⽇本は世界でも有数の睡眠負債⼤国であり、約4割が睡眠不⾜の状態といわれています。パソコンやスマートフォンの使用による睡眠の質の低下や不眠愁訴を訴える方も増えています。新しい季節の春を気持ちよく過ごすため、ぐっすり眠るためのセルフケアについてお伝えします。
「睡眠負債」という⾔葉を⽿にしたことがある⽅もいらっしゃると思います。睡眠負債とは、本来必要とされる睡眠時間の不⾜が累積した状態のことを指します。多くの成⼈は脳と身体を健常に働かせるためには7時間前後の睡眠が必要といわれています。7時間の睡眠を必要とする⼈が、6時間未満の睡眠を続けていれば睡眠負債が蓄積することになります。
2021 年の OECD(経済協⼒開発機構)による調査では、⽇本⼈の平均睡眠時間は 7 時間 22 分で、先進国 33 カ国の中で最も短い結果だったというデータがあります(*1)。
また、厚⽣労働省は 20 歳以上の男性 36.1%、⼥性 42.1%の睡眠時間が 6 時間未満であったと報告しています(*2)。⽶国睡眠財団の報告で 18〜64 歳の成⼈において、睡眠時間が6時間未満の場合、健康被害のリスクが⾼まることを指摘しており、⽇本⼈の4割近くが問題となる睡眠時間の範疇に該当すると指摘されています (*3)。
このようなことから睡眠の観点からみると、⽇本は健康へのリスクが⼤きい国といえると思います。
●「眠れない」理由はさまざま
不眠の症状にはさまざまな種類がありますが、大きくは⼊眠障害・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害の4つのタイプに分けられます。
①⼊眠障害︓寝つきが悪く、眠りにつくまで 30 分から1時間以上かかる状態
②中途覚醒︓睡眠中に何度も⽬が覚めて、その後なかなか寝付けない状態
③早朝覚醒︓早朝に⽬が覚めて⼆度寝ができない状態
④熟眠障害︓眠りが浅く熟眠感がない状態
1つの症状だけではなく、複数の症状が表れる⼈もいます。
●5つの「眠れない」理由
現代の私たちの⽣活にはパソコンやスマートフォンが⽋かせない存在となっており、朝から眠る直前まで操作している人も多くいます。これらの機器を操作している時間が⻑くなると、運動不⾜につながったり、眠る時間が遅くなったり、自然と精神的なストレスを受けることにもつながります。それらが眠れない理由につながると考えられます。 ここでは眠れなくなる理由を⼤きく5つに分けて説明します。
① 就寝時の⼼と体の状態
⼼の状態としては、ストレスや悩みごとがあったり、なんらかの心理的な刺激を受けた時に眠れない理由となることがあります。 体の状態としては、寝る直前までパソコンやスマートフォンから発せられるブルーライトを浴びると、睡眠ホルモンといわれているメラトニンの分泌が抑制されるために体内時計が乱れ、睡眠を妨げる原因となるといわれています。
② ⽇中の⼼と体の状態
夜だけでなく、日中の過ごし⽅も寝つきに関係しています。日中の運動不⾜や⽇光を浴びていなかったり、昼寝をしていたりすると、寝つきが悪くなります。
運動は体温上昇後の低下が入眠を誘引し、日中のに日光浴は睡眠と深く関わるセロトニンを生成し、セロトニンが前述のメラトニンに変わるため、眠気をきたすといわれています。また、長めの昼寝は夜の睡眠を妨げるため、寝つきに影響します。さらに、⽇中に強いストレスを受け、ストレスがたまったままの状態でも寝つきに悪影響を与えます。
③ 眠る環境
部屋が明るい、⾳や臭いが気になる、寝具が合わないなど、眠る時の環境も寝つきに影響します。
④ 前の⽇の睡眠状態と現在の体調
前の⽇に徹夜をしていれば翌⽇はぐっすり眠れるように、前の⽇の睡眠が⼗分でなければ、翌日不足分を補おうとするのが、命を守るために発達してきた睡眠本来の機能です。しかし、寝る時間が不規則になると体内時計が乱れ、眠りにくくなることもあります。またその日の体調によって寝つきが悪くなることも あります。
⑤ 睡眠習慣
休日に丸一日眠ってしまったなど、生活リズムが乱れると、睡眠の質が低下し、寝つきに悪い影響を及ぼすといわれています。
*1 「日本人は「睡眠不足」 女性の4割が睡眠6時間未満 先進国で最下位」
*2 「国⺠健康・栄養調査結果の概要」 (厚⽣労働省)
*3 第 1 回 世界最⼤級の睡眠負債⼤国⽇本(公益財団法⼈ ⻑寿科学振興財団 健康⻑寿ネット)
今回はぐっすり眠る⽅法を3つご紹介します。その中からご⾃⾝で⼀つ、気軽にできることから始めてみてく ださい。
●睡眠の習慣と環境を⾒直す
①お昼寝は 15 分。⻑くても 1 時間までにする
⽇中眠気を感じればお昼寝をする時もありますよね。その時間は 15 分が最適といわれています。⻑くても1時間までにしましょう。午後からすっきりとした状態で過ごすことができます。夜の睡眠に影響しにくくなります。
②パソコン・スマートフォンを遠ざける
SNS や動画を観ていると、ついつい夢中になってしまい、気づけば眠ろうとしていた時間を過ぎていることもあると思います。しかしながら、パソコンやスマートフォンから出るブルーライトは脳を興奮させ、寝にくい状態にさせてしまいます。ぐっすり眠るには、電源を切る時間を決めると良いですね。
