睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に何度も呼吸が止まったり(無呼吸)、呼吸が浅くなったりする(低呼吸)状態がくり返される病気です。自分で気づいていない人も多く、放置していると、日中に強い眠気が起きて日常生活に支障を来したり、重大な病気を引き起こしたりします。睡眠時無呼吸症候群のサインや検査・治療法について解説します。
睡眠時無呼吸症候群にはいくつかタイプがありますが、代表的なのは「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」と、「中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)」です。ここでは、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)について解説します。
まずは時間帯ごとの閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)のサインをチェックしてみましょう。病気のサインとして、下記のような症状があります。それぞれ、「寝ているとき」「起きたとき」「日中」の該当する項目が複数ある人は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の疑いがあります。医療機関を受診しましょう。
■ 寝ているとき
□毎日のように大きないびきをかく
□息が止まっていびきが途切れ、しばらくするとまたいびきをかきはじめる
□何度も目が覚める
□夜間に何度もトイレに行く
■ 起きたとき
□熟睡感がない
□のどの痛み・違和感がある
□口の中の乾きを感じる
■ 日中
□眠気がとれない
□倦怠感がある
□疲労感がある
なぜ、睡眠中に呼吸が止まるのでしょうか。健康な人では、鼻や口から入った空気は、舌根(舌の根元)や軟口蓋(なんこうがい)の間をスムーズに通り抜けて気管へ流れ、肺に送られます。しかし、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の人では、あお向けになったときに舌根や軟口蓋などが落ち込み気道(空気の通り道)が狭くなるため、そこを空気が通るたびにのどの周辺が振動し、いびきをかくようになるのです。そして気道が塞がると、睡眠中に呼吸が止まります。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群による居眠り運転の事故が問題になっています。閉塞性睡眠時無呼吸症候群になると睡眠が妨げられるため、日中に強い眠気が起こり、運転中の事故や仕事中のミスにつながりやすいのです。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の害はそれだけではありません。この病気に詳しい虎の門病院呼吸器センター内科部長の玉岡明洋先生は、命にかかわる病気を引き起こす危険もあると指摘します。
「睡眠中に気道が塞がり、無呼吸や低呼吸になると、血液中の酸素が減少し、全身に供給される酸素量も不足します。また、覚醒がもたらされることによって交感神経が活性化し、心臓や血管に負担がかかります。この状態を放置していると、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を引き起こしやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞による死亡率も高くなることが明らかになっています。最近の研究では閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、うつ病や認知症の発症リスクを高めるという報告もあります」(玉岡先生)
理由は判明していませんが、閉塞性睡眠時無呼吸症候群になっても日中の眠気を伴わないケースもあります。眠気がなくても、毎日いびきをかき、肥満や高血圧などの傾向がある人は、この病気を疑ったほうがよいでしょう。女性の場合、更年期以降は女性ホルモンの減少によって、いびきをかいたり無呼吸になったりしやすいといわれていますので、注意が必要です。
家族から、「いつもいびきをかいている」「就寝中に呼吸が止まっている」と指摘されたら、早めに睡眠外来や睡眠障害の専門医がいる医療機関を受診しましょう。専門医が近くにいないときは、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、循環器内科などを受診してください。
「寝室が別で、一人で寝ているなど、自分がいびきをかいているかわからない人は、いびきを録音できるスマートフォンのアプリなどを利用して、チェックすることをおすすめします」(玉岡先生)
※日本睡眠学会のホームページ(http://www.jssr.jp/)では、同学会の専門医や専門医療機関を調べることができます。
医療機関を受診し、問診などで閉塞性睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、自宅で簡易検査を行い、確定診断が必要な場合は医療機関での精密検査を行います。これらの検査で、睡眠中の呼吸の状態を調べ、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の重症度を判断したうえで治療法を決めます。
自宅での検査方法として、「簡易無呼吸検査」があります。問診の結果、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群の疑いあり」と判断された場合は、患者に小型の検査機器を持ち帰ってもらい、自宅で簡易検査を行います。睡眠時に鼻と指にセンサーを装着し、睡眠中の脈拍数や呼吸の状態、動脈血酸素飽和度(血中の酸素濃度)、いびきの状態などを調べます。
