親の介護という局面に、不安や焦りを感じていませんか? 介護は毎日の営みであり、使命感や責任感だけでは長続きしません。まずお伝えしたいのは、介護者が仕事を辞めたり、自分の生活を犠牲にしたりしてまで、すべての介護を背負い込む必要は一切ないということです。「もしあなたが倒れたら、親の面倒は誰が見るのでしょうか?」この問いかけにハッとした方にこそ、知ってほしい“冷たい優しさ”があります。

筆者自身、遠距離から在宅まで10年以上にわたり親の介護を続けてきました。そこで強く感じたのは「介護する人が幸せでなければ、介護される人も幸せにはなれない」ということです。介護する側の心がすり減らないことが、結果として親の安心や家族全体の幸福につながるのです。
今回は、介護を続けるうえで避けて通れない「気持ち・時間・お金」の現実との向き合い方や、「~でなければならない」という思い込みを手放し、他人と比べず自分たち家族に合った介護の基準を持つことなど、「無理を