③ 暑い時は冷却マクラ・冷却シートで頭を冷やす
眠る環境としては、室温も重要です。これからの時期は気温が⾼くなり、寝づらくなってきます。エアコンや扇⾵機で室温を調整することもできますが、「頭寒⾜熱」ということわざがあるように、 頭を冷やすことで眠りやすくなります。
●それでも眠れない時は布団から出る
⽇中の出来事を思い出してイライラ。明⽇のことを考えて不安。理由は特にないけれど、とにかく眠れない……気持ちが焦ってしまいますよね。 そんな時におすすめの対処法をお伝えします。
①布団から出て、トイレへ⾏き気持ちを切り替える
眠れない時は布団から出てトイレへ⾏き、気持ちを切り替えます。トイレで⽤を⾜し、戻ってきたらお⽩湯などを飲んで体を温めましょう。⽂字の多い本を読むと、鎮静効果やリラックス効果が得られるといわれています。
②布団に戻ったら、「ああ〜気持ちいい」と布団の気持ちよさを感じる
布団はあなたの快適な睡眠を提供してくれる場所だということを改めて確かめられます。
③眠れることを「うれしい」と思う
④1⽇を終えられたことに感謝をする
眠れることは「うれしい」ことですし、1⽇を終えられたことに感謝をすると、⼼が満たされ眠りにつきやすくなります。
●お腹を温める
次の章で詳しく説明します。お腹を温める効果をお伝えします。また動画内で実際にお腹に⼿を当てて、体がじんわり温かくなるのを体験してみましょう。
お腹には眠りに関係する神経が集まっているので、温めることでリラックスし、眠りやすくなるといわれています。
① どんな効果があるの︖
お腹を温める効果についてご説明します。
自律神経や交感神経、副交感神経という言葉を聞いたことがある⽅もいらっしゃると思います。自律神経 には交感神経と副交感神経があり、眠るには副交感神経が優位になる必要があります。 お腹を温めると副交感神経が優位になり、⼼と体がリラックスした状態になります。 つまり眠る準備が整うということです。
さらに今回は、「丹田」という場所を温めます。 おへその10㎝下にある丹田は、「⽣命の根本があり経絡の中⼼とされる場所」と中国の古い医学書に記されています。この丹田を温めることで、ストレスの緩和などの効果があるといわれています。
手当ての効果についてもご説明します。
お腹が痛くなった時、また、ご家族がどこかにぶつけて痛がっている時はどうすることが多いでしょうか。痛い場所に手を触れていませんか。何気なく体に手を当てて、ご自身やご家族を癒しているのではないでしょうか。
ケガや病気などの処置をする医療⾏為を「手当て」といいます。言葉の由来は諸説ありますが、私たちが 普段から⾃然に⾏っている「⼿を当てる」ことによって得られる癒しの効果が原点という説もあります。
また、信頼関係を築いている相⼿と触れ合うことで、リラックスしたり幸福感に包まれる経験があると思います。これは「絆ホルモン」や「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンが分泌されるためといわれています。手には癒しの効果があると知っていると、お腹を温める時にさらにリラックスできるのではないでしょうか。
② ⼿でお腹を温めてみましょう
動画を⾒ながら⼀緒にお腹がじんわり温かくなるのを体験してみましょう。 温める場所は、先ほどご紹介した「丹⽥」です。場所はおへそから指3本分下の部分です。
●体の準備
イスやソファーに寄りかかったり、可能であれば仰向けで横になりましょう。 次に丹⽥の上に手を置きます。⽚手でも両手でも構いません。
●丹⽥の上に⼿を置いたら、⽬をつむり、ゆっくりと呼吸をする
ゆっくり呼吸をすると気持ちがリラックスします。
●丹⽥に置いた⼿のあたりに意識を向ける
お腹がじんわりと温かくなってきます。⼼と体がリラックスしています。
●ゆっくり呼吸をしながら、お腹の温かさを感じる
●⽬を開ける
日頃ゆっくり呼吸をしたり、体に意識を向ける習慣のない方の中には、これでよいのか不安になるかもしれませんが、リラックスして毎⽇寝る前に行ってみてください。
来⽉の動画は、「5月病ってなに?! 春に起こりやすい⼼の病を防ごう」です。
新年度は慣れない環境の中でいつのまにかストレスを抱え、急激に体調不良になることがあります。とくに5⽉の⼤型連休の後に⼼と体の不調をきたす⼈が多く、これらは5⽉病と呼ばれています。
「5⽉病の原因と傾向」「気持ちを切り替えるスイッチのつくり⽅」をお伝えします。ぜひご視聴ください。
※この著者の関連情報
・ブログ「慢性疲労の⼥性のための和整体院@札幌」
著者:清⽔明⽇⾹
⼀般社団法⼈⽇本ナースオーブに所属し、ウェルネスナースとして活動しています。ストレスは怠さや痛みといった体の症状となって現れます。常に体の症状を感じている慢性疲労の⼥性へ向けて⼼や体との付き合い⽅、健やかに暮らす⽅法を和整体師の知識や経験も交えてブログでご紹介しています。