前篇では丸山さんが納棺師を目指した理由や納棺師の仕事の内容についておたずねしました。後編では葬儀社の選び方や大切な家族を失った後に心がけたいことについて伺います。

1. 葬儀社を選ぶポイント:事前の比較検討と関係者への相談

納棺師を依頼したい場合、現状では葬儀社を通して依頼するケースが一般的ですが、そもそもどのように葬儀社を選べばよいのでしょうか。そのポイントを丸山さんに伺いました。

①事前に比較し、相談をしておく
ご家族などが亡くなって葬儀社を探す場合、急いで決めなければならないことが多くなります。ですので、事前に複数の葬儀社の条件を比較検討し、相談をしておくことが大事だと思います。 

私がご本人に葬儀社を紹介したケースでは、相談者の人となりを知り、葬儀についての希望を伺ったうえでご紹介した後、相談者が時間をかけて選んだため、決定までに2~3ヶ月を要したということもありました。

➁ケアマネジャーや介護施設の管理者に相談してみる
これまで在宅で介護をしていた場合は、担当のケアマネジャーが働く居宅介護支援事業所、介護施設で生活していた場合はその施設の方に相談してみるのも一案です。というのも、葬儀社はケアマネジャーや施設に営業をかけることが多いためです。ただ、紹介された葬儀社が相談者にとってベストであるかはわからないため、「なぜここがいいのか」を細かく聞いておくと安心できるでしょう。

③費用の相場を事前に調べておく
「葬儀社に依頼した際、不明瞭な金額を請求されて不信感をもった」という声もあります。ネットなどで情報収集をし、希望する葬儀のスタイルの相場感を把握しておくとよいでしょう。また、依頼したい葬儀社があれば見積もりを出してもらい、内訳の記載がなければしっかりと確認しましょう

④葬儀に関連する業種の人から紹介してもらう
納棺師は複数の葬儀社を知っている場合が多く、依頼者が知らない葬儀社の一面も知っている傾向があります。知り合いに納棺師の方がいればその方に紹介してもらうこともできますし、お花屋さんなど、他の葬儀関連業者にひとりでも知り合いがいればその方から紹介してもらうのもよいかもしれません。

2. 心臓が停止した後でもケアはできる

病院や施設で家族が亡くなった場合、自宅に家族が戻ってから葬儀までの間、遺族はなにをすればよいのでしょうか。

「医療関係者にとってはその方の心臓が停止したときが亡くなったときと認識されますが、納棺師の場合、まだお体があるうちはその方をケアできるかけがえのない時間だと考えます。その点が医療関係者との大きな違いかもしれません。心臓が停止した後もその方に対して家族ができるケアはあるのではないでしょうか」と丸山さん。

家族は具体的にどんなケアができるのでしょうか。
「(クリームなどで)保湿をするのがおすすめです。顔だけではなく、手なども保湿をしてさしあげるとよいですね」。


納棺師_マッサージ

故人と過ごすことができるこの「かけがえのない時間」に家族にできることを伺ってみました。

「これまで共に過ごした思い出を振り返るとよいかもしれません。好きだった食べ物や飲み物をさしあげたり、そばで音楽をかけてあげることもできます」

さらに「『おはよう』『おやすみ』といった挨拶や声掛けをするとよいのでは」と丸山さんは提案しています。

遺族にとっては故人を前に、悲しみや恐れの気持ちがあると思いますが、いつも通りに声を掛けることで、穏やかな感情になれるかもしれません。


「また、上記のように故人に対する気持ちを枕元で言葉にして伝えたり、手紙に書いておくのもよいでしょう。書くことで気持ちの整理ができますし、書いた手紙を棺に入れることもできます。小さいお子さんなら思い出の絵を描いてもよいでしょう」

丸山さんは医療従事者や介護事業者、一般の方へ向けた講習会も行っています。これまでに、死化粧講習会や模擬納棺式のほか、「納棺師×ケアマネジャー」によるオンラインでの交流会などを開催され、参加者にとって普段あまり話されることのない「死」について考える貴重な機会となっているようです。


納棺師_講習会

興味のある方はぜひ、「あまねや」のホームページをチェックしてみてください。

3. 取材を終えて

長く在宅で祖母を介護していた筆者にとっては、祖母に対する愛情もあり、いつかケアに終わるが来ることはわかっていたつもりでも、葬儀のことをあらかじめ考えることができませんでした。

葬儀のことを考えることで感じる祖母に対する申し訳なさ、そして、亡くなった後のことを考えることで死期を早めてしまうのではないかという根拠のない恐れがあったからです。

今振り返ると覚悟をして事前に葬儀の準備をしておけばよかったと思う反面、葬儀のことを考えられなかった(考えたくなかった)当時の自分の想いも理解できるのです。

現在ご家族のケアをされている読者のみなさんは、今回の記事についてどのような感想をお持ちになったでしょうか。

4. 納棺師・丸山裕生さんプロフィール

丸山裕生(まるやま・ひろみ)
納棺師。山形県生まれ。大学卒業後、納棺専門会社に勤務ののちフリーランスとして独立。納棺師歴は20年以上でこれまでに9,000人以上の方のお別れをお手伝いしている。
納棺の現場以外にも死化粧に関する講習会等をおこない、ご遺体に関する知識や、「納棺師の存在やサービスを知らない」ということで後悔するお別れの機会を減らすために活動している。


納棺師・丸山裕生さん


写真(トップ):PIXTA



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この記事の提供元
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著者:小山朝子

介護ジャーナリスト。東京都生まれ。
小学生時代は「ヤングケアラー」で、20代からは洋画家の祖母を約10年にわたり在宅で介護。この経験を契機に「介護ジャーナリスト」として活動を展開。介護現場を取材するほか、介護福祉士の資格も有する。ケアラー、ジャーナリスト、介護職の視点から執筆や講演を精力的に行い、介護ジャーナリストの草分け的存在に。ラジオのパーソナリティーやテレビなどの各種メディアでコメントを行うなど多方面で活躍。
著書「世の中への扉 介護というお仕事」(講談社)が2017年度「厚生労働省社会保障審議会推薦 児童福祉文化財」に選ばれた。
日本在宅ホスピス協会役員、日本在宅ケアアライアンス食支援事業委員、東京都福祉サービス第三者評価認証評価者、オールアバウト(All About)「介護福祉士ガイド」も務める。

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