ケアラーの方にとってデイサービスは、シニアケアの負担を軽くする大切な介護サービスです。ところが、いざ親に利用をすすめてみると「行きたくない」と拒まれてしまうことは少なくありません。そんなときのために、理由と対処法を知っておくことも、大切な「ケア活」のひとつです。

今回は、理学療法士の視点から、親がデイサービスを嫌がる主な理由と安心して進めるための具体的な対処法を解説します。

1. 親がデイサービスを嫌がる5つの理由

親がデイサービスを嫌がる背景には、実はいくつかの共通した理由があります。

私が理学療法士として自宅で生活を送るシニアの方々と関わる中でも、「プライドが傷つく」「健康への不安がある」「環境になじめない」といった声をよく耳にします。

こうした声は、要介護者とその家族のデイサービス利用に関する研究(※)でも報告されており、多くの方に共通する心理的な要因といえるでしょう。決して特別なことではなく、誰にでも起こり得る自然な反応です。ここでは、研究の知見を踏まえつつ、現場での経験も交えて5つの理由を紹介していきます。

 

※参考:「要介護者とその家族のデイサービス利用に対する抵抗感の研究」(桜美林大学加齢・発達研究所)


1.プライドが傷つく
デイサービスと聞くと、「自分は世話や介護をされる存在になってしまったのか」と思い悩んでしまう方がいます。長年自立して生活してきた方が、他人の助けを借りるのは衰えを認めることになり、プライドが深く傷ついてしまうのです。


「まだ自分はそんな歳ではない」「人様に迷惑はかけられない…」こうした思いから、利用を拒否してしまうのです。

 

2.新しい環境への不安
知らない場所に行き、知らない人の中に入るのは誰でも不安です。特に自宅が安心できる環境だった方にとっては、デイサービスがどのような場所か想像しにくく、恐怖心を抱くこともあります。


さらに、人とのコミュニケーションに不安を感じる方は「初めて会う人とうまく話せなかったらどうしよう」と心配し、利用に前向きになれないのです。

 

3.レクリエーションへの抵抗感
多くのデイサービスでは、歌や体操、ゲームなどのレクリエーションを取り入れています。しかし、集団活動や人前に立つことに抵抗を感じる方にとっては、これが大きな不安要素となります。
「人前で歌うのは恥ずかしい」「体操についていけず、笑われたくない」このような不安が先に立ってしまい、利用をためらってしまうのです。

 

4.体力や健康への不安
ご自身の健康状態から、デイサービスの利用をためらう方も少なくありません。 特にトイレに関する不安は深刻です。 「間に合わなかったらどうしよう」 「失敗して恥をかいてしまったら…」 このような心配は人には相談しにくく、一人で抱え込んでしまいがちです。

また、持病や体力の衰えがある方は「無理な運動をさせられるのではないか」「休める場所があるのだろうか」 といった不安を抱き、利用に踏み切れないのです。

 

5.自分のペースを大切にしたい
これまで自分のリズムを大切にしてきた方にとって、決められたスケジュールに合わせて活動することは負担に感じられるものです。たとえば、食事や休憩の時間が決まっていたり、周囲に気を配りながら過ごさなければならなかったりすると、ストレスを感じやすくなります。


「自由に過ごせないのでは」という不安から、デイサービスの利用を敬遠する方もいます。

 

MySCUE記事 デイサービス 不安

2. 嫌がる理由別の対処法

デイサービスの利用を拒まれた時は、理由に合わせた対応が大切です。ここでは5つの理由ごとに、具体的な対処法を紹介します。状況に合わせて試してみてください。


1.プライドが傷つくと感じている場合

「デイサービス」と聞くと「介護される場所」という印象を持ち、プライドが傷つくと感じる方もいます。そんな時は「介護の場」ではなく「身体を動かして健康を維持するための場」「仲間と趣味を楽しむ場」として伝える工夫をしてみましょう。

 