医療機関での検査では、「終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査」があります。簡易検査でより詳しい検査が必要と判断された場合は、医療機関にひと晩入院し、睡眠中の状態を調べる検査を行います。頭部、胸、指、脚など、体のさまざまな部位にセンサーを取り付け、いびきや呼吸の状態のほか、脳波や心拍数、眼球運動、筋電図などを測定し、睡眠時間や睡眠の深さ、睡眠の質などを調べます。
簡易無呼吸検査や終夜睡眠ポリグラフ検査で、睡眠中に呼吸が10秒以上止まる「無呼吸」か、呼吸量が通常の半分以下の状態が10秒以上続く「低呼吸」が、1時間に5回以上ある場合に閉塞性睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療は、症状の軽い・重いにかかわらず、生活習慣を改善することが基本となります。それに加え、重症度に応じて「マウスピースの装着」や「CPAP療法」などの治療が行われます。症状を悪化させないためには、いびきをかいたり、無呼吸になりやすい生活習慣を見直すことが大事です。軽症の人は、生活習慣を改めるだけで解消することもあります。
・まずは減量する
肥満になると、首周りやのどに脂肪がついて気道が狭くなり、いびきをかきやすくなります。食べすぎに注意し、就寝前の食事・間食をやめるなど、食事の内容やとり方を見直し、運動量を増やして肥満の解消に努めることが大切です。
・禁煙する
喫煙すると気道の炎症を誘発し、呼吸機能を低下させるため、閉塞性睡眠時無呼吸症候群が悪化する原因となります。タバコを吸っている人は禁煙に取り組みましょう。
・寝酒をやめる
アルコールをとると、のどの筋肉が緩み、就寝中に舌の根元がのどに落ち込み、いびきや無呼吸が悪化しやすくなります。少なくとも就寝前の4時間は飲酒を避けることが必要です。
・横向きで寝る
あお向けに寝ると、重力によって舌の根元や軟口蓋が下がって気道が狭くなります。特に、あごの小さい人は、あお向けに寝たとき、舌の根元がのどの奥の方へ落ち込みやすい傾向があります。横向きで寝るようにしましょう。
玉岡先生がすすめる横向きに寝る工夫を紹介します。軽症の人では、体を横向きにして寝ることによって、気道が狭くなるのを防止できる場合があります。
横向きの寝姿勢を保つ手軽な方法として「テニスボール療法」があります。就寝時に着るパジャマなどの背面にポケットを縫いつけ、テニスボールを入れて寝ます。あお向けの姿勢になると、テニスボールが背中に当たるため、自然に横向きの寝姿勢を保つことができます。ただし、敷布団がやわらかいと、テニスボールが布団に沈み込んでしまい、効果がなくなるため、要注意です。
最近では、側臥位(横向きの体勢)を保つための枕やクッション、仰臥位(あお向けの体勢)になるとアラームが鳴る装置などが市販されていますので、そうしたものを利用する方法もあります。
軽症から中等症の場合は、寝るときに専用の「マウスピース」を装着すると無呼吸や低呼吸を軽減するのに効果的です。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群用のマウスピースを上下の歯に固定し、下あごを前方に移動させることによって、舌の根元や軟口蓋がのどに落ち込むのを防ぎ、呼吸しやすくなります。マウスピースは、主治医の診断に基づき、歯科で製作します。
マウスピースには、上下一体型と上下分離型があります。上下が一体となったタイプの上下一体型マウスピースは、健康保険が適用されますが、下あごの位置などが調整しにくいなどのデメリットがあります。上下分離型は、上下が分かれたタイプで、下あごの位置を調整しやすく、会話などもできます。健康保険の適用はないため、自費となります。
中等症~重症の場合は、一般に「CPAP(持続陽圧呼吸療法)」による治療が行われます。睡眠時に鼻や口にマスクを装着し、専用の装置から空気を気道へ送り込むことによって気道を広げ、無呼吸や低呼吸の発生を防ぎます。マスクは、鼻を覆うタイプ、鼻孔に差し込むタイプ、フルフェースタイプなど、さまざまな種類があります。
装置一式はレンタルで、10秒以上の無呼吸や低呼吸が1時間当たり20回以上ある場合
は、健康保険が適用されます。睡眠中マスクをつけることに、最初は違和感を覚えるかもしれませんが、じきに慣れてきます。どうしてもCPAPによる治療になじめない場合は、マウスピースの装着による治療を行うこともあります。
ただし、睡眠薬をのんでいる人は要注意です。ベンゾジアゼピン系などの睡眠薬は、筋肉を弛緩させる作用があります。閉塞性睡眠時無呼吸症候群の人が服用すると、睡眠中にのどの筋肉が緩んで気道が狭くなり、無呼吸を長引かせたり悪化させたりする可能性があります。
睡眠薬を服用している場合は医師に申し出て、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の病状に影響が及ばないかどうかを確認することが大切です。
監修:玉岡明洋先生
玉岡明洋(たまおか・めいよう ※写真下)
虎の門病院呼吸器センター内科部長
日本呼吸器学会呼吸器専門医・呼吸器指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本アレルギー学会アレルギー専門医。東京医科歯科大学呼吸器内科医員、助教、講師、東京医科歯科大学呼吸・睡眠制御学講座准教授を経て現職。
著者:MySCUE事務局
その他
MySCUEからのお知らせをお伝えいたします!