「家族の口腔ケアが必要になったけど、どのようにサポートすればよいかわからない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、口腔ケアの手順やポイントをわかりやすく解説します。
口腔ケアとは、歯みがきやうがいで口の中を清潔にすることに加え、唾液の分泌や噛む力、飲み込む力の維持向上を促すトレーニングの両方を指します。
認知症や脳卒中などの疾患により、ご自身で歯みがきをするのが難しくなった方や、食事の際にむせやすくなった方には、口腔ケアが必要です。
誤嚥性肺炎や感染症のリスクを下げる
誤嚥性肺炎の発症要因の一つは、食べ物や唾液が誤って気管に入ることです。口腔内に食べかすが残ると細菌が繁殖しやすくなり、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。定期的に歯みがきやうがいを行って口の中を清潔に保つことで、こうした感染症を予防しやすくなります。
虫歯や歯周病を防ぐ
口腔ケアを怠ると、虫歯や歯周病が起こりやすくなります。特に高齢者は免疫力が低下しがちなため、症状が悪化するリスクが高い点に注意が必要です。歯みがきやデンタルフロスなどを使ってのケアを習慣づけることで、口腔内の細菌増殖を抑えられます。
栄養状態の改善につながる
口の中が清潔に保たれると、入れ歯の噛み合わせが向上し、食事をとりやすくなります。その結果、食欲が増し、栄養状態の維持・改善にも期待が持てます。
認知症予防に役立つ
しっかり噛むと脳への良い刺激となり、認知症予防に効果があるといわれています。また、噛むことで唾液が十分に分泌され、飲み込みをスムーズにする効果も見込めます。
次に、座った状態で歯みがきやうがいができる方のケアの手順をご紹介します。ご本人が自力でできるところは見守りながら、難しい部分をサポートしましょう。
1.口腔ケアに必要なものを準備する
本人に歯みがきの声かけをする前に、洗面所にケアのための道具を用意しておくとスムーズに取りかかれます。本人の状態にもよりますが、主な物は以下の通りです。
● 歯ブラシ
● コップ
● 歯間ブラシ
● 使い捨て手袋
● タオル
● ひじ掛け付きの椅子
使い捨て手袋は、ケアをする方が衛生的にケアを行うために用意します。
また、ふらつきや転倒のリスクがある方は、ひじ掛け付きの椅子に座って行うと安心です。
2.うがいをする
歯みがきをする前に、口の中に残った食べ物のカスを取り除く目的で、うがいをしてもらいましょう。
口を閉じたまま、左右の頬を膨らませてしっかり「ぶくぶくうがい」をすることで、口の周りの筋肉を鍛えることもできます。
3.入れ歯を取り外して洗う
・総入れ歯の場合:下の入れ歯から外す
・部分入れ歯の場合:左右のバネを同時に外す
小さな入れ歯は誤嚥のリスクがあるため、十分に注意しながら取り外してください。外した入れ歯は洗面器やコップに入れ、流水をあてながら歯ブラシで隅々まで洗いましょう。変形する恐れがあるため、熱湯は使わないようにしましょう。
4.歯と舌を磨く
歯みがきをする際は、ゴシゴシと強い力でこすらず、弱い力で小刻みに動かすと歯や歯茎を傷つけず、汚れも落ちやすくなります。
また、舌には「舌苔(ぜったい)」と呼ばれる汚れが付着しやすいため、歯ブラシや舌用のブラシでやさしくこすり、清潔を保ちましょう。
5.頬の内側をマッサージする
歯ブラシの背を使い、頬の内側を外へ押し広げるように軽くマッサージすると、口の中の血行が促進され、唾液が出やすくなります。これは口臭の軽減にもつながります。
6.うがいをする
うがいを数回繰り返し、口の中に残った汚れや歯みがき剤をしっかり洗い流します。何度か繰り返すと清潔さを保ちやすくなるでしょう。
7.入れ歯を装着する
総入れ歯の場合は、まず下の入れ歯から装着し、次に上の入れ歯の中央部を指で押し上げるようにはめると、スムーズです。
嫌がるときは無理強いしない
本人が認知症などのため、口腔ケアの重要性を理解しにくい場合、歯みがきを嫌がることもあります。
このようなときは無理強いせず、少し時間を置いてから再度声かけすると、気持ちが変わってスムーズにケアできることがあります。
また、「うがいをしましょう」「次は入れ歯を外しましょう」と動作を段階的に説明することも大切です。
口腔内のトラブルに気づいたら早めに受診する
口腔ケアの途中で虫歯や歯周病、入れ歯が合わなくなっているなどの口内トラブルに気づいたら、早めに歯科で診てもらいましょう。
放置すると歯の痛みや不快感から食欲がなくなったり、口腔ケアを嫌がったりする原因になることもあります。
著者:小原 宏美
大学で音楽療法を学び、卒業後は児童養護施設、高齢者通所介護施設にて勤務。生活支援と並行して、音楽療法による利用者のQOL向上に取り組む。
現在はフリーライターとして、介護や音楽などに関する記事を執筆している。保有資格:保育士・介護福祉士・日本音楽療法学会認定音楽療法士(補)