これから(親に)訪問介護サービスを受けてもらいたいと思っても、「家の中を見られるのが恥ずかしい」「どこから片づければいいかわからない」と戸惑うケアラーは少なくありません。でも安心してください。ホームヘルパーやケアマネジャーが求めているのは、モデルルームのようなおしゃれな空間ではありません。大掛かりなリフォームや完璧な片づけは不要。今日からできる「ポイントを押さえた環境整備」こそが、介護の質を左右するのです。【第1回】はちょっとした工夫で実現できる空間づくりの基本をお伝えします。

1. 訪問介護は住まいの見直しの最大のチャンス

片付け途中の部屋

実家にモノがあふれるのは、親世代特有の「いつか使うかも」「もったいない」という価値観があるためです。モノは多ければ多いほど豊かであるという時代を過ごした親世代にとって、「捨てる」という発想は持ちづらいこと。空間があるほどスタイリッシュと考える中年世代とは「真逆」と考えるとわかりやすいでしょう。

たとえ片づけたほうがいいと思ったとしても、体力が低下している高齢者は、片づけを先送りにしがちです。結果として家の中には長年かけてモノが地層のように積み重なることが多くなるのです。

しかし訪問介護が決まると、週に数回、定期的に「他人の目」が家の中に入るようになります。身内の言葉はなかなか響かなくても、「家族以外の人に見られる」という「外圧」が働くと、生活に緊張感と張りが生まれます。よく高齢者が「ヘルパーさんが来るとしゃきっとする」と言うのと同じ心理です。仮にリバウンドしても「次にヘルパーさんが来るまでに整えよう」というモチベーションが自然に働きます。親も子も、すでに介護を受け入れるという大きな一歩を踏み出しているのですから、住まいの見直しの大チャンスと、ポジティブに捉えて進めていきましょう。

2. 親の「置きグセ」をまず観察

散らかされた部屋とその住人

いきなり片づけるのではなく、まずは現状を観察することから始めましょう。椅子の背もたれや床に服や袋がたまっていないか、棚の手前や床にモノが置かれていないか、薬や健康食品が積み重なっていないか、アンテナを立ててみてください。床にモノがたまっているのは体力が落ちているサインです。

逆に言えば、よく置かれている場所こそが親にとって「いちばん置きやすいベストポジション」。バッグをいつも玄関などに置く習慣があれば、無理に収納しようとするのではなく、そこに安全に置けるよう周囲を整えていく——そんな観察と地道な工夫の積み重ねが、長続きする片づけの土台になります。親の何気ない習慣を客観的に知ることが、無理のない空間づくりの第一歩です。

3. 「転ぶから危ない」はNG! 声掛け一つで変わる協力度

懐中電灯で照らされた部屋

「転ぶから危ない」「体力が落ちているから」という子どもからの指摘は、自分の衰えを指摘されたように感じさせ、反発を招きやすくなります。

おすすめは「防災」という切り口です。「地震で停電になって、夜中に真っ暗な中でも、トイレまで安全に歩けるように整えよう」という「停電」を強調した言い方に変えるだけで、驚くほどスムーズに協力が得られることがあります。親の体力の衰えではなく、災害への「備え」という文脈にすることで親のプライドを傷つけず、動線整備が進みやすくなるこの方法を試してみてください。

家の構造が許すのなら、廊下や寝室にロボット掃除機を導入すると、動線も自然にキープできて、ケアラーの余裕も生まれてきます。

4. 空間の余裕が財産になる……目指せ「ワンルーム化」

家のイメージ

介護が本格化すると、車椅子や歩行器、おむつのストック、口腔・スキンケア用品など、モノは驚くほど増えていきます。「今使っているものをどう収納するか」を考えるのも大事ですが、今後増えるであろう介護グッズを収納する場所の余裕が必要です。理想としては、押し入れ一間分をあらかじめ空けておくとよいでしょう。空間の余裕こそが、親の安全とケアラーの心の余裕を守る最大の財産となります。

提案したいのが「ワンルーム化」という考え方です。豪華な高齢者施設の部屋も、病院の高級な個室も、たいていはワンルームです。——ワンルーム化はネガティブな縮小ではなく、シンプルで機能を凝縮した暮らしへのアップグレードです。

使わなくなったものは、無理に捨てなくても別室などの一時保管スペースへ移動させるだけでOKです。「必要なモノはここの棚を探せば出てくる」「増えたものはここに置けばいい」という状態を維持しながら、親の寝室とその生活動線からモノを遠ざけるだけで、介護のしやすさは劇的に変わります。

