私たちが体を動かせるのは、筋肉や骨、関節、神経が正しく機能し、正しく連携しているからこそ。ロコモが進行すると、運動器に不具合が発生し、体をうまく動かせなくなってしまうのです。ただし、ロコモになってしまった場合でも、運動習慣を身につけたり、栄養バランスのとれた食事を心がけたりすることで、機能回復を図ることが可能です。今回もロコモの名医として知られる渡會公治先生に教えていただいたロコモ体操を紹介します。ロコモ予防の参考にしてください。
みなさんの中には、「ここ数年、あまり運動をしていない」「すでに移動能力が低下しているかも」と不安になっている方がいるかもしれません。となれば、自分にロコモの可能性があるかどうか、知りたいところですよね。
実は、ロコモかどうかは、簡単なチェックテストでわかります。下に7つのチェック項目を掲載しておきますので、自分に当てはまるものがあればチェックしてみましょう。
<ロコモ度チェック>
□ 片脚立ちで靴下がはけない
□ 家の中でつまずいたり、滑ったりすることがある
□ 階段を上るのに手すりが必要
□ 横断歩道を青信号で渡りきれない
□ 15分くらい続けて歩けない
□ 2㎏程度の買い物(1L牛乳パック2個程度)をして持ち帰るのがつらい
□ 家の中のやや負担の重い仕事(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)をするのがつらい
7つの項目は、どれも骨や関節、筋肉などの運動器が衰えているサイン。1つでも当てはまれば、ロコモの心配があります。該当項目をゼロにするためにも、しっかりロコモ体操を行ってください。
ここからは、ロコモトレーニングを3つ取り上げて解説していきます。まずは、階段を使った運動からスタートしましょう。
ロコモ度チェックに、「階段を上るのに手すりが必要」という項目があるように、手すりを使わずに階段を上るには、筋力とバランス力が必要。つまり、階段は絶好のトレーニングアイテムなのです。日常生活では意識して階段を使い、足腰を鍛えましょう。上り下りの際に正しい姿勢を心がけると、より効果的な予防運動になります。
上り方
階段に足を置くときは、手を太ももにあてて、一歩ずつしっかりと体重をのせましょう。その際、つま先だけでなく、階段に足裏全体が載るようにするのがポイントです。また、脚を踏み出すときは、人さし指のつけ根とひざがまっすぐになるように意識してください。
下り方
階段を下りるときも手を太ももにあてて、ナンバ歩き(※1)で下ります。下ろす脚は、必ずつま先立ちになるようにしてください。多くの筋肉を使いバランス力を鍛えるつま先立ちは、ロコモ予防に効果的です。なお、下りるときは、体をはすに構える(30°くらい)とラクに移動できます。
※1 右脚と右手、左脚と左手を同時に出す歩き方のこと。
「アラベスク」はバレエやフィギュアスケートで使われるポーズの名称です。片脚で立ち、上げた脚をまっすぐ後方へ伸ばすポーズといえば、ピンとくる人もいるのではないでしょうか?
アラベスク・スクワットは背筋、ハムストリング(ももの後ろを縦に走る筋肉)を鍛えるのに最適で、ヒップアップ効果も期待できます。背中、お尻、太もも、立っている足の裏などの緊張を感じながら、ゆっくりと行いましょう。「何回やるべき」という回数は決まっていないので、無理のない回数を1日に数回行ってください。具体的なやり方は、以下のとおりです。
1 椅子(または机)に両手をつき、上半身を水平にします。使用する椅子(または机)は、手をついて上半身が水平になるくらいの高さで、安定感のあるものを選びましょう。
2 5秒くらいかけて、右脚を上げます。脚を上げるときは、頭、肩、お尻、脚が一直線に、水平になるように意識してください。その姿勢で5秒間静止したら、ゆっくり脚を下ろしましょう。左脚も同様に行います。
アラベスク・スクワットのポイントは、上げた脚のひざが外側を向かないようにすることと、ひざとつま先が正面を向いていることの2点です。
上級編
「まだ余裕がある」「もう少しできそう」という人は、片脚でスクワットをするのがおすすめです。STEP2のポーズのあと、支えている左脚のひざを、ゆっくりと曲げ、ゆっくりと伸ばして元に戻ってください。右脚も同様に行います。
スクワットは、脚、おなか、背中、お尻などの筋肉を鍛える定番のトレーニングで、ロコモ対策には欠かせません。ここでは、安全に配慮して椅子を使って行う方法を紹介します。正しいフォームを意識して、無理のない範囲で行いましょう。上級編として、相撲の「四股(しこ)」を取り入れた、究極の片脚立ちトレーニング法も紹介するので、興味のある人はぜひチェックしてください。
1 安定性のある椅子の座面の真ん中に座り、脚を大股に開きます。ひざと足の人さし指が同じ方向になるようにしたら、手をひざに置きましょう。
2 体を前に倒して足裏の真ん中に重心をのせるように、ゆっくりお尻を上げていきます。次に座面にお尻がつかない位置までゆっくり下ろします。これを数回くり返し、徐々にお尻を高く上げていきましょう。
スクワットの際、ひざが内側に入ると、ひざに負担がかかり、ひざを痛める原因になるので注意してください。ひざがつま先より前に出ないようにするのもポイントです。
上級編
もしできそうであれば、「三点支持四股」に挑戦してみましょう。三点支持四股は、バランス力、柔軟性、筋力アップが期待できるロコモ予防に効果的なトレーニングです。
1 右手を椅子の座面に置き、左手を床に置いて、右脚を後ろに上げます。
2 次に、左手を左ひざに置き、左ひざを伸ばしながら右ひざを曲げ、脚を大きく回して静かにつま先から床に脚を下ろします。終わったら、左脚も同様に行いましょう。
ロコモにつながる運動器の衰えは、日々少しずつ進んでいくため、本人が衰えていることに気づかないケースも多いのだとか。日常生活の中で「何か変だな」と感じたら、随時〈ロコモ度チェック〉で状況を確認してみるとよいでしょう。片脚立ちで靴下がはけなくなったり、家の中でつまずくことが多くなったりしたときは、要注意です!
イラスト:末続あけみ
指導・監修:渡會公治
著者:渡會公治(わたらい・こうじ)
一般社団法人美立健康協会代表理事、帝京科学大学医学教育センター特任教授。
スポーツ医学および身体運動科学の専門家。主にスポーツ整形外科医として、スポーツ障害や高齢者のロコモティブシンドローム予防と治療に取り組む。体力や筋力を適切に評価し、トレーニングや運動量の調整を提案することで、スポーツ選手や高齢者の健康を支えている。『長生き足腰のつくり方』(アスコム)、『いますぐできるロコモ体操』(家の光協会)など著書多数。