⾼齢者が⾃宅で転んだとき、救急⾞を呼ぶべきか、様⼦を⾒ていいのか、迷いますよね。過剰な救急⾞の利用が社会問題になっている昨今、適切な判断ができるよう、転倒した後の観察ポイントと判断の目安をお伝えします。
救急⾞の出動件数を少しでも抑えることができれば、本当に必要な方が必要な時に救急⾞をスムーズに利⽤できることになります。⾼齢者が転倒した時や後になって転倒したことがわかった場合はまず意識があるかどうかを確認します。
①意識がない場合
呼びかけや肩を叩く、⼿背や腕をつねるなどの刺激を加えても反応がない場合、意識がないと判断します。
呼吸をしていても、いびきをかいて眠っているようで反応がない、ボーッとして反応が鈍いなどの場合は脳の⾎管で⾎流障害があると考えます。
また、慢性疾患として多い糖尿病が持病の⽅は、低⾎糖症状になると意識を失うことがあり、それがきっかけで倒れて頭部を打撲するという場合もあります。さらに冬場は寒暖差などで⾎流が悪くなると虚⾎性⼼疾患(⼼筋梗塞や狭⼼症など)を発症しやすく、意識を失った際に頭部を強打し、意識消失につながることもあります。意識がなければ救急要請が必要と判断しましょう。
②意識がある場合
⾼い場所から転倒、転落するなど強い衝撃を受けた場合、意識があっても頸椎や脊髄を損傷している場合があります。無理に動かすと呼吸障害や⿇痺を引き起こす可能性があります。救急要請をして安静にしましょう。
転倒した場所がカーペットの上や畳であれば衝撃は少ないですが、⽞関先や屋外でコンクリートや庭⽯に体を打つと強い衝撃を受けます。救急⾞を呼ぶ場合の基準は、強い痛みで起き上がることができない場合です。無理に動かさず、救急⾞を呼びましょう。
a.胸を打った場合
痛みが強い場合は肋⾻を⾻折している場合があり、無理に動かすと折れた⾻が内臓(肺など)に刺さり、呼吸状態に影響を及ぼす可能性があります。
b.お尻を打った場合
腰回りの⾻を⾻折している場合があります。腰の⾻の内側には膀胱や尿道という排せつに関係している臓器があり、その周りにも⼤切な⾎管や神経が通っています。無理に動かすと別の臓器に影響し、状態が悪化することもあります。意識の有無にかかわらず、強い痛みで動くことができなければ救急⾞を呼ぶ、ということを思えておくと良いですね。
③迷った場合の便利なサービス
a. 救急安⼼事業センター(#7119)
どうして良いかわからず困った時、平⽇の昼間であればかかりつけ医のいる病院に相談するのも1 つですが、土日や夜間の場合、「救急安⼼事業センター」という相談サービスがあります。“#7119”に電話をすると相談を受けられる電話サービスです。待機している医師や看護師が電話⼝で症状を聞き取り、緊急性の有無を判断してくれます。緊急性が⾼いと判断された場合は救急隊につなぎ、救急出動へと進みます。また、緊急性が⾼くないと判断された場合でも受診可能な医療機関を紹介してくれたり、受診のタイミングについてのアドバイスが受けられたりと、⾮常に便利で頼りになるサービスとなっています。
b. 総務省消防庁作成アプリ『Q 助』
画⾯上で該当する症状を選択していくと、緊急度に応じた必要な対応が表⽰されます。その後は医療機関の検索や、受診⼿段の選択ができるようになっているため、救急⾞を呼ぶ判断の⽬安になります。
救急受診アプリ通称「Q 太郎」(スマートフォン、タブレットに対応)
頭部は呼吸をコントロールしたり、体を動かすための神経や⾎管がたくさん通っているため、打撲などの損傷は直接、命に関わります。
①慢性硬膜下⾎腫
すぐに症状は出ず、後から「なんだか最近元気がなくなった」「⾷欲がない」「反応や動きが鈍くなる」といった症状が出てきます。これらの症状は大抵、打撲から1〜2ヶ月後に表れますので、何も症状がなくても受診の際には転倒して頭を打ったことを主治医に伝えてください。
②急性硬膜下⾎腫
強い衝撃があった場合は、急性硬膜下⾎腫といい、急に意識障害がみられることがあります。
③認知症
認知症の⽅は認知症ではない⽅に⽐べて2倍以上転倒しやすいといわれています。家族の⾒ていないところで頭を打った場合、⾃覚症状がわかりにくく、突然意識が低下するということも⼗分あり得ます。頭部の打撲が命取りにならないよう、⾜元が滑らないようにするなど転倒防止の対策を⾏いましょう。
救急⾞を呼ぶほどの緊急性はないけれど受診が必要だと判断した時、⾃家⽤⾞で運ぶのは難しそうな場合があります。そのような時は介護タクシーが便利です。
①介護タクシー
介護タクシーとは、ヘルパーの資格を持った運転⼿が乗⾞介助をしてくれるタクシーです。料⾦はその分⾼めになりますが、荷台に⾞いすが積んであり、必要に応じて使⽤することができるので安心です。⺠間の介護タクシー会社も増えているので、事前に連絡先を複数調べておくと、いざというときにすぐ使えるでしょう。
介護タクシーについては介護保険を利⽤できる場合もあるので担当のケアマネジャーがいれば確認してみると良いでしょう。ただ、介護保険で定期通院されている⾼齢者であっても緊急受診であれば⾃費になる場合もあります。
②社会福祉協議会による⾞いすの貸し出し
介護保険を利⽤している⾼齢者の場合、担当のケアマネジャーに相談すれば、車いすを貸し出している業者に貸し出しを依頼してくれます。また、地域の社会福祉協議会では低料⾦で貸し出しをしている所もあるので、問い合わせてみると良いでしょう。
救急⾞の出動件数の増加の背景には超⾼齢化という社会的な現象が影響していると考えられます。救急⾞を呼ぶことになる家族である私たちが呼ぶかどうかの判断基準をもっていれば、本当に必要なところに救急⾞を出動させることができますね。
そのための判断基準とは、以下となります。
① 呼びかけても、叩いてもつねっても意識がない場合
②たとえ意識があっても固いコンクリート等により強い衝撃がある、それによって強い痛みがあり、動けない場合
もし、迷った場合は(#7119)の「救急安⼼事業センター」または、「Q 助」というアプリが便利なので使⽤してください。そして、頭部を打った場合は慎重に経過を⾒ましょう。ただし、転倒による衝撃が強く、出⾎している時は迷わず救急⾞を呼びましょう。
家族だけでの移動が困難な時は介護タクシーを使ってみてください。お近くの社会福祉協議会で⾞いすの貸し出しもされていますので問い合わせていただければと思います。
※この著者の関連情報
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著者:福井三賀子
⽇本ナースオーブ・ウェルネスナースとして活動しています。看護師20年の経験と認知科学、⽇本⽂化の観点からコミュニケーションが健康に影響すると考えています。私と同世代の⼥性との関りから、更年期について探究し、講座や動画を通して情報を配信しています。