介護テクノロジーを紹介するシリーズ。今回はパラマウントベッド株式会社の見守り支援システムの中核となる睡眠計測センサー「眠りSCAN(スキャン)」をご紹介します。主に介護施設で使用され、マットレスの下に敷くだけで利用者の方の睡眠や呼吸・心拍を推定値として算出し、得られたデータに基づいたケアで生活の質の向上を支援します。同社デジタルソリューション事業部 介護デジタル事業課の田中寛之さんに、製品の特徴や今後の展望について詳しく伺いました。
──「眠りSCAN」はどのような介護テクノロジー商品なのでしょうか?
田中さん: 「眠りSCAN」は、主に介護施設で使用されており、マットレスの下に敷くシート型の体動センサーで、クラスⅠの一般医療機器(*1)です。ベッド上の利用者様の寝返りや呼吸、心拍といった、身体から生じる細かな振動を検知し、睡眠や覚醒の状態をリアルタイムで計測します。幅が約78cmとベッド幅より少し狭く、長さ約24cm、厚さ約1cmの薄型センサーです。写真上:眠りSCAN本体。
写真上:ベッドに取り付けられた際の様子。
──眠りSCANの一番の特徴は具体的にどのような点でしょうか?
田中さん: 非接触型センサーである点です。「眠りSCAN」は、マットレスの下に敷くセンサーのため、利用者様が頭や身体に何かをつける必要がなく負担がかかりません。さらに、設置後の初期設定(キャリブレーション)が不要な「自動感度調整機能」を備えている点や、検知したデータを視覚的に表示し、さらに直感的な操作性を兼ね揃えた見守り支援システム「眠りCONNECT(コネクト)」と連携できるのも強みです。
──開発にあたってのこだわりを教えてください。
田中さん:当社は創業から約78年間、医療機関や介護施設など、プロの現場で使われるベッドや機器を開発し続けてきました。また、「眠りSCAN」の開発は、パラマウントベッド睡眠研究所という研究部門が担ってきました。長年培ってきた経験と知見をもとに、「眠りを妨げない、違和感を持たせないような形で眠りを測れる機械をつくりたい」という強い思いで開発に取り組みました。
*1 使用する際のリスクに応じてクラス1から4まで分類され、製造や販売等において規制が行われている各医療機器のうち、クラス1は「一般医療機器」とも呼ばれ、不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが極めて低いと考えられるものとされている。
写真上:パラマウントベッド株式会社 デジタルソリューション事業部 介護デジタル事業課の田中寛之さん。
──睡眠状態を把握することには、どのようなメリットがありますか?
田中さん:これまでは、人の目で見る以外に利用者様の状態を把握する方法がなく、施設の介護職員が直接確認するのが一般的でした。
「眠りSCAN」の情報を一元管理できる見守り支援システム「眠りCONNECT」では、眠っているか目を覚ましているかが画面で一目でわかるため、その方の状態に合わせたタイミングで介助できるようになりました。施設の入居者にとっては、眠りたいときは眠っていられ、ケアが必要なとき、つまり目が覚めているタイミングでケアを受けられるというメリットがあります。
──睡眠の状態がわかることで、ケアするタイミングを変えられるのですね。
田中さん: はい。これまでは介護職員が見た情報が主な手がかりでしたが、「眠りSCAN」によって1分ごとのデータとして記録されるようになり、より詳細な情報を蓄積できます。
例えば、おむつを替えるタイミングも、決まった時間に替えるのではなく、ご本人の覚醒しているタイミングを見計らって介助することも可能です。また、得られたデータから「よく寝ていると思っていたけど、全然寝られていなかった」とわかることもあります。
その場合、昼間の活動量と夜間の睡眠の関連性を考えたり、ケアプランを見直したりするきっかけにつなげることができます。また、昼間の活動量と夜間の睡眠の関連性を分析することで、ケアプランの評価・見直しにつなげることができるようになりました。
──発売当初から注目されていたのでしょうか?
田中さん: いえ、2009年の発売当初は見守りセンサー自体がまだ普及していなかったため、一部の施設での導入から始まりました。当時検知できたのは、「睡眠」「覚醒」「離床」の3項目のみでしたが、「起き上がりや呼吸数、心拍数なども知りたい」という声を多数いただき、それに応える形で改良を重ねてきました。発売から16年経過し、今は4世代目ですが、これからもユーザーの声を取り入れ、ともに「眠りSCAN」を育てていく環境づくりに努めてまいります。
──ユーザーの体験やそこから生まれた声の中で、特に印象に残っているエピソードはありますか?
田中さん: 私が担当した施設での事例です。利用者様の睡眠データをスタッフが見ていたところ、それまで安定していた睡眠パターンがある日から急に悪化し、眠れていないことに気づきました。これをきっかけに受診した結果、圧迫骨折が見つかりました。
その方はご自身で痛みを訴えることが難しく、日中の様子にも目立った変化はありませんでした。「眠りSCAN」のデータが、利用者様の状態の大切なサインを示してくれた事例といえます。言葉で伝えられない方の状態をデータから読み解き、寄り添うケアにつながる可能性を強く感じました。
写真上:事業所では、このようにモニタで利用者さんの睡眠状態が一目で把握できるようになっている。
──在宅での実証実験で見えてきた可能性について教えてください。
田中さん: 佐賀県の訪問看護事業所では、訪問前に利用者様の睡眠や体動のデータを看護師の方が確認してから訪問する取り組みを行っています。眠れているか、呼吸数や心拍数(推定値)の変動があるかなどを確認したうえで、必要なケアを提供しています。今後はこうした訪問系のサービスの方が使うシーンが増えてくるのではないかと考えています。
──今後の製品開発について、特に注力されている点や、目指す未来像についてお聞かせください。
田中さん: センサーの領域では、今後は排せつケアに注力していきます。トイレに設置する光学センサーで、水面に落ちた排せつ物をAIで画像解析します。尿の場合は排尿時間と尿の色、便の場合は性状や量、色が自動記録できるというものです。これは「睡眠の次は排泄の問題を解決したい」というユーザーの声に応えるべく、開発を進めているものです。
──最後に、読者へのメッセージをお願いします。
田中さん: 当社のブランドメッセージは「WELL-BEING for all beings」です。センサーやシステムなどの最新のテクノロジーを活用した製品やサービスを提供することによって、その方にとってのよりよい人生を実現することができるのではないかと考えています。
現在、眠りSCANは施設での活用がほとんどですが、一部事業所では在宅での実証実験も始まっています。将来的には施設介護にとどまらず、在宅介護の分野でも多くの方々に貢献できるよう努めてまいります。
写真(トップ):PIXTA
著者:織田さとる(株式会社物語社)
介護業界で20年以上の実務経験を持つケアマネライター。専門学校卒業後、特別養護老人ホームで介護福祉士、ケアマネジャー、生活相談員として勤務。現在も施設で働きながら、介護・福祉分野の記事を執筆している。
保有資格:ケアマネジャー、介護福祉士、社会福祉士、公認心理師など。