人は誰しも疲弊していると他者に優しくできなくなります。それゆえ、介護をする人の心身の状態は提供するケアの質に影響します。介護をする人と介護を受ける人が互いに幸せを感じられるよう、セルフケアでグリーフ(喪失体験がもたらす悲しみ)を癒やし、心身をいたわり守る意識を高めていきましょう。

1. セルフケアの第一歩は、自己理解から

MySCUE 記事 グリーフケア

 

介護に追われて余裕がなくなり、自分らしさや自由を失くすことはグリーフに値します。グリーフを癒やすグリーフケアは、介護を続けるうえで必要なセルフケアといえます。その第一歩は自分と向き合うことから始まります。具体的には、「物事の考え方の傾向は?」「自分にできること、できないことの線引きはどこ?」「限界を知らせる体のサインは?」などを自身に問いかけてみましょう。こうしたことに無自覚だと、つい無理をして自分を悲しませることになります。

 

介護には介護をする人の考え方や価値観が色濃く反映されますが、「物事の考え方の傾向は?」という自問からは、グレーな状態を許せず、成果が出るまでとことんやってしまう「白黒思考」や、親やパートナーを自分の手で守らなくてはと責任を一人で背負ってしまう「ねばならない思考」といった思考の癖に気づくかもしれません。

 

自分を縛る鎖の存在に気づいたら、その鎖をほどくように意識を慣らしていきます。例えば、白黒思考が発動したら「ストップ!」と声に出し、ブレーキをかける練習を繰り返します。頭痛がひどくなるなど体が発するSOSをキャッチしたら、深呼吸をして立ち止まる意識づけをします。介護は要介護者だけでなく自分と向き合う時間でもあり、介護の機会を自己との上手な付き合い方を見直すチャンスに変えていきましょう。

2. セルフケアの実践は足し算と引き算の両方から

MySCUE記事 グリーフケア イメージ

 

自己理解を深める問いかけを通して、グリーフがゆるむモノやコトを見つけるのも大切です。介護中は、使える時間やお金に制限があるかもしれませんが、遠くに出かけたり、時間をかけたりしなくても、心身の充電は可能です。まずは現在の生活スタイルを崩さずに、自分のエネルギーの範囲で実現できる「気持ちがいい」「ほっとする」と感じられるグリーフケアの方法を探してみましょう。

 

例えば、カフェで1時間だけ一人で過ごす、介護を理由にやめていたなじみの行動を再開させる、体がほっとする食べ物・飲み物・香り・感触・音楽を取り入れてもいいでしょう。また、日常に何かをプラスする足し算のセルフケアだけでなく、ルーティンを減らす引き算の視点は「ねばならない思考」の緩和に有効です。掃除の回数を減らす、施設への面会を1回休むなど、やらない自分を許す機会をつくってみましょう。

3. 簡単な自己調整法で意識を外から内へ

MySCUE記事 グリーフケア マインドフルネスイメージ

 

ここでは、簡単にできる2種類の自己調整法を紹介します。どちらも外に向いた意識を内に向けるので、介護のある日常と距離を置き、なおかつ体と心が発するSOSに気づきやすくなります。

 

●グラウンディング
グラウンディングとは、大地とのつながりを意識して不安定な体と心を整え、地に足がついた状態に戻すこと。心身のバランスが整うとリラックスや集中が深まり、新たな気持ちで介護に向き合えます。

 

1. 椅子に座り、両方の足裏全体を床につける。
2. 胸を開いて背筋を伸ばし、姿勢を整える。軽く目を閉じる。
3. 1分間、集中して呼吸に注意を向ける。呼吸が速いと感じたら深くゆっくりした呼吸に戻し、ニュートラルな状態に立ち返る。

 

 

●マインドフルネス瞑想
呼吸を通して「いまここ」に意識を集中させ、過去の後悔や未来への不安から距離を置く瞑想法。


1. 椅子に座り、眠くならないように背もたれに寄りかからず背筋を伸ばし、軽く目を閉じる。床に座る場合はあぐらをかく。
2. 自然な呼吸を続け、おなかが膨らんだり、へこんだりする感覚に意識を向ける。考え事が浮かんだら呼吸に意識を戻し、集中が途切れたことを責めない。

4. グリーフの荷下ろしには信頼できる傾聴者を頼ろう

MySCUE記事 グリーフケアイメージ

 

信頼できる相手に困り事や不安を傾聴してもらい、グリーフの荷下ろしをするのも介護中のセルフケアとして有効です。悲しみや苦しみを伴う複雑な感情を抱えた状態は、必ずしも医療的ケアが必要とは限りません。病院に行くほどではないけど気分が晴れないと感じるときは、身近な聴き手に思いを打ち明けてみましょう。

複雑性悲嘆といって看取り後に深い悲しみが年単位で続くケースがあります。セルフケアでは癒やしきれない痛みを抱えたときは、心の専門医のもとで医療的ケアを受けることをおすすめします。

 

●身近な聴き手
・ケアマネジャー
介護サービスを利用している場合、最も身近な介護のプロであるケアマネジャーを頼ってみましょう。介護をする人の生活や心の状態にも耳を傾けてくれますが、自分からSOSを発することが大事です。

 

・介護関係の自助グループ
自助グループとは、共通の悩みを抱えた人たちが集まり支え合う場。認知症、がん、ヤングケアラーなど、疾患や状況別にグループを構成し、各地域で活動しています。情報交換の場としても有効。

 

・信頼できる友人、知人
専門的な傾聴訓練を受けていなくても、否定や批判をせず思いを受け止めてくれる聴き上手な友人、知人は頼れる存在です。

 

・遺族会
看取り後の悲しみを癒やす場として、大切な人を亡くした人が集まる遺族会があります。運営するのは市民グループ、病院、葬儀社などさまざまです。同様の経験をしたスタッフが運営するグループもあり、遺族同士が語らい、思いを分かち合えます。

 

●心の専門医
・精神科医
複雑性悲嘆の治療は、認知行動療法が有効といわれています。死別の現実やつらい記憶と向き合うプログラムを経て、心を整理していきます。

 

・遺族外来
家族ケア外来、精神腫瘍科と呼ぶこともあり、各地の病院に設置され、残された家族の精神的ケアを行っています。がんで家族を亡くした人のみを対象としているケースもあります。

5. まとめ

介護に一生懸命な人ほど、自分のキャパシティーに無自覚になりがちです。心身のバランスを崩さず介護を続けるには、自己理解を深め、自分を縛っているものやグリーフの要因を探すことから始めてみましょう。それは自分を守り、ひいては介護の質にも関係します。グリーフを癒やすには「傾聴」が助けとなり、つらい状態が長引くなら心の専門医を活用しましょう。

 

 

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著者:北林あい

医療・健康・介護分野のフリーライター、臨床傾聴士(上智大学グリーフケア研究所認定)。30代で乳がんになり、治療は順調に進み寛解を迎えたものの、穏やかな日常が突然奪われる怖さ、将来への漠然とした不安が消えない日々を過ごす。その経験から喪失悲嘆や心のケアの領域に興味を持ち、大学の研究・教育機関でグリーフケアを学び、臨床傾聴士の資格を取得。現在、乳がん患者や自殺念慮を抱える人を対象に、傾聴を通じたグリーフケアを行っている。

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