老若男女問わず、甘いものが好きな方は本当に多いものです。健康診断では、真っ先に血糖値をチェックするという方もいらっしゃるのではないでしょうか。食べたいけれど、生活習慣病も気になりますよね。甘いものとちょうどよい距離感で付き合うにはどうしたらよいか、一緒に考えてみましょう。
糖質とは、脂質やタンパク質と並ぶ、全身の細胞のエネルギー源となる物質です。赤血球など、糖質だけをエネルギー源として使用する細胞も存在します。エネルギー量は1g当たり4キロカロリーで、体内で素早くエネルギーとして使われるのも特徴です。このほか、核酸の構成成分であるなど、さまざまな場所で働いています。また、血糖値を上げる唯一の栄養素であることも、忘れてはならないポイントです。ちなみに、糖質と食物繊維を合わせた総称が、炭水化物です。
糖質は、穀物、いも類、大豆以外の豆類、果物、菓子・スナック類、甘味料(砂糖など)、清涼飲料水に多く含まれます。血糖値とは、血液中に含まれる糖(ブドウ糖)の濃度を指します。血液中には常に糖質が流れ、いつでも全身の細胞にエネルギーを供給できる状態になっています。
血糖値を理解する上で大切なのは、常に一定の範囲内になるようコントロールされているという点です。血糖値が上がり過ぎると血管が傷つき、下がり過ぎるとエネルギー不足になってしまいます。血糖値が下がらない状態が糖尿病となります。
正常な状態では、どんな食材をとっても、食後の血糖値は140 mg/dLを超えることなく、約3時間後には食事前の値に戻ります。しかし、甘いものをとり過ぎると血糖値が急上昇し、体はインスリンというホルモンを分泌して血糖値を下げようとします。この急上昇した血糖値は急下降しやすく、一定の値から下がることで眠気やだるさ、動悸といった不調が出やすくなります。甘いものへの欲求が高まりやすくなるのも実はこのときであり、血糖値スパイクとも呼ばれます。
さらに、血糖値の急激な変動は、イライラやせかせか、怒りっぽさにも影響します。これは、血糖値が下がり過ぎた際に、血糖値を上げるために分泌されるアドレナリンなどの興奮性物質が関係しているためと考えられます。アドレナリンは血糖値を上げてくれますが、同時にイライラなどのメンタル状態が起こりやすくなります。「最近やけに家族が短気だな」「せっかちになった」と感じる場合、年齢のせいと決めつける前に、どんな食事をとっているかを見直すことも大切です。
「甘いものがやめられない」のも、血糖値が関係していることがあります。日頃から甘いものやおにぎり、菓子パン、パスタなど一品料理を頻繁にとっていると、血糖値スパイクを招きやすくなります。血糖値が下がったとき、体はエネルギー切れを起こさないよう甘いものを欲しやすくなります。血糖値を上がり過ぎず下がり過ぎず一定に保つことは、病気の予防、メンタルの安定、体重コントロールにとって非常に重要といえます。
血糖値のコントロールに関わる主な栄養素は以下のものが挙げられます。
1.ビタミンB群
ビタミンB群は8つの種類があり(ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、ビタミンB12、葉酸)、糖質をエネルギーに変える際に使われます。私たちの体の細胞は、糖をそのままエネルギーとして利用するのではなく、どの細胞でも使える共通エネルギーに変換してから使われます。
例えば「電気」をイメージしてみてください。水力、火力、風力など、さまざまな方法で作られる「電気」という共通エネルギーは、パソコン、電灯、エアコンなど、あらゆるものを動かすために使われます。体内でも同様に、糖や脂質、タンパク質から共通のエネルギーが作られ、各細胞で利用されています。
糖を共通エネルギーに変える際に必要なのがビタミンB群です。特にビタミンB1は重要な役割を果たしており、糖のエネルギーを効率よく利用するために必要ですが、甘いものの食べ過ぎはビタミンB群の浪費にもつながります。加えて、飲酒習慣のある人、腸内環境が悪い人、加工食品をよく食べる人は、ビタミンB群が不足しやすい傾向にあります。
ビタミンB群が豊富な食材は、豚肉やレバー、魚類、肉類、穀物類、豆類、海藻類などがあります。
2.鉄
鉄は、ビタミンB群と同様に、糖を共通エネルギーに変えるのに関わります。また、共通エネルギー作りに欠かせない酸素を全身に運ぶ役割も果たします。不足すると、甘いものが無性に食べたくなる、という人も少なくありません。特に女性は、月経によって毎月鉄を失うため、鉄不足になりやすく、更年期以降も鉄不足を引きずるケースも。婦人科系の疾患を経験している方、過去に貧血などを指摘された方、出産経験がある方は特に注意が必要です。
鉄を多く含む食材には、豚・鶏レバー、マグロ、カツオ、貝類、ほうれん草などがあります。
3.亜鉛
