家族が病気と診断されたり、ケアが必要になったりすると、「これ以上悪化させたくない!」「元気になってほしい!」と、食事や運動について熱心に調べ、勧めたくなるものでしょう。しかし、良かれと思っての行動が、かえって家族との関係を悪化させてしまうことがあります。
関西在住のAさんは、80代の母親と二人暮らしをしています。数年前から母親は右手足の違和感や痛みを訴えるようになりました。しばらく原因がわからなかったものの、昨年、パーキンソン病と診断されました。
パーキンソン病とは、手足のふるえや体のこわばり、歩き始めの一歩が出にくくなるなどの症状が表れる進行性の病気です。加齢とともに発症率が上がることがわかっており、超高齢化社会となった現在、パーキンソン病の診断を受ける人が増えています。
Aさんは主治医から、パーキンソン病には根本的な治療法がまだ確立されていないこと、薬物療法とリハビリを併用しながら運動能力や活動量を維持し、進行を抑えることが治療の中心になるとの説明を受けました。
パーキンソン病について本やネットの情報を調べているうちに、進行するとふらつきが増えて骨折しやすくなり、寝たきりになるリスクがあることを知ったAさんは、不安になりました。
そこで、母親にストレッチや筋トレといった運動療法を勧めますが、母親は取り組もうとしません。このままではいけないと感じたAさんは、仕事が休みの日には予定を入れず、母親に「散歩に行こう」「買い物に行こう」と誘い続けます。しかし、母親はなかなか乗り気になってくれません。
ある日、母親に「今日は出かけたくない」と断られたAさんは、思わず「寝たきりになったらどうするんだ! 施設に入ることになるんだぞ!」と声を荒らげてしまいました。すると母親は何も言わず自室にこもり、一日中部屋から出てきませんでした。それ以来、母はさらに自室に閉じこもるようになり、Aさんはどう接すれば良いのか悩むようになりました。
母親を思うあまり、強い言葉を口にしてしまったAさんですが、「母が寝たきりになったらどうしよう」「病気が進行してしまったらどうしよう」という、不安と焦りに突き動かされていたのではないでしょうか。
家族の誰かが数年間にわたって原因のわからない不調が続くという状態が続いたうえに、パーキンソン病という進行性で根本的な治療の方法がない病気に罹っていると知れば、誰しも焦りを感じるでしょう。
ふだんは穏やかな人でも、Aさんのように、高圧的な態度で相手の行動をコントロールしようとしてしまうことがあります。本人にも自覚はなく、不安や焦りから無意識のうちにこのような言動になるのです。
Aさんは、私が理学療法士であることから、どうすれば母親に運動を促せるかと相談にこられました。
これまでの状況をお伺いすると、Aさんは母親がパーキンソン病と診断されて以来、誰にも相談せずに一人で抱え込んでおられたようでした。病気の影響で思うように動けなくなった母親に代わり、仕事をしながら慣れない家事を手伝う日々が続き、その負担も大きくなっていました。仕事と母親のケアが重なり、次第に心の余裕を失っていったのではないでしょうか。
今のAさんにまず必要なのは、母親に運動を促すことではなく、実質的な負担を軽減する手段を確保し、相談できる相手や仲間を得ることです。そこで、Aさんには介護保険の申請と家族介護者や男性介護者の会の情報収集を提案しました。
ケアを担う男性が孤立することは珍しくありません。責任感が強い人ほど、相談する機会を逃し、一人で抱え込んでしまいがちです。こうしたケースが多いことから近年、男性介護者のための集まりや勉強会が増えています。
地域包括支援センターで介護保険の申請について相談したAさんが、そのような会について尋ねると、家族介護者の会と、パーキンソン病の当事者とその家族のための勉強会を紹介されました。
さっそく参加したAさんは「本やネットの情報を調べるだけでは不安が募る一方だったけれど、具体的な情報収集ができ、リアルな悩みを抱える人と出会えて、前向きな気持ちになれました」と話します。
先月は、母親とともに勉強会に参加しました。家に閉じこもりがちだった母親ですが、同じ病気と向き合う人たちとの会話を楽しみ、「また行きたい」と話す様子に、Aさんはこれまでの焦りや苛立ちが和らぐのを感じました。
現在、ケアマネジャーとも相談し、外出支援のサービスを利用して、母親一人でも会に参加できるよう準備を進めているそうです。
ケアが必要な家族が前向きでないことに対して、苛立ちを感じることがあるかもしれません。その苛立ちの背景には、ケアを担う人自身の不安や焦りが隠れていることがあります。まずは一人で抱え込まず、悩みを相談できる機会や場所を積極的に探してみてください。
著者:橋中 今日子
介護者メンタルケア協会代表・理学療法士・公認心理師。認知症の祖母、重度身体障がいの母、知的障害の弟の3人を、働きながら21年間介護。2000件以上の介護相談に対応するほか、医療介護従事者のメンタルケアにも取り組む。