みなさんは、「ロコモ」という言葉をご存じですか? ロコモは「ロコモティブシンドローム」の略で、骨や関節、筋肉、神経などの運動器に障害が起こり、日常生活の立つ・歩くといった機能が低下してしまう状態を指します。転倒を防いで、要介護にならないためには、ロコモを予防することが大切です。そこで、ロコモの名医として知られる渡會公治先生に、ロコモの予防や回復に役立つ体操を教えていただきました。関節への負担も少なく、かつ高い効果が期待できる体操なので、ケアラーやシニアの方にもおすすめです。

1. 正しい姿勢を身につける!中心探しの体操

猫背だったり、左右どちらかの肩が上がったり下がったりするなど、バランスの悪い姿勢は、ロコモにつながりやすくなります。まずは、体の中心を探す体操で、正しく美しい立ち姿勢を身につけましょう。コツは風に吹かれる柳のように、体全体を揺り動かし、足裏に注意を向けて、どこに荷重がかかっているかを感じとること。続けているうちに、美しい姿勢が身についていきます。

 

 

両脚を肩幅に広げて力を抜いて立ちます。体を前後に大きく揺らし、揺れを小さくしながら、前後均等に荷重のかかる真ん中の位置を探します。

 

体を左右に大きく揺らします。揺れを小さくしながら、左右均等に荷重のかかる真ん中の位置を探します。

 

前後左右の揺れによって、十文字をイメージします。その中心点に頭を置き、頭頂で左回りに小さなマルを描き、そのマルをだんだん大きくしていきましょう。右回りも同様に行います。

ポイントは頭だけではなく、体全体を使ってマルを描くこと。きれいなマルを描くには、全身を上手にコントロールする必要があります。

 

十文字の真ん中(体の中心)を意識しながら、頭のてっぺんが天井に引き上げられるようなイメージで、背すじを伸ばしていきます。次に、頭のてっぺんに重い物を載せられたようなイメージで縮んでいくのに抵抗しましょう。そうやって伸び縮みをくり返していると、力が抜けてバランスよく立てる位置が見つかるはず。そこが美しく立つための要となる箇所です。

 

体の中心を探すためには、正しい重心の位置を意識することが大事です。足の人さし指のつけ根とかかとを結んだ足の裏の中心線上で、内くるぶし前方の土踏まずのあたりが、正しい重心の位置なので、覚えておきましょう。

2. ロコモ体操の基本!片脚立ちトレーニング

片脚で立つには、バランス感覚や脚の筋力のほか、揺れを吸収できる柔軟性や、揺れに耐える体幹の筋力なども必要です。片脚立ちが長くできる人ほど転倒や骨折の危険が低くなるので、日々のトレーニングでしっかり鍛えましょう。目安は、左右1分間ずつ1日に3セット。転倒しないように、机や壁などつかまる物がある場所で行いましょう。

 

 

基本編
右脚を床から少し浮かせる程度に上げ、1分間静止します。床に足裏がついてしまったら、もう一度脚を上げて計1分間行いましょう。左脚も同様に行います。

 

上級編
基本編が難なくできる場合は、目を閉じて行ってみましょう。目を閉じるとバランスをとるのが難しくなるのがわかるはずです。

 


基本編が難しい場合は、次の要領で行ってください。

 

 

片脚で立つと不安定な場合は、両手を上げてバランスをとりながら行いましょう。

 

両手を上げて不安定な場合は、上げた脚と同じ側の手の人さし指を机につけて支えます。人さし指だけでは不安定な場合は、5本の指をつけてもOK。それでも不安定な場合は、手のひらを机につけて行いましょう。慣れてきたら、徐々に支えを減らしてみてください。

3. 正しいフォームを身につけよう!コーナースクワット

足腰の筋肉を鍛えるスクワットは、ロコモ予防の王道のトレーニングです。とはいえ、内側にひざが入ってしまう、間違ったフォームでスクワットを行っている人が多いのも事実。ひざを痛める可能性があるので、壁のコーナーを使ったスクワットで、正しいフォームを身につけましょう。ペースは、1回の深呼吸で1回行う程度。1セット4〜5回、1日3セットを目安にしてください。

 

 

部屋の角から1足半のところに立ち、両脚を広げ、ひざ・足・お尻を壁につけます。背すじを伸ばして上体を少し前傾させたら、太ももに手を置いておなかに力を入れます。

 

ひざ・足・お尻を壁につけたまま、ゆっくり腰を下ろしていきます。ひざがつま先を越えないようにし、太ももとふくらはぎの角度が90°になるまで曲げます。90°まで曲げたら、ゆっくりと元の位置に戻ります。

 

ここでのポイントは、次の3点です。
① 壁からひざが離れてしまう場合は、手でひざを壁に押しつけるようにしてください。
②「つま先と同じ方向にひざを曲げる」フォームを意識しましょう
③ 足の人さし指と、かかとの中心を結んだ線が壁と平行になるようにします。小指は壁につけたまま、かかとの外側だけを3㎝ほど壁から離すイメージです。

 

もし、股関節が90°まで開かない場合は、仕切りになる物(段ボールを切った物など)を使って、角度を狭めて行いましょう。

 

4. まとめ

加齢による運動器の機能不全、運動器の疾患はもちろん、運動習慣のない生活や活動量の低下、不適切な栄養摂取などもロコモの原因になります。適度な運動で、筋肉や関節の機能を維持・向上させ、健康寿命を伸ばしましょう。なお、ロコモ体操を実践するときには、次の〈3つのA〉を意識することが大事です。

 

〈3つのA〉
●Anatomy(アナトミー)
身体の構造・機能のこと。運動器(骨・関節・筋肉など)は連動しているので、体の仕組みを知らずに間違った使い方をすれば、故障の原因になります。

 

●Alignment(アライメント)
並べ方・姿勢・構えのこと。車はタイヤを上手に並べることでまっすぐ走れますが、人間も同様です。骨・関節を「よい並べ方」にして、正しい姿勢・構えをとりましょう。

 

●Awareness(アウェアネス)
気づき・認識・理解のこと。単に体を動かすだけでは、体操の効果が半減します。実際に体を動かしながら、学んだ知識を認識し、理解を深めながら進めてください。

無理をすると挫折しやすくなるので、自分のペースを保ちながら、日々の「習慣」にすることを目指しましょう!

 


イラスト:末続あけみ
指導・監修:渡會公治

この記事の提供元
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著者:渡會公治(わたらい・こうじ)

一般社団法人美立健康協会代表理事、帝京科学大学医学教育センター特任教授。
スポーツ医学および身体運動科学の専門家。主にスポーツ整形外科医として、スポーツ障害や高齢者のロコモティブシンドローム予防と治療に取り組む。体力や筋力を適切に評価し、トレーニングや運動量の調整を提案することで、スポーツ選手や高齢者の健康を支えている。『長生き足腰のつくり方』(アスコム)、『いますぐできるロコモ体操』(家の光協会)など著書多数。

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