亜鉛は、ミネラルの一種で、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの合成に関わります。そのため、亜鉛不足は血糖コントロールに影響を及ぼします。また、アルコール分解にも必要な栄養素でもあるため、お酒をよく飲む方は不足しがちです。さらに、傷の治りが遅くなった、濃い味を好むようになった、風邪をひきやすくなった、加工食品をよく食べる、菜食主義である、といった人もチェックを。
亜鉛が豊富な食材には、豚レバー、カキなどの貝類、ウナギのかば焼き、赤身肉、豆腐などがあります。
最後に、糖も血糖値のコントロールに直接関わる栄養素です。糖質は血糖値を上げる唯一の栄養素であり、血糖値をコントロールするには、摂取する糖質の量を適切に管理することが鍵になります。
甘いものの食べ過ぎは体によくないことはわかっているけれど、つい食べたくなってしまう……。そこで、具体的に食事で意識するコツをご紹介しましょう。
1.1日3食とる
甘いものと適切な距離を保つためには、甘いものを食べ過ぎないよう、血糖値を安定させることが第一です。食事を抜くと血糖値が下がりやすくなり、「1食抜いているから大丈夫」とついチョコレートやプリンを余分に食べてしまう、という経験は誰しもあるでしょう。現場では、遅めの朝食をとり、お昼は抜いて、夕食までの間にケーキや大福など甘いものとコーヒーをとっている、というパターンがよくみられます。
「カロリーはとり過ぎていないからいいじゃない」という考えもありますが、それは大間違い。シニアにとって注目すべきは、カロリーを減らすことではなく糖質です。1回に食べるものの糖質が多いほど、血糖値スパイクが起こりやすくなります。実際、しっかり3食とるようになったら、自然とお菓子への欲求が減ったという声も多く聞かれます。まずは食事をしっかりとることを心がけましょう。
2.甘いものを食べるなら豆乳と一緒に
おやつで甘いものを食べる場合は、豆乳と一緒にとるのがおすすめです。タンパク質は血糖値の急上昇を防ぐ効果が期待できます。また、食後すぐに散歩に出かけて全身の筋肉を動かすと、さらによいですね。おやつの時間に大福とお茶でほっと一息つくのは、血糖コントロールの面から見るとNG。食後しばらくたった状態で大量の糖質を一気にとると、血糖値は急激に上がり、スパイクの原因となります。
3.おかずをしっかりとり、主食は控えめに
ごはんなどの主食はたっぷり、おかずはちょっとしか食べないような食事では、血糖値が上がりやすくなり、結果として、甘いものに手が伸びやすくなります。そこで、このバランスを逆転させましょう。おかずに使われる肉や魚、卵、野菜には、ビタミンB群、亜鉛、鉄、シニア世代に不足しがちなタンパク質が豊富です。まずはこれらをしっかり補給しましょう。
糖質は、タンパク質や食物繊維と一緒にとることで、血糖値の急上昇を防げます。箸をつけるのはおかずから。シニア世代は食が細くなり、かつタンパク質不足の傾向があるため、足りないものから箸をつけるのがコツです。おかずをしっかり食べておなかを満たし、ごはんは最後に少しだけとるのがポイントです。食後に眠くなるようなら、もしかしたらごはんや糖質の量をとり過ぎてしまっている可能性があります。食後のデザートの量も要注意。ちなみに、雑穀はビタミンB群と食物繊維が豊富です。白米にプラスして炊くと、血糖値の乱高下を抑え、ビタミンB群の補給につながります。
ここまで読んで、「糖質は敵だ!」と感じるかもしれませんが、決してそうではありません。赤血球など、糖質しかエネルギーとして使うことができない細胞もあります。また、体は糖質が不足すると、タンパク質を糖に変える働きをします。つまり、糖質はそれほど大切な存在でもあるのです。しかしとり過ぎると、病気や不調の引き金となります。だからこそ、制限するのではなく、上手にコントロールすることが肝心なのです。
おかずをしっかり食べ、血糖コントロールがスムーズになれば、甘いものも自然と少量で満足できるようになります。すると、だるさやイライラがやわらぎ、睡眠の質や体重コントロールにもよい影響が期待できます。ぜひ、実践してみてくださいね。
著者:吉川圭美(よしかわ・たまみ)
特定非営利活動法人 オーソモレキュラー分子栄養医学協会 栄養カウンセラー(ONP)、管理栄養士、ライター。
取材で出会ったオーソモレキュラー栄養医学(分子栄養学)に魅了され資格取得。内科、心療内科、婦人科、不妊外来のクリニックにおいて延べ5,000件のカウンセリングを担当。シニア世代への訪問指導も行う。多くの人々に栄養の力を伝えるため「plus NUEtrition」を立ち上げ、定期的にセミナーを開催。このほかセミナー講師、栄養学に関する記事執筆、レシピ提案なども。『てんきち母ちゃんのゆる糖質オフのやせる献立』(扶桑社)では栄養監修を担当。