「立ち上がりが難しくなってきたけど、どうやって車椅子に移ればいいの?」「自分も腰を痛めないか心配…」という方もいるのではないでしょうか。
この記事では、無理なく安全に移動介助を行うコツを、介護福祉士の視点からわかりやすく解説します。
移乗介助とは、ベッドから車椅子、椅子からトイレなどへ体を移す動作のサポートです。日常生活の中で欠かせない動作であり、安全に行うためには介助される側と介助する側(ケアラー)の連携が大切です。
移乗介助では、ケアラーの姿勢がとても重要です。無理な動作は、腰を痛める原因になります。自身の体を守るためにも、以下のポイントを意識しましょう。
・足は肩幅よりやや広めに開き、重心を安定させる
・ひざを軽く曲げて腰を落とし、背筋はまっすぐに保つ
・ご本人にできるだけ近づいて立つ
・「抱え上げる」のではなく、体重移動を利用して動く
・ご本人の動きに合わせ、力まかせにならない介助を心がける
ここからは、ベッドから車椅子への移乗手順を確認していきましょう。
Step1:車椅子の準備
ベッドの横に、平行または15〜45°の角度で車椅子を配置します。
ブレーキをしっかりかけ、動かないよう固定します
フットサポートは上げるか、取り外しておきます。
アームレストやサイドガードが可動式の場合は、上げておきましょう。
ポイント: ご本人とケアラーの体格や状況に応じて、移乗しやすい位置を見つけましょう。
Step2:声かけ
「これから車椅子へ移りますね」など、これから行う動作をわかりやすく伝えます
「一緒にやりましょう」と声をかけ、協力を促します
ご本人のペースに合わせて進めましょう
ポイント:移乗の際は必ず声をかけて、ご本人が安心して動けるようにしましょう。
Step3:起き上がりの介助
半身を起こし、体を回転させてベッドの端に腰を下ろしてもらいます
足がしっかり床につくよう、ベッドの高さを調整します
座位姿勢が不安定な場合は、ケアラーが介助される方の背中を支えましょう
ポイント: 起き上がりが難しい場合は、ベッドの背もたれを少し起こしてから介助をします。急に動くと、めまいやふらつきの原因になるため注意が必要です。
Step4:立ち上がりと方向転換
両手を脇の下に入れて背中を支えます。
「1、2の3で立ちましょう」と声をかけて、動作のタイミングを合わせます。
ご本人が前傾姿勢になったら、ひざを伸ばして立ち上がれるよう促します。
立ち上がったら車椅子の方向に体の向きを変えます。
ゆっくりと腰を下ろして、車椅子に座ってもらいます。
ポイント: 「後ろに車椅子がありますよ」と伝えてから、ゆっくりと座ってもらいましょう。勢いで座ると転倒のリスクがあるため、丁寧な声かけが重要です。
Step5:座位の調整
深く腰掛けられているかを確認します。
姿勢が崩れている場合は、お尻を後ろに引くようにサポートします。
フットサポートを下ろし、足をきちんと乗せましょう。
ポイント: 腰が浅く座っていると姿勢が安定せず、転倒やずり落ちのリスクが高まります。しっかりと奥まで座れるようサポートし、足元の位置も整えましょう。
1. 準備と声かけを丁寧に
これからどのような動作を行うのかを、事前にわかりやすく伝えましょう。
2. 無理な力を使わない
残っている身体機能をできるだけ活かし、ご本人が自分で動ける部分は任せることが基本です。
3. ケアラーの姿勢を保つ
背中を丸めず、ひざを軽く曲げて腰を落とす姿勢を保ちます。体を痛めないためにも、安定した姿勢を意識しましょう。
4. スピードよりも安全を重視
焦って動かすと、事故や転倒の原因になります。一つひとつの動作を、ゆっくり確実に行うことが大切です。
5. 表情を見ながら対応する
痛みや不安の表情が見られた場合は、すぐに動作を止め、状態を確認しましょう。
事前に動画やイラストで動きをイメージしておくと、より自信を持って対応できます。
Q1. ベッドから立ち上がりやすい姿勢は?
まず足がしっかり床についていることが大切です。足が浮いていると踏ん張れず、安定しません。足は肩幅に開き、ひざの下かやや後ろに置くことで力が入りやすくなります。上体は前に倒して重心を足元へ移動させ、手すりやベッドの縁に手をついて支えると、より安全に立ち上がれます。
Q2. 移乗介助でやってはいけないことは?
本人の腕を引っ張って立たせるのはNGです。肩の脱臼や、バランスを崩して転倒する恐れがあります。また、声かけなしで急に動かすのも危険です。不安や恐怖を感じさせ、協力も得にくくなります。さらに、本人の力を無視して全て介助するのも自立支援の妨げになります。
移乗を安全に負担少なく行うためには、環境の整備と福祉用具の活用がポイントです。
1. 環境を整える
移乗をスムーズにするには、まず身の回りの環境を見直しましょう。
・電動ベッドの活用
起き上がりやベッドの高さ調整が簡単になり、介助者・本人ともに負担が軽減されます。
・滑りにくい靴・靴下を選ぶ
足元が安定することで、立ち上がりや移動時の転倒リスクを減らせます。
・手すりの設置
ベッドに手すりをつけることで、自力での立ち座りをサポートできます。
2. 福祉用具を活用する
・多機能車椅子
座面が回転する、肘掛けが跳ね上がるなど、移乗しやすい設計の車椅子を選ぶと、介助動作が格段に楽になります。
・スライディングシート
身体の下に敷き込み、体を滑らせて移動させる補助具です。摩擦を軽減し、介助時の力の負担を大きく減らせます。
※これらの福祉用具は、介護保険でレンタルできる場合があります。ケアマネジャーに相談してみましょう。
著者:中谷 ミホ
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。
保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級