高齢のご家族の「物忘れが増えた」「なんとなくぼんやりしている」といった様子に、不安を感じたことはありませんか? 調べていくなかで「軽度認知障害」という言葉を目にし、「認知症と何が違うのだろうか?」と疑問に思った方もいるかもしれません。

そこで今回は、軽度認知障害(MCI)について、認知症との違いや対策を解説します。

1. 軽度認知障害とは?

軽度認知障害(MCI。「Mild Cognitive Impairment」の略)とは、認知症と診断されるほどではないものの、記憶力や判断力などの認知機能が低下している状態を指します。

年齢による自然な変化よりも、少し進んだ認知機能の低下がみられるのが特徴です。たとえば、次のような様子があげられます。

 

・記憶力が低下する
よく会う人の名前や、身近な物の名前がすぐに出てこないことがある

・新しいことが覚えづらくなる
慣れた家電は問題なく使えるが、新しいものの操作を避けたがることがある

・判断力が低下する
物事の正しさを確かめずに、噂や広告をそのまま信じてしまいやすくなる

こうした変化をきっかけに「もしかしたら認知症なのかもしれない」と感じるようになる方もいます。

2. 軽度認知障害と認知症との違い

認知症との大きな違いは「日常生活に支障があるかどうか」という点です。軽度認知障害の場合、認知機能は低下しているものの、自分でも変化に気づいていることが多く、メモを取る、早めに準備するなどの工夫により自立した生活が送ることができます。

一方で認知症になると、記憶力や判断力の低下が顕著になり、自分の変化に気づけないケースも少なくありません。食事や着替えなどの日常生活動作や、家事(料理や掃除など)、薬の管理、金銭のやりくりなどに支障をきたし、家族や周囲からのサポートが必要となります。

3. 軽度認知障害はどれくらいの人に起こる?

軽度認知障害は、決してめずらしいものではありません。2022年に九州大学が行った調査では、65歳以上のおよそ15.5%(6人に1人)が軽度認知障害に該当すると推計されており、その数は約559万人にのぼります(*1)。

一方、認知症と診断されている方は約443万人で、65歳以上のうちおよそ12.3%(8人に1人)とされています。

つまり、軽度認知障害は認知症よりも身近な存在であり、実際に私たちの周りにも該当する方が多くいる可能性があります。「うちの家族だけ?」と心配する必要はありません。



*1 参考サイト:「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(内閣官房 認知症施策関係者会議 資料九州大学 調査結果)

4. 軽度認知障害は正常な状態に戻る可能性がある

軽度認知障害の方が、必ずしも認知症へ進行するわけではありません。もちろん、何も対策をせずに放っておけば症状が進行する可能性はありますが、実際には次のようなことがわかっています(*2)。

・認知症に進行する方:年間5~15%
・健康な状態に回復する方:年間16~41%

つまり、生活習慣の見直しや予防への取り組みによって、回復の可能性も十分にあると考えられます。大切なのは、早期にできることから対策をとることです。


*2 参考サイト:「軽度認知障害 mild cognitive inpairment(MCI)から認知症へのコンバート率およびリバート率はどのようなものか」(「認知症疾患診療ガイドライン2017」日本神経学会)

5. 軽度認知障害を予防・改善する3つの生活習慣

軽度認知障害は、適切な対策により症状の改善や認知症への進行を遅らせることが可能です。

ここからは「運動」「社会活動」「食事」の3つの観点から、日常生活で実践できる具体的な方法を解説します。

①頭と全身を使う運動
有酸素運動が脳の働きを整え、注意力や遂行機能(計画を立てたり、手順を考えたり、状況に応じて行動を切り替えたりする力)の改善に役立ちます。特に、身体を動かしながら頭を使う運動は、記憶力の維持にも効果的です。


運動するシニア

道具不要で手軽に始められる運動として、以下の体操をご紹介します。ケアラーの方も、ぜひ一緒に楽しんでみてください。

【足踏み手ばたき体操】
1.両腕を振りながら、その場で足踏みする
2.1~30まで声に出して数える
3.3の倍数のときだけ拍手する
4.慣れたら「3と4の倍数」で拍手する

うまくできれば大成功ですが、失敗して「あ、間違えた!」という感覚も、脳には良い刺激になります。

さらに応用編として、ケアラーとシニアの二人で向き合って行う方法もあります。

・シニア:3と4の倍数で拍手する
・ケアラー:5の倍数で拍手する

相手につられないよう集中することで、より効果的な脳トレーニングになります。

このように「なんとかできる」くらいの難易度に調整しながら、楽しく取り組んでみましょう。

②家庭内で役割を担う
心身の健康のためには、「地域のコミュニティに参加する」「ボランティア活動をする」といった提案がされがちですが、少しハードルが高いと感じる方もいるでしょう。実は、もっと身近なところから社会活動は始められます。

たとえば保育園に通う孫の送り迎えも、立派な社会参加のひとつです。「時間を守る」「身支度を整えて外に出る」「孫と会話を交わす」といった何気ない行動が、脳に適度な刺激を与え、認知機能の維持につながります。

趣味やボランティア活動も脳には良い刺激になりますが、家庭内で役割を担うことこそ、最も自然で、無理なく続けやすい社会活動といえるでしょう。

③バランスの良い食事を摂取する
偏った食事は生活習慣病の原因となり、軽度認知障害や認知症のリスクを高めます。多くの食品をバランス良くとっている方は、認知機能の低下リスクが約44%低かったという研究結果もあります(*3)。


和食
写真:著作者:rawpixel.com/出典:Freepik


食事の基本は「主食・主菜・副菜」の組み合わせです。1日3食のうち、少なくとも2食はこの基本を心がけましょう。

・主食:ごはん、パン、麺
・主菜:肉、魚、卵、大豆製品
・副菜:野菜、海藻、きのこ類

毎日の食事の積み重ねが、脳の機能維持につながります。


*3 参考サイト:食事内容「色々な食品を摂取することで認知機能低下の危険性が減少」(『あたまとからだを元気にするMCIガイドブック』国立研究開発法人国立長寿医療研究センター) 

6. まとめ

軽度認知障害は年齢とともに誰にでも起こりうるものですが、早期に気づいて対策をとれば回復も期待できます。 今回ご紹介した「運動」「社会活動」「食事」の3つの生活習慣を、できることから無理なく始めてみましょう。



監修:中谷ミホ



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この記事の提供元
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著者:鈴木康峻

2008年理学療法士免許取得。長野県の介護老人保健施設にて入所・通所・訪問リハビリに携わる。
リハビリテーション業務の傍ら、介護認定調査員・介護認定審査員・自立支援型個別地域ケア会議の委員なども経験。
医療・介護の現場で働きながら得られる一次情報を強みに、読者の悩みに寄り添った執筆をしている。

得意分野:介護保険制度・認知症やフレイルといった高齢者の疾患・リハビリテーションなど

保有資格:理学療法士・ケアマネジャー・福祉住環境コーディネーター2級

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