう。
「長寿菌を活性化し、腸内環境を整えるうえでもっとも重要なのが、よいうんちを作り、育て、出すことです」と辨野先生。一般的に便の約80%は水分で、残りの約20%の中に食事の食べカスや腸内細菌などが含まれており、その内容によって便の状態が決まります。つまり、どんな食べカスを大腸に送り込むかが、腸内環境を左右するポイントなわけです。
「腸は、食習慣や運動習慣などによって働きをコントロールできる臓器。腸を若返らせるのも、老けさせるのも自分次第なのです。食べ物から取ったビフィズス菌などは、そのまま腸にすみ着くわけではありませんが、大腸内を通過する間に酸性物質を生み出して腸内環境を整えたり、腸壁を刺激して便通を促したりする働きがあります。毎日摂取して腸内環境を整えましょう」(辨野先生)
食物繊維が豊富な食事でよいうんちを作り、発酵食品で腸内環境を整えてうんちを育て、腸まわりの筋肉を鍛えてうんちを出す。辨野先生によれば、この3つの「うんち力」が快便の秘訣なのだとか。下記のポイントを参考に、うんち力アップを目指しましょう。
〈快便に欠かせない3つのうんち力〉
①作る力:食物繊維をたっぷり取って便のかさを増やす
よいうんちを作るいちばんのポイントは、食物繊維が豊富な食事を取ること。水溶性食物繊維は便をやわらかくし、有害物質を吸着して体外へ排出します。一方、不溶性食物繊維は便のかさを増やし、腸を刺激して排便を促します。また、長寿菌を活性化させるうえでも、食物繊維は欠かせません。
②育てる力:発酵食品で腸内環境を整える
よいうんちを育てるには、長寿菌が活動しやすいように、腸内環境を整えることが大切です。そのために有効なのが、ヨーグルトや乳酸菌飲料、納豆などの発酵食品。バナナやはちみつ、玉ねぎ、アスパラガスなどは、ビフィズス菌のエサとなるオリゴ糖を豊富に含むので、一緒に取るとより効果的です。
③出す力:腸まわりのインナーマッスルを鍛える
せっかくよいうんちを育てても、押し出す力がなければ排便できません。押し出す力をアップするには、腸まわりにある腸腰筋というインナーマッスルを鍛えて、腸のぜん動運動をサポートするのがおすすめです。ウォーキングのほか、椅子に座ったまま太ももを上げる運動でも鍛えることができるので、毎日の生活に取り入れてみましょう。
先に紹介したように、長寿菌を増やすうえで大事なカギとなるのが、食物繊維と発酵食品です。以下で紹介する食材を積極的に摂取して、若々しく健康な腸を目指しましょう。
4-1. 食物繊維は腸でどう働く?
食物繊維が便秘解消に役立つことは広く知られていますが、食物繊維の働きはそれだけではありません。酪酸産生菌は食物繊維をエサに酪酸を作るため、食物繊維が豊富な食事を取るほど酪酸産生菌が増加し、酪酸の産生が促されます。すると、上図のような連鎖反応が起こり、腸内環境の改善につながるのです。
4-2. 腸が喜ぶおすすめ食材はこれ!
ここでは、食物繊維が豊富な食材の中でも、特におすすめのものを紹介します。できるだけ多くの種類の食材を取るように心がけてみてください。
・さつまいも
水溶性食物繊維と不溶性食物繊維が、1:2.7という理想的な割合で含まれています。加えて、便通を促す効果のある「ヤラピン」という成分も豊富です。
・ひじき、昆布
海藻類の中でも、とくに食物繊維が豊富です。昆布を干して細切りにした刻み昆布を、水で戻して煮物や炊き込みごはんに入れると、たっぷり摂取できます。
・きのこ類
えのきたけ、しいたけ、しめじ、エリンギなどは、100g中3~5gの食物繊維を含んでおり、とくに不溶性食物繊維が豊富です。
・いんげん豆、大豆
いんげん豆は、豆類の中でもとくに食物繊維を豊富に含んでいます。大豆も食物繊維が豊富なので、納豆やおからを積極的に取るのがおすすめです。
・ごぼう
野菜の中でもとくに食物繊維が豊富で、100g中5.7gの食物繊維を含んでいます。きんぴらだけでなく、サラダや炒め物などにも使いましょう。
・オクラ
ネバネバの元となっているのはペクチンなどの水溶性食物繊維。善玉菌のエサとなって善玉菌を活性化させ、悪玉菌の繁殖を抑えます。
腸内細菌の50~60%を長寿菌が占めることが、腸年齢の若さをキープするポイント。長寿菌を増やすためにも、便の状態を確認しながら、腸が喜ぶ食材を意識的に摂取しましょう。辨野先生がいうには、よいうんちを作る食物繊維とうんちを育てる発酵食品を同時に取ることで、さらに効率よく腸内環境を改善できるそうですよ。
付け加えるなら、腸内環境を改善するには適度な運動や質のよい睡眠も大事です。日々の生活習慣を見直して、理想の腸内環境を目指してください!
監修:辨野義己(べんの よしみ)先生
辨野義己(べんの・よしみ)
一般財団法人辨野腸内フローラ研究所・理事長、理化学研究所名誉研究員。腸内細菌の分類と生態に関する研究を続け、DNA解析により新しい腸内細菌を多数発見。著書に『大便通』(幻冬舎)、『長寿菌まで育てる最高の腸活』(宝島社)などがある。
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護にあたるケアラーをサポートをするプラットフォームです。 シニアケアをスマートに。高齢化先進国と言われる日本が、誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。