距離感の難しい母と娘の関係性について考える連載。娘が実の母親を介護するケースはいくつか紹介してきましたが、娘が母親とともに父親の介護をするケースも、一筋縄ではいかないようです。Yさんのようなケースで悩んでいる人もいるのでは?

1. 今もネットワークビジネスにハマる危険のある母親

幼いころは母親が「変わった人」だと気づかず、母親の言うおかしいであろうことも素直に聞く子どもだったというYさん。しかし、中学生になったころから、少しずつ母親に違和感を抱くようになります。というのも、パートに出るようになった母親が、次第にネットワークビジネスにハマり始めたのです。家の中は売れない商品で溢れ、また、母親はお金の管理が全くできないため、ビジネスは常に赤字状態でした。

溢れかえる商品と膨らむ売掛金に、父親やYさんきょうだいが注意をすると、しばらくは反省して大人しくなります。しかし、時が過ぎると、また新しいネットワークビジネスを始めてしまう……。結果、お金の管理におおらかだった父親とともに”老後”といわれる年齢となった両親には、財産がほぼありません。

離婚をしてから、両親と一緒に暮らしているYさん。ネットワークビジネスで母親はこれまでにたくさん失敗をし、痛い目を見てきたはずなのに、つい先日も健康食品のお試しがポストに入っていて、ゾッとしたそうです。高齢ながらもITに明るい母親はインターネットやSNSなどが使えるため、こっそり怪しい商品を購入したり、何かの商売を始める気配が拭えません。

掃除が苦手な母親は、幼いころから子どもたちに掃除をやらせていました。その子どもたちが大人になり、全員が独立したあとの実家は悲惨な状態に。久々に実家に帰ると、水まわりの掃除がされていないので排水管はドロドロ、冷蔵庫の中は賞味期限切れの食材でパンパン。今ではYさんが掃除や冷蔵庫の管理をしているそうです。

また、母親はジッとしていることが苦手で、若いころから外出を好みました。若いころから足として乗車していた原付バイクに70代後半なっても乗り続け、出先で故障してしまい、帰れなくなったことがありました。乗車をやめるよう説得する子どもたちに「もう、乗りません」と誓うも、翌日には原付バイクで出かけてしまいました。この出来事に怒ったYさんの妹が原付バイクを取り上げて、やっと乗ることをやめたのです。

さまざまな言動から母親は「認知症なのか?」と思ったことがあったそうですが、若いころからそうだったため、そんな母親の言動の傾向をネットで調べると「発達障害」という結果につながりました。そこでYさんは「うちの母親はきっと、これだ!」と思い、心がざわつくときは「仕方ない」と諦める方向にもっていくようにしています。Yさんとしては母親が80代に突入し、年齢的なこともあるため、その辺をハッキリさせたいという思いが湧いてきました。同じ思いを持っていた妹が母親に率先して病院での診察を勧めていますが、母親は決してそれを受け入れません。

2. 母親と認知症の父親の介護をすることになって……

母親が「変わった人」だという思いを抱えながらも、家族みんなに優しく、面倒見の良い父親が母親をサポートし、母親と子どもたちを繋いでくれていました。しかし、7年前から父親が認知症になり、介護をともに担うことになった母と娘の関係は悪化の一途をたどっています。

アツルハイマー型認知症と診断された直後の父親は、自分の足で動いたり歩いたりすることができたため、頻繁に徘徊をするようになり、ひと時も目が離せない状態でした。父親のデイサービスのない日にYさんに予定が入り、父親の見守りをお願いするも「テレビに夢中だった」と、父親が家から出ていったことに気づかなかった母親ですが、そんなことは一度や二度ではないのです。

父親が初めて室内で粗相をしたときも、パニックを起こして、仕事中の娘(Yさん)に電話をしてきて「お父さんがおかしくなった」と大騒ぎしたことがありました。Yさんがどうしても手が離せず、父親のオムツ交換をお願いしても「もう少ししたらやる~」と、オムツがパンパンになっても替えてくれず、結局はYさんが換えることもしばしば。そんなふうに父親のことを母親にお願いをしても、やらずに放置されてしまいます。そのうえ、Yさんが父親の対応しても、母親からは「ありがとう」とお礼を言われたことはないそうです。

一方、母親はケアマネジャーをはじめ介護職の人たちには、「自分が夫の介護を頑張っているかわいそうな妻」だと猛烈にアピールします。さらに、Yさんが父親の介助で失敗したことなどをチクチクと指摘しながら報告するのです。ケアマネジャーは母親の独特の性格を理解しているので、Yさんを陰で励ましてくれますが、母娘の関係性を知らない介護職の人は母親の言うことを信じてしまいます。そうった母親の言動が、Yさんにとっては父親の介護よりもストレスとなっています。

3. 父親亡き後、母親と2人きりで生活できるだろうか

父親の介護において、Yさんが語る母親のことを「そんなことくらいで……」と思う方がいるかもしれません。でも、些細なことも許せないほど心の余裕がなくなるのも、介護の現実です。そんな生活をYさんは7年間も続けています。母親の言い分もあるかもしれませんが、介護経験者の著者からするとYさんの気持ちも痛いほどわかるのです。

さらに、貯えがない両親は父親、そして母親の微々たる年金だけでの生活が難しく、Yさんをはじめ、きょうだいが両親の金銭面でのサポートをしていることも大きな負担になっています。

高齢者とお金のイメージ


父親のことは、そもそも大好きなのでシモの世話も難なくできているYさん。でも、子どものころから困った言動を繰り返し、父親の介護で衝突の増えた母親の介護をすることは今の心の状態では難しく、無理だと思ってしまうのだそうで、今後の心配事は、父親が亡くなったあとの母親と2人きりの生活なのだとか。

Yさんは最後に、「我が家のケースだけかもしれないけど、細かいことが分かり合えないのが、母と娘なのかもしれませんが、どこかで、母親を見放せない自分もいるんです」と、複雑かつ正直な娘の気持ちを話してくれました。

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著者:岡崎 杏里

大学卒業後、編集プロダクション、出版社に勤務。23歳のときに若年性認知症になった父親の介護と、その3年後に卵巣がんになった母親の看病をひとり娘として背負うことに。宣伝会議主催の「編集・ライター講座」の卒業制作(父親の介護に関わる人々へのインタビューなど)が優秀賞を受賞。『笑う介護。』の出版を機に、2007年より介護ライター&介護エッセイストとして、介護に関する記事やエッセイの執筆などを行っている。著書に『みんなの認知症』(ともに、成美堂出版)、『わんこも介護』(朝日新聞出版)などがある。2013年に長男を出産し、ダブルケアラー(介護と育児など複数のケアをする人)となった。訪問介護員2級養成研修課程修了(ホームヘルパー2級)
https://anriokazaki.net/

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