認知症と診断されても初期のころは記憶や計算の苦手を感じる程度で、日常生活は自立していることが多いのですが、中期に差し掛かると日常生活に苦手や失敗を感じることが徐々に増えてきます。頭の中では誤解と曖昧が入り乱れることが多く、今一つはっきりしない中でこれまで通りの生活を送ろうと一生懸命に頑張るため、頭が疲れやすくなります。
今回はこの時期に上手に寄り添うためのポイントを学びましょう。
入浴の苦手の次には、トイレ動作が苦手になりやすくなります。トイレの苦手と言っても、尿意や便意がなくなるわけではありません。
認知症になることで、トイレでの動作そのものが苦手になるのです。トイレ動作を分解してみると、実に20ほどの動作が連続しており、この手順のどこかを間違うとうまく動作ができなくなります。
①トイレの場所を考える
②トイレまで向かう
③トイレの電気をつける
④ドアを開けて中に入る
⑤ドアを閉める
⑥洋式トイレの場合、便器とは反対方向に向く
⑦ズボンやスカートを適度に下げる
⑧下着(パンツ)も適度に下げる
⑨便座に座る
⑩下腹部に力を入れ集中する
⑪排せつをする
⑫トイレットペーパーを適度に巻き取る
⑬排せつ物をふき取る
⑭きれいにふき取れたかを再度確認する
⑮パンツを上げる
⑯洋服を戻す
⑰排せつ物を流す
⑱きちんと流れたかを確認する
⑲ドアを開ける
⑳外に出る。
認知症の人はできないのではなく、全行程のほんの一部が苦手になっているだけです。だからこそ、どの手順で止まってしまったのか、すごろくのように一緒になって一つ一つを確認していくと良いでしょう。
トイレの介護は「きつい」、「きたない」、「くさい」がつきものです。これまでは頑張ってきたものの、家族介護の限界を感じるという時期もまたこのころです。最後まで看取ってあげることができずに申し訳ないという家族がいますが、今の時代は家族介護ありきではないと思います。
家族にとって難しい介護はしっかり介護保険制度を活用し、介護のプロに支援を求め、プロにはすべてを引き出すことができない「家族の思い出話」や「人生の振り返り」、「生きてきた中で頑張ってきたこと」「苦労話や自慢話」などで安堵と安心を共有し、「一緒に過ごす時間の大切さ」を共有することが、認知症ご本人の残存能力を活かした家族の支援の在り方だと思います。
いかがだったでしょうか? このように認知症の中期には、さまざまな日常生活への苦手が出てきます。「今、何が苦手になっているのか」を一緒に考えることができれば、「最小の一手」の介護で問題が解決することもありますし、「次に何が苦手になりそうか」という知識を持っていれば、先回りのケアを実現することができると思います。認知症の症状は進行していきますので、「後手介護」にならぬようにケアを備えておくことが大事だと思います。
著者:川畑 智(かわばた・さとし)
病院、施設、社会福祉協議会での勤務経験を活かし、熊本県内10市町村の地域福祉政策に携わり厚生労働大臣優秀賞を受賞。著書「マンガでわかる認知症の人が見ている世界」はシリーズ累計26万部を突破。認知症のリハビリ・ケア・コミュニケーションを学ぶ認定資格ブレインマネージャーや日本パズル協会特別顧問も務める。