年を重ねるごとに気になるのが血圧ではないでしょうか。毎日、血圧を測ったり、血圧を下げるお茶を飲んだり、日頃からケアに励んでいる方も多いかもしれません。高血圧予防の基本といえば減塩ですが、「何を食べてもおいしくない」という声もよく聞かれます。そこで、減塩以外にもできる、高血圧を防ぐ食事についてご紹介します。
喫煙と並び、日本人の生活習慣病による死亡に最も大きく影響する要因といわれる高血圧。20歳以上の国民の約2人に1人は高血圧というほど、身近な問題といえます。本来、血管は弾力性をもっていますが、血圧が高い状態が続くと、血管は硬く厚くなっていきます。これが動脈硬化です。動脈硬化が進行すると、心筋梗塞や脳出血といった命に関わる病気を招きます。高血圧は自分で気付きにくく、知らない間に体を傷つけることから、「サイレントキラー」とも呼ばれています。
そもそも血圧とはなんでしょうか。血圧とは、心臓から全身に送り出された血液が血管の壁を押すときの圧力のことで、心臓が縮んだり広がったりすることで発生します。上の血圧(収縮期血圧)は、心臓が収縮し血管に最も強い圧力がかかっているときの値で、下の血圧(拡張期血圧)は、心臓が拡張しているときに血管にかかる圧力の値です。
日本高血圧学会の高血圧診断基準では、診察室における収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上の場合、高血圧と診断されます。
では、どうして血圧が高くなるのでしょう。理由はいろいろありますが、その一つに血液量の増加が挙げられます。血液中の塩分濃度が上がると、それを薄めるために体内の水分量が増え、血液自体の量が増加します。そして、心臓から血液を押し出す際の圧力が高くなり、血圧が上がるのです。
さらに、血管自体のしなやかさも関係しています。例えば、ゴムチューブをイメージしてみてください。チューブに水を流したとき、柔軟性のあるチューブであれば、しなやかに広がり、チューブの先から出るときの水圧を和らげてくれます。しかし、硬くなったチューブでは柔軟性がないため、水圧が高くなります。これと同じような現象が体の中で起こり、高血圧につながります。また、肥満、飲酒、ストレス、運動不足、加齢なども高血圧の原因となります。
高血圧には、塩分の影響を受けやすい食塩感受性高血圧と、そうでないタイプの2種類があることがわかっています。食塩感受性のある人は黒人で約80%、白人で約30%、黄色人種はその中間だといわれています。つまり、高血圧の人の中には、減塩だけでは十分な効果が得られない可能性もあるわけです(*)。
日本人の食塩摂取量は、他国と比較して多めです。世界保健機関(WHO)が推奨する量は1日5g未満ですが、日本人の食塩摂取量は1日当たり約10g。つまり、日本人は約2倍の食塩をとっていることになります。食塩のとり過ぎは気になる一方で、厳しい減塩は気が進まない……という方も多いでしょう。そこでおすすめしたいのが、カリウムを食卓に取り入れることです。
カリウムは、細胞内に最も多く存在するミネラルで、ナトリウムとペアで働くため「ブラザーイオン」とも呼ばれます。余分な食塩(ナトリウム)を体外へ排出する働きがあり、高血圧の予防に効果的です。カリウムは、新鮮な野菜、いも類、果物、魚、肉などに豊富に含まれています。例えば、食事の際は必ず野菜サラダをプラスすると、カリウムがとれるようになります。特に、麺類、カレーライスなど、食塩の多い料理を食べるときは、カリウムをプラスすることを忘れずに。みそ汁を飲む際も、野菜をたっぷり入れるとよいでしょう。
加熱せずにそのまま食べられる果物は、効率よくカリウムが摂取できますが、血糖値が上がりやすいという面もあります。血糖値の乱高下は血圧にも関係するため、食べ過ぎには注意が必要です。例えば、キウイフルーツを1日1個程度にとどめるのがおすすめです。また、カリウムは水に溶ける性質があり、ゆでると水に流れてしまうため、加熱調理が必要な野菜はスープにして丸ごと摂取するのがコツです。
※腎機能が低下している場合、腎臓病と診断された場合は、必ず医師の指示に従ってください。
*「塩分感受性」(オーソモレキュラー.jp https://www.orthomolecular.jp/nutrition/potassium/)参照
血管をしなやかにする栄養素としておすすめしたいのがマグネシウムです。ミネラルの一種で、体内のマグネシウムは約50~60%は骨に、残りは筋肉、肝臓、約1%は血液にあります。300種類もある酵素の働きを助ける重要なミネラルです。その一つが、筋肉の緊張をほぐす効果で、血管をしなやかに保ち、血圧上昇を防ぐ働きが期待できます。
マグネシウムが不足すると、足がつりやすくなったり、目元がピクピクしたりするなどの不調が表れることがあります。特に、足のつりはシニア世代に多くみられます。日本人はマグネシウムが不足している傾向にあり、さらにストレスによって尿中に排出されてしまう栄養素でもあります。マグネシウムは、大豆製品、魚介類、海藻類、にがり、ナッツ類などに多く含まれています。特に、和の食材に豊富に含まれるため、日頃から和食を選ぶとよいでしょう。
お手軽な方法として、にがりを飲み物に少量ずつ加えるというのもおすすめです。にがりとは海水を煮詰めたあとに残る液体で、豆腐を固めるために使われています。スーパーなどでも入手できます。お茶やみそ汁などに数滴プラスすることで、手軽にマグネシウムを補給できます。さらに、自然塩は普通の塩に比べて塩分が少なく、マグネシウムなどのミネラルも豊富なため、調理の際にぜひ活用してみてください。
ここまで血圧についてお伝えしてきましたが、実は血糖値も血圧に深く関係しています。血糖値は常に一定の範囲内で保たれるよう、体内で厳密に調整されています。甘いものや主食を食べ過ぎると、血糖値が急上昇・急下降を繰り返します。実はこのとき、自律神経の一種である交感神経が刺激され、アドレナリンをはじめとする興奮ホルモンが分泌されます。これらは血糖値を上げるだけでなく、同時に血圧も上昇させる働きがあります。つまり、甘いものを頻繁に食べていると、血圧も上がりやすくなる傾向があるといえます。甘いものの食べ過ぎを避けることは、生活習慣病や肥満の予防にも効果的であり、同時に血圧のケアにも一役買ってくれるというわけです。
食塩を控えることはもちろんですが、高血圧予防にはほかにもできることはいろいろあります。気になる方はぜひ取り入れてみてくださいね。
著者:吉川圭美(よしかわ・たまみ)
特定非営利活動法人 オーソモレキュラー分子栄養医学協会 栄養カウンセラー(ONP)、管理栄養士、ライター。
取材で出会ったオーソモレキュラー栄養医学(分子栄養学)に魅了され資格取得。内科、心療内科、婦人科、不妊外来のクリニックにおいて延べ5,000件のカウンセリングを担当。シニア世代への訪問指導も行う。多くの人々に栄養の力を伝えるため「plus NUEtrition」を立ち上げ、定期的にセミナーを開催。このほかセミナー講師、栄養学に関する記事執筆、レシピ提案なども。『てんきち母ちゃんのゆる糖質オフのやせる献立』(扶桑社)では栄養監修を担当。