5. 親とのあつれきを減らす「物コミュニケーション」

高齢の母親と娘の葛藤

実家の片づけで最も難しいのは親との会話です。「なんでこんなに買ったの」「捨てて」という言葉は、親の人生を否定されたように響きます。

有効なのが「物コミュニケーション」です。モノを置きっぱなしにしている親のことではなく、モノの話をしていきます。例えば床に置いてある健康食品を見つけたとき、直接親を責めるのではなく、「これ何?」とモノのことを聞いてみてください。「ひざが痛くて買った」「安売りしていたから」——そんなモノへの答えの中に親の体の不安や日常の楽しみが見えてきます。

「捨てる」は禁句。代わりに「いつでも使えるように別の部屋に移しておこうか」と提案して、お気に入りや必要度の高いものだけを手の届きやすいところに集めていきます。片づけるモノを入り口にして親の今を知ることが、信頼関係を保ちながら進める近道であり、ケアラー自身の平穏を保つことにもつながります。

6. ここを押さえて!「寝室ベッド周り」は動線確保が最重要

介護される高齢の父親と介護人

ベッド周りと、そこからトイレ・浴室への動線が最重要エリアです。ベッドは壁にぴったりつけず、介助者が左右どちらからでもアプローチできる配置が理想的です。慣れない介護ベッドから転落しないように配慮し、リモコン類やメガネ、補聴器などよく使うものは手に取りやすいところに置く工夫をしてください。

足元のたこ足配線や、滑りやすくめくれあがったカーペットやラグ類などの障害物は転倒の原因になるため、徹底的に移動・撤去を進めてください。床に置かれた新聞や袋類はすべて転倒の引き金となります。安全な床面積を広げてください。

また、「生活動作」から見た安全性を確認してみてください。靴下をはくときや入浴時など、「片足立ち」になったときにつかまる場所があるか、廊下やトイレに手すりがあるか、段差はあるかなど、濡れた浴室の床やマットなどですべらないかなども注意してください。

メガネを使っていても、遠近両用では足元や周りがゆがんで見えにくいときがあります。とくにトイレに起きた夜間に危なくないよう、足元灯などをつけてもよいでしょう。比較的安価で取り付けられます。

7. 要注意!「寝室の模様替え」は慎重に

実家に置かれた古い家具

モノが少ないほど安全性は高まりますが、とはいえ大きな家具を処分する際は慎重にしてください。認知機能が低下している場合、慣れ親しんだ家具がなくなると「自分の部屋だとわからなくなる」ことがあります。

たとえ本人が「捨てていい」と言っても、思い出のある家具を目の前でばきばきと壊して捨てるといった荒々しいことをされると傷つく人もいます。

また、長く使っていた部屋であればあるほど、枕の向きや見える部屋の景色が変わるだけで違和感を覚える人もいます。家族だとつい気が緩みがちですが、様子をみながら進めていきましょう。

8. ここを押さえて!「浴室・洗面所」のスペースの確保は2人分

洗面所・脱衣所

小さなせっけん類や化粧品の試供品、少しだけ残ったリンス、古いヘアスプレーなどを整理し、できればボディーソープ1本にまとめるなど、シンプル化を試みてください。「捨てたくない」と言われたら別の部屋への移動で構いません。特に脱衣所は、ケアラーと親の2人が両手を広げてもぶつからない程度の介助スペースの確保が理想です。

タオルや入浴グッズなど複数のヘルパーが使うものは、「見える場所に置くだけ」の収納にしておくと誰が来ても迷いません。「どこにあるか」を説明しなくてよい環境が、介護チーム全体の動きをスムーズにします。
※訪問介護のサービス範囲は異なる場合があります。


【今日から始める住まいのプチ・アップデート ポイント】
☑訪問介護はポジティブな「外圧」!片づけの最強モチベーション化
☑まずは観察。親の「置きグセ」を知ることが無理のない空間づくりの第一歩
☑寝室〜トイレの動線と浴室周りを最優先で整備。床の障害物を徹底排除
☑「転ぶから」より「防災のため」。声掛け一つで親の協力度が変わる
☑「捨てる」は禁句。「物コミュニケーション」で親の気持ちを引き出しながら進める


写真:PIXTA


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この記事の提供元
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著者:渡部亜矢(わたなべ・あや)

一般社団法人実家片づけ整理協会 代表理事。
片づけ講師、実家片づけアドバイザー。都市銀行での住宅融資業務、出版社での編集者などを経て現職。片づけが苦手な方向けに、自宅・実家の片づけをテーマの講座を開講。企業・自治体・空き家対策などで講師活動を行っている。
主な著書:『実家の片づけ 親とモメない「話し方」』『見てすぐできる!【図解】60歳からの「紙モノ」整理』(青春出版社)、『カツオが磯野家を片づける日~後悔しない「親の家」片づけ入門』(SB新書)、『プロが教える実家の片づけ』(ダイヤモンド社)他多数。
https://jikka-katazuke.jp/

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