たとえば、
「健康教室に通ってみない?」
「ジムのように運動できる場所があるよ」
「同世代の人と楽しくおしゃべりできるサロンがあるんだって」
このように伝えると、「自分の健康のため」「趣味や楽しみのため」と、前向きに受け止めてもらいやすくなります。

 

MySCUE記事 デイサービス

 

2.新しい環境への不安がある場合
知らない場所や、初対面の人との関わりに不安を感じるのは自然なことです。いきなり利用をすすめるのではなく、見学や体験利用から始めるようにしましょう。


実際に施設へ行き、雰囲気を感じてもらうと、「思っていたより良さそう」と安心してもらえることが多いものです。見学自体を嫌がる場合は、ホームページやパンフレットを一緒に眺めるだけでも理解につながりやすくなります。


人間関係に不安がある場合は「スタッフの方が気にかけてくれるから、無理に自分から話さなくても大丈夫だよ」と伝えると安心してもらえます。

 

3.レクリエーションに抵抗感がある場合
「歌やゲームは苦手」「集団活動には入りづらい」と感じる方もいます。しかし、施設によっては、レクリエーションをほとんど行わず、リハビリや個別の活動に特化しているところもあります。


そうした施設では、ストレッチやマシントレーニングに打ち込んだり、手芸に取り組んだり、囲碁や麻雀を楽しんだりと、それぞれが自由に過ごすことが可能です。

その方の意向や希望に合う施設を選んですすめることも大切です。レクリエーションが苦手な方でも「自分に合った過ごし方ができる場所だよ」と伝え、安心してもらいましょう。

 

MySCUE記事 デイサービス 麻雀

 

4.健康面や体力に不安がある場合
「体調が悪くなったらどうしよう」「体力に自信がない」といった不安を抱く方は少なくありません。そのような時は、専門職がそばにいる安心感を伝えましょう。

たとえば、トイレが近くて心配な方には「介護職員が常にそばでサポートしてくれる」、体力に自信がない方には「病気や運動に詳しい機能訓練指導員が個別に運動を見てくれる」と伝えると安心につながります。また、看護師が勤務している施設では、体調の変化にもすぐに対応できる体制が整っています。

見学の際は、設備を一緒に確認することも大切です。トイレの場所や広さ、手すり、休憩できるベッドや静かなスペースなどを実際に見てもらうことで「ここなら安心して過ごせそうだ」と納得してもらいやすくなります。

 

5.自分のペースを大切にしたい場合
デイサービスでは、全員が同じ時間に同じことをする必要はありません。その日の体調や気分に合わせて、自由に過ごすことができます。たとえば、体操に参加したいときは一緒に体を動かし、疲れた時は自分のタイミングで休憩できます。

「前回は読書をして過ごしたけれど、今日は体操に挑戦してみよう」「作品づくりに興味がなかったけれど、みんなの様子を見ていたらやってみたくなった」といったように、その日の気分で選べる自由があります。周囲に合わせなければならないという負担を感じることなく、自分のペースで過ごせる場所であることを伝えてあげましょう。

3. まとめ

ご家族がデイサービスを嫌がるのは、プライドや新しい環境への不安など、もっともな理由があるからです。いざ利用を検討する時に慌てないためにも、その理由と対処法をあらかじめ知っておくことも大切な「ケア活」です。


無理に説得するのではなく、ご本人の気持ちに寄り添いながら進めていきましょう。

 

MySCUE記事 デイサービス 気持に寄り添う

 

監修:中谷ミホ
写真:PIXTA、写真AC



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この記事の提供元
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著者:鈴木康峻

2008年理学療法士免許取得。長野県の介護老人保健施設にて入所・通所・訪問リハビリに携わる。
リハビリテーション業務の傍ら、介護認定調査員・介護認定審査員・自立支援型個別地域ケア会議の委員なども経験。
医療・介護の現場で働きながら得られる一次情報を強みに、読者の悩みに寄り添った執筆をしている。

得意分野:介護保険制度・認知症やフレイルといった高齢者の疾患・リハビリテーションなど

保有資格:理学療法士・ケアマネジャー・福祉住環境コーディネーター2級

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