毎日の入浴が難しい方にとって、清拭(せいしき)や部分浴は身体を清潔にし、心地よさを保つ大切なケアです。本記事では、清拭と部分浴の基本的な手順やケアのポイント、安全に行うための注意点をわかりやすく解説します。
清拭とは、入浴が難しい方に対して、温かいタオルなどで体を拭き、清潔を保つケアです。清拭には、次のような目的と効果があります。
①皮膚の清潔保持
汗や皮脂、汚れを取り除き、感染症や皮膚トラブルを予防します。
②血行促進
身体が温まると血行がよくなり、褥瘡(じょくそう)予防につながります。
③リラックスと爽快感
マッサージ効果や心身のリフレッシュにつながります。
④皮膚の観察
全身の皮膚の状態を確認する機会となり、赤みや傷、乾燥などふだん気づきにくい変化を早期に発見できます。
清拭をする際は、以下の物品を事前に準備しておきましょう。
【準備する物】
・50〜55℃の蒸しタオル(顔用、身体用、陰部用など計5~6枚)
・乾いたバスタオル2〜3枚(水分の拭き取り用)
・タオルケットや大判のバスタオル(身体に掛ける用)
・清拭剤
・保湿剤(ローションやクリーム)
・着替え一式
・必要に応じて(使い捨て手袋、陰部洗浄ボトル、汚れた衣類を入れる袋)
〈蒸しタオルの作り方〉
◾️お湯に浸して作る方法
洗面器に50〜55℃の湯を用意し、タオルを浸して絞ります。
◾️電子レンジで作る方法
水で濡らしたタオルを絞り、ポリ袋に入れます。袋の口は閉めず、500Wで30秒〜1分程度電子レンジで加熱します。
【清拭前の確認やポイント】
① 健康状態の確認
ケアを受ける方の健康状態を確認します。発熱や体調不良時は控えましょう。
②室温調整とプライバシー確保
室温は22〜25℃に設定します。カーテンを閉め、プライバシーに配慮しましょう。
③ 食事の前後1時間は避ける
空腹時や満腹時は、体調の変化が起こりやすいため、食事前後は避けましょう。
④トイレを済ませておく
清拭の前にはトイレを済ませておきまましょう。清拭を中断すると身体を冷やしてしまいます。
⑤できるところは自分で
身体の痛みに配慮しながら、自分でできるところは、自分でするように促します。
【全身清拭の手順】
「今からお体を拭いて、さっぱりしましょうね」と声をかけ、ケアを受ける方の同意を得てから始めましょう。衣類を脱いだら、身体が冷えないようにタオルケットをかけて保温します。
タオルケットは拭く部分のみをめくり、他は覆いながら進めましょう。拭き終わったら、乾いたバスタオルで水分を素早く拭き取ります。
◾️拭く順番とポイント
顔→手・腕→胸部→腹部→背中・お尻→足→陰部の順で拭いていきます。
・顔の清拭
目頭から目尻に向かって優しく拭きましょう。小鼻の横や耳の後ろは汚れやすいため、念入りに行います。
・手・腕の清拭
手首から肘、肩に向かって拭いていきます。指の間や肘の内側、脇の下は汚れが溜まりやすいので丁寧に拭きましょう。
・胸部・腹部の清拭
胸部は円を描くように拭いていきます。腹部は強く押さえつけず、「の」の字を描くようにやさしく拭きましょう。
・足の清拭
かかとを持ち上げて、足首から膝、太ももに向かって拭いていきます。指の間、膝の裏、足の裏も丁寧に拭きましょう。
・陰部
最後に清潔なタオルで拭きましょう。肛門周囲の汚れが尿道に入ると尿路感染を起こすため、尿道から肛門へ向かって拭くのがポイントです。
女性は、恥骨から肛門に向けて一方向に。男性は、陰茎→陰嚢→肛門の順番で拭きます。
手浴・足浴とは、入浴が難しい方に対して、洗面器などにお湯を入れて手や足を洗い、清潔を保つケアです。手浴・足浴には、次のような目的と効果があります。
◾️手浴・足浴の効果
・清潔保持と感染予防
汚れを落とし、感染症のリスクを減らします。
・血行促進
温かいお湯で手や足が温まると血流がよくなり、冷えや痛みが和らぎます。
・リハビリ効果
お湯の中で手指を握ったり開いたりすることで、リハビリ効果が期待できます。
・爪のケア
爪が柔らかくなることで爪切りなどのケアがしやすくなります。
・リラクゼーション
温かいお湯の心地よさが緊張をほぐし、安眠にもつながります。
・足のトラブル予防
足の臭いや水虫など、皮膚トラブルの予防にも効果的です。
手浴や足浴をする際は、以下の物品を事前に準備しておきましょう。
【準備する物(共通)】
・洗面器または足浴用バケツ
・お湯(38〜40℃)
・タオルやバスタオル2〜3枚
・石鹸
・保湿剤(ハンドクリームやフットクリーム)
・爪切り・やすり(必要時)
・ビニールシートや防水シート
【手浴の手順とポイント】
① 姿勢を整える:座位が取れる場合は起き上がってもらいます。
② 洗面器をセットする:テーブルの上に洗面器を置き、下にはバスタオルや防水シートを敷きます。
③ 手を浸ける:お湯の温度確認後、手首まで5分程度浸けます。
④ 洗浄とマッサージ:手が温まったら、石鹸で指を1本ずつ洗い、手のひらのマッサージを行います。
⑤すすぎ:洗い終わったらお湯を替えてすすぎ、石鹸をきれいに落としましょう。石鹸が残っていると肌荒れの原因になります。
⑥ 仕上げ:タオルで優しく水分を拭き取ります。必要に応じて保湿クリームを塗り、乾燥を防ぎましょう。
【足浴の手順とポイント】
① 姿勢を整える:椅子やベッドに腰掛け、ズボンのすそを膝までまくります。
② 足を浸ける:片足をお湯に10分程度浸けます。
③ 洗浄:足を温めたら、石鹸で足首から膝に向かって洗います。
④ 指の間のケア:指の間や付け根、爪の先も丁寧に洗います。
⑤ 足裏のマッサージ:足の裏は全体をマッサージするように洗うと血行促進されます。
⑥ すすぎ:洗い終わったらお湯を替えてすすぎ、石鹸をきれいに落としましょう。
⑦ 仕上げ:足浴後は水分をしっかり拭き取り、よく乾かしてから靴下をはきましょう。湿った状態で靴下をはくと水虫(白癬菌)の原因となります。また、必要に応じて保湿クリームを塗り、乾燥を防ぎましょう。
清拭や手浴・足浴を安全で快適に行うために、以下のポイントに注意しましょう。
・体調確認
ケアを始める前に、顔色・呼吸・気分を確認しましょう。いつもと様子が違う時や体調がすぐれない時は無理をせず、様子を見ることが大切です。
・環境整備とプライバシー
室温を適切に保ち、身体の露出を最小限にして羞恥心に配慮します。カーテンを閉めるなど、ケアを受ける方が安心できる空間づくりを心がけましょう。
・温度管理
お湯の温度は必ず介護者が手で確認してから使用します。温度計があるとより安心です。
・皮膚観察
ケアの際には皮膚の状態をよく観察しましょう。赤みや傷、乾燥など気になることがあれば、早めに専門職に相談してください。
著者:中谷 ミホ
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。
保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級