理学療法士として15年、在宅で生活をしている多くのシニアのかたに関わり、500人以上の方たちの足を見てきました。そして「足のトラブル」がQOL(生活の質)の低下に直結する現実を目の当たりにしてきました。足は体重を受け止め酷使されているけれど、あまりケアをされていません。この記事では私のフットケアの実体験を交え、大切な人の「歩ける未来」を守るための足の大切さをお伝えします。

1. 痛々しい足を前に、何もできなかった私

勤務先のデイケアを10年以上利用していたAさんは優しい90代後半の女性でした。フルタイムで働いている娘さんと二人暮らしで、Aさんは心臓に持病がありましたが、自宅では日常生活はほぼ自立、壁を伝い歩きしながらトイレに行けていました。

そんなAさんが100歳に手が届くころから、心臓の機能が少しずつ衰えはじめました。足の血行が悪くなり、足の指が紫色に変わっていきます。塗り薬を塗り、柔らかい厚手の靴下をはいてもらい、できる限り足を守ろうとしました。足の痛みを訴えるAさんの指は、血行が悪いという状態を通り越して日に日に黒ずんでいきます。私たちは心配になり、「これは入院して治療した方がいいのでは?」と主治医に相談しました。

しかし、医師の見解は「入院してもできることはありません」とのこと。(指は)最終的に黒く朽(く)ちてしまうかもしれないと聞き、衝撃を受けました。最初は痛みを訴えていたAさんも、やがて感覚が薄れ、訴えも少なくなっていきました。私たちにできることは保湿を続け、現状を守るのみでした。

もうひとりの利用者Bさんは80代後半の女性です。電動車いすを運転して近所に買い物に出かけるのが日課で元気な方でした。妹さんとデイケアに通っており、耳が少々遠かったため大きな声で話すBさんを妹さんは「お姉さんとは内緒話ができないわ」と笑い、デイケアの雰囲気が明るくなったのを覚えています。しかしその妹さんが急に亡くなり、それを機に落ち込んでしまったBさんは心臓の機能が徐々に衰え、足の浮腫(ふしゅ・むくみのこと)が悪化し、パンパンの状態になってきました。皮膚の色も赤黒く、痛々しい状態でした。

ある日、Bさんの靴下に大きなシミができていました。皮膚から水分が漏れて滲み出た跡でした。Bさんは病院に入院してもできることはない状態でした。看護師さんは、尿とりパッドを足に当て、キッチン用穴あきポリ袋を被せて、水分を吸わせるよう工夫していました。見よう見まねで清潔に、できるだけ楽に過ごせるようにしてくれていたのです。おふたりともまもなく静かに最期を迎えられました。その時、私は「なにもできなかった」と無力さを感じたのです。

痛々しい足に無力感

2. 知ることは、力になる

後悔を感じながらも忙しい現場での時はすぎていきます。その頃、同僚の看護師さんが「フットケアの勉強をしませんか?」と誘ってくれました。フットケアは爪切りなど看護師さんの仕事ではないかと思っていたのですが、フットケアの一環として、足の運動や靴の選び方もあると聞いて興味を持ちました。なにもできなかったと感じた経験もあり、理学療法士でもフットケアに携われると知り、もっと深く学んでみようと誘いに応じることにしました。

東京から福岡まで仕事の合間に看護師さんと勉強会に足を運び、フットケアの最前線にいる先生の講義を聴きました。海外では、足を専門に診る「足病医(あしびょうい)」がいる国もあり、フットケアが暮らしを支える大切な医療のひとつとして考えられていると知りました。足の見方、爪の切り方、保湿の方法、本人や家族でできるケアから専門家に任せるべきこと、足の運動、靴の選び方。学べば学ぶほど、足の世界は面白いと感じました。それに知識が身につけば足を見る目が変わってきます。それ以降、足をパッと見ると、なんとなくですが、「これは何かおかしいぞ」と勘が働くようになってきました。

また、私は当時、地方の地域密着のデイケアに勤めていたのですが、勉強会に行くと、私と同じように地方で在宅のシニアの方に向けてフットケアに取り組んでいる方も多くいて、全国には他にもフットケアを頑張っている人がいるのだとわかり、励まされました。

3. 今日、靴下を脱いで足をじっと見る

まず、ご自身の足をじっと見てください。

・足の指:どこが曲がっているか。外反母趾(がいはんぼし・足の親指が内側へ曲がる状態)、あるいは内反小趾(ないはんしょうし・足の小指が内側へ曲がる状態)

・爪:伸びすぎている、ぶ厚くなっている、深爪になっている

・足の裏、かかと:扁平足(へんぺいそく・足裏のアーチが低くなっている状態)、かかとのひび割れ、タコや魚の目など

足のトラブル 足の歴史

足はその人の歴史を刻んでいます。ケア活の一つとして、足を観察してちょっとでもケアをすると、トラブルを未然に防げる可能性があります。特別な道具も、難しい技術も要りません。

私は、理学療法士として、利用者さんにリハビリをしてどんな自分になりたいかという希望を聞いていました。よく聞いたのは、「自分でトイレに行きたい」という要望です。私も願わくば、いつまでもトイレに自分の足で歩いて行きたいと思っています。

足は、家でいう「土台」です。土台が傾けば、家全体がグラつきます。足の爪が伸びていたり、痛みがあったり、足の指が変形していたり、足の筋力が落ちていたりすれば、立ったり歩いたりが難しくなる場合もあるでしょう。足を守ることは、暮らしを守るひとつになる可能性があると思っています。足の「ケア活」は今からでも遅くありません。

次回は誰でもできる、足の観察ポイント―むくみ・爪・皮膚の変化など、日常でできるチェック方法をお伝えします。



この記事の提供元
Author Image

著者:東岡英里子(ひがしおか・えりこ)

事務職の会社員から、2006年35歳で理学療法士免許取得。総合病院、通所リハビリ(デイケア)、訪問リハビリの仕事をする。両親は80代で、自身もリアルタイムに親の介護が気になり始めている。
現在は、障害者グループホームと介護保険外サービスに従事しながら、地域のメディアで医療系の記事などを執筆をしている。得意分野は在宅のリハビリ、フットケア、呼吸療法。
保有資格:理学療法士・ケアマネジャー・呼吸療法認定士
https://x.com/higashisan0055

関連記事

骨粗しょう症を防いで介護予防!運動と食事のポイント|理学療法士が解説

2026年2月13日

白血病 種類や症状、疑うサイン、原因から治療についてまでを解説 鈴木先生の気になる病気の話⑤

2024年1月7日

Temp C item

MySCUEで できること 使い方

Temp C item

記事一覧 記事

Temp C item

相談・質問

Temp C item

SCUER ブログ ブログ

Temp C item

コミュニティ

お買い物

お買い物

Cancel Pop

会員登録はお済みですか?

新規登録(無料) をする