ご家族の排せつケアが必要になったとき、どのようにケアしていいか戸惑う方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、トイレでの排せつケアの方法について、留意点、役立つアイテムなどを解説します。
排せつは人にとって生きていくうえで欠かせない行為ですが、一方で「人に助けてもらうのは恥ずかしい」「情けない」という気持ちが生まれやすい場面でもあります。
高齢者の介助をする場合でも、子どもに対するような呼びかけをしてしまうと、ご本人の自尊心を傷つけてしまう可能性があります。年齢に見合った言葉づかいを心がけてコミュニケーションをとることが大切です。
また、トイレの失敗や臭いといったデリケートな話題を、ご本人の耳に入る場所で話したり、親しい間柄だからといって軽々しく口に出したりしないように注意しましょう。
高齢のご家族がトイレに座ったり立ったりする動作が難しい場合は、トイレに手すりを設置することで転倒のリスクを減らせます。
また、部屋からトイレまでの距離が長く、移動が負担になっている場合は、寝室の近くにポータブルトイレを設置するのも有効な手段です。トイレに間に合わず失敗してしまう不安が減り、安心して過ごせます。
さらに、ご自宅のトイレが和式で使いにくい場合は、かぶせるタイプの洋式便座を利用するのも一つの方法です。大きなリフォームを行う必要がなく、費用を抑えつつ使いやすさと安全性を高められます。
「トイレを手伝ってもらうのが恥ずかしい」と感じる方は少なくありません。そのため、羞恥心を和らげる工夫を取り入れることも大切です。
たとえば、ポータブルトイレを使用する際に目隠し用のパーテーションを設置すると、まわりの視線を気にせず安心できます。また、介助が必要な場合は、下腹部にバスタオルやブランケットをかけることで、抵抗感を減らせるでしょう。
こうした配慮がご本人に安心感を与え、無理なく排せつできる環境づくりにつながります。
排せつケアをする側は、つい何でも手伝ってしまうことがあります。しかし、できる部分はご本人に任せることが大切です。
「自分でできている」という実感は、高齢者の自信につながり、尊厳を守ります。また、体を動かすことは、身体機能の維持にもつながります。
時間がかかる場合もありますが、焦らせてしまうと余計に緊張して排せつしにくくなることもあります。ケアをする側は、少し余裕を持って、温かく見守りながらサポートすることを心がけましょう。
高齢者の中には、トイレに行く回数が増えるのを嫌がって、水分を控えようとする方もいます。
しかし、水分不足は脱水症状や便秘を引き起こすだけでなく、脳梗塞のリスクも高めるため、注意が必要です。「体のために必要なこと」と伝えながら、適切なタイミングでお茶や水を勧めるようにしましょう。
水分を過度に控えることは、かえって体に負担をかけることにつながるため、無理なく続けられる範囲でこまめな補給を心がけることが大切です。
■トイレでの排せつケアの手順
トイレで排せつケアする際の手順を、4つに分けて解説します。
1.本人と一緒にトイレまで歩いて移動する
ご本人のペースに合わせながら、一緒にトイレまで移動します。歩行が不安定な場合は、身体を支えたり、杖や歩行器を活用したりしながら安全に移動しましょう。
2-A.ひとりで排せつできる場合
プライバシーを尊重し、ドアの外で待機します。必要があれば呼んでもらえるよう、一言伝えておくと安心です。
排せつに時間がかかっているときは、体調不良や便秘などの可能性も考えられます。ドア越しに軽く声をかけ、無理のない範囲で様子を確認しましょう。
2-B.トイレ内でのサポートが必要な場合
排せつケアが必要な場合は、本人と一緒にトイレの中に入り、立ち座りや拭き取りなど、自力でできない部分をサポートします。イラスト:イラストAC
便器に座る際は、足がしっかり床につくようにすると安定しやすくなります。また、排せつ物の色や量に異変がないか、さりげなく確認することも大切です。
3.排せつが終わったら歩いて居室に戻る
排せつ終了後は、力んだ影響で血圧が上がり、ふらつきやすい状態になることがあります。
そのため、立ち上がる際やトイレから部屋に戻る際には、転倒しないように慎重にサポートしましょう。体調に変化がないか確認しながら、ゆっくりと移動することが大切です。
4.必要に応じてトイレ掃除をする
排せつ後は、ポータブルトイレの処理やトイレ掃除も忘れず行いましょう。臭いや汚れが残らないようこまめに掃除することで、快適な環境を保てます。
■排せつケアに役立つアイテム
排せつケアをするうえで、あると便利なアイテムを紹介します。
・使い捨て手袋
写真:freepiks
・介護用おしりふき(トイレに流せるタイプ)イラスト:イラストAC
・消臭スプレー写真:写真AC
・泡タイプのおしり洗い
これらは必ず必要なわけではありませんが、本人の介護度に応じて用意しておくと、ケアラーの負担を軽減しつつ、素早い排せつケアが可能です。
泡タイプのおしり洗いは洗い流さなくてよいタイプのものもあり、落ちにくい汚れを簡単にきれいにできます。
排せつケアは、ケアを受ける本人はもちろん、ケアラーにとっても気を遣う行為で、最初は戸惑うことも多いかもしれません。
しかし、すべてを介助する必要はなく、できない部分だけをサポートすることで、お互いの負担を軽減できます。
また、介護用品や福祉用具を活用すれば、日常の負担も軽くなります。無理なく続けられる方法を見つけながら、安心して過ごせる環境を整えていきましょう。
写真(トップ):PIXTA
著者:小原 宏美
大学で音楽療法を学び、卒業後は児童養護施設、高齢者通所介護施設にて勤務。生活支援と並行して、音楽療法による利用者のQOL向上に取り組む。
現在はフリーライターとして、介護や音楽などに関する記事を執筆している。保有資格:保育士・介護福祉士・日本音楽療法学会認定音楽療法士(補)