在宅介護が始まると、家の中の「モノの管理」は単なる片づけの問題ではなくなります。薬の飲み間違い、緊急時の対応の遅れ、ホームヘルパーやケアマネジャーとの連携ミス——これらはすべて、健康に関するモノが適切に管理されていないことから起きるリスクです。【第2回】の今回はさらに踏み込んで、「医療健康モノ」の整理術と、親の安全とケアラー自身のゆとりを同時に守る収納の考え方をご紹介します。

実家の片づけを始めると、まず圧倒されるのがモノの多さです。しかし、介護という観点で優先順位を考えると、答えは明確です。最初に整理すべきは「医療健康モノ」——薬・医療器具・通院に関わるすべてのモノです。
訪問介護が始まると、ホームヘルパー、ケアマネジャー、場合によっては救急隊員といった「家族以外の人」が自宅に入るようになります。このとき、健康管理に関するモノがバラバラに置かれていると、緊急時に状況の把握が遅れ、適切な対応が後手に回るリスクが生じます。
医療健康モノの整理は、命の第一報を守るための環境づくりです。誰が見ても一目でわかる管理体制を整えることが、在宅介護の質を根本から変えます。

薬の管理は、在宅介護における健康リスクの中でも特に重要です。飲み忘れ、過剰服薬、古い薬と新しい薬の混在——これらはすべて、薬が「見えない場所」に保管されることで起きやすくなります。おすすめは、壁に取り付けられる「お薬ポケット」の活用です。曜日ごと・時間帯ごとに仕分けされた透明のポケットに薬を入れておくだけで、飲んだかどうかが一目でわかります。
また、「いつか飲むかもしれない」と保管された古い薬や、ひからびた湿布などが、引き出しの奥から大量に出てくることがよくあります。古い薬と新しい薬が交ざると、誤飲や重複服用につながるリスクが高まります。体調も薬も日進月歩で変わります。必要に応じてかかりつけの薬剤師に相談し、片づけのタイミングで、今服用している薬以外の不要な薬を処分しましょう。

お薬手帳、診察券、介護保険証、マイナンバーカード(マイナ保険証)・資格確認書、予防接種の受診票など——病院へ行くたびに「あれはどこ?」とバタバタするのは、ケアラーにとって大きなストレスです。これらを一つの「通院セット」としてまとめておくだけで、急な受診にもスムーズに対応できます。
透明のメッシュポーチや100円ショップのジッパーバッグを活用して、中身が一目でわかる状態にしておきましょう。家族間で「通院セットはここにある」と置き場所を共有しておくことで、緊急時にも誰でも対応できる体制が整います。
通院セットには、かかりつけ医の連絡先や服用中の薬の一覧メモを入れておくとさらに安心です。救急搬送時やいつもと違う病院にかかるとき、この小さなメモが命を救う情報になることがあります。

体温計、血圧計、パルスオキシメーター(血中酸素濃度計)、常備の湿布や軟こうといった家庭用の健康グッズは、引き出しなどの収納の奥にしまい込まず、リビングや寝室などよく使う場所、かつ見える場所に置いておくことが大切です。
「どこにしまったか」を探す手間が省けるだけでなく、日常的に目に入ることで体調管理の習慣化にもつながります。介護が進むにつれてこうした健康グッズは増える一方です。今から棚の一角に「余裕スペース」を確保しておきましょう。

訪問介護が始まると、ヘルパーの記録票やケアマネジャーからの連絡書類など、紙の書類が驚くほど増えていきます。「きれいにファイリングしなければ」と気負う必要はまったくありません。大切なのは「置き場所を決めて、新しいものを上に重ねる」ことです。最新のものが常に一番上にある「時系列管理」なら、後から振り返るときも日付順に時系列で探せます。
介護関係の書類置き場は「ヘルパー目線」で選びましょう。初めて家に来た人でも、玄関から入って迷わず書類を手に取れる場所——テーブル脇やよく使う棚の上などが理想的です。自分が管理しやすい場所=チーム全員がアクセスしやすい場所を優先しましょう。
医療費の領収書や介護保険の通知は、確定申告や給付申請で後から必要になることがあるため、別にとっておくことが必要です。細かいラベリングは手間がかかって見えにくいので、中身が見える透明のクリアフォルダーなどを使って、分けてしまうとよいでしょう。1年以上古いものは、まとめて別の場所に移動させ、常に新しいものが分かる状態にしておきます。

高齢になると、近くの細かい文字を読む力が徐々に落ちていきます。おしゃれな英字ラベルや小さなシール文字は、親世代にとっては「見えないモノ」と同じです。医療健康モノの収納では特に、メガネをかけなくても判断できる「ノーメガネ収納」を意識しましょう。カゴの色で種類を分ける(青=薬関連、赤=通院グッズなど)、お気に入りの缶や箱を使う、太いマジックで書くといった方法が有効です。
照明の工夫も重要です。加齢とともにほぼ全員が経験する白内障によって、視界全体にモヤがかかったようになったり、緑内障で視界が狭くなったりします。特に細かな色の判別が難しくなります。「汚れに気がつかない」「整理ができていない」と感じる前に、「見えていないのかもしれない」という視点を持つことが、親との無用な衝突を防ぎ、病気の早期発見につながります。

実印、通帳、保険証書といった貴重品は、一つのケースや引き出しにまとめて保管し、信頼できる家族全員がその場所を把握していることが重要です。さらに、重要書類や診察券は、スマートフォンで写真を撮ってデータ化しておきましょう。簡単なバックアップになります。写真に撮っておけば、なくしたときや、外出先で急に情報が必要になったとき、原本が手元にない緊急時でも、迅速に対応できることがあります。
重要品は、具合の悪いときほど必要になります。「なにかあればここを探せば出てくる」という状態にしておくのが何よりのコツです。

「医療健康モノ」の整理は、親のためや訪問介護者のためだけにするのではありません。「薬がどこにあるかわからない」「書類を探すのに時間がかかる」——こうした小さなストレスの積み重ねが、介護疲れの原因になります。また、実家を訪れるたびに「動きづらい」と感じる環境は、ケアラー自身の転倒リスクにもつながります。物理的に動きやすい空間は、ケアラーの精神的な余裕にも直結するのです。
一度仕組みを整えてしまえば、その後の管理は「新しいものを上に重ねるだけ」「ポケットに薬を入れるだけ」と、驚くほどシンプルになります。
片づけは、親の老いを受け入れながら、自分自身の将来の暮らしも考えるという、二つの「老い」と向き合う体験でもあります。完璧を目指さなくて大丈夫。今日できる小さな一歩——床置きのモノ一つの整理から始めることが、親にとっても、ケアラー自身にとっても、安全で心地よい住まいを着実に育てていきます。
【今日からできる「医療健康モノ」整理 ポイント】
☑薬は「お薬ポケット」で見える化し、古い薬はなるべく処分する
☑お薬手帳・診察券・マイナンバーカード類を「通院セット」としてひとまとめに
☑体温計・血圧計は「見える場所」に。将来の介護グッズの増加を見越して余裕スペースも確保
☑書類はラベリングやきれいにファイリングしようとせず「置き場所を決めて重ねるだけ」でOK
写真:PIXTA
著者:渡部亜矢(わたなべ・あや)
一般社団法人実家片づけ整理協会 代表理事。
片づけ講師、実家片づけアドバイザー。都市銀行での住宅融資業務、出版社での編集者などを経て現職。片づけが苦手な方向けに、自宅・実家の片づけをテーマの講座を開講。企業・自治体・空き家対策などで講師活動を行っている。
主な著書:『実家の片づけ 親とモメない「話し方」』『見てすぐできる!【図解】60歳からの「紙モノ」整理』(青春出版社)、『カツオが磯野家を片づける日~後悔しない「親の家」片づけ入門』(SB新書)、『プロが教える実家の片づけ』(ダイヤモンド社)他多数。
https://jikka-katazuke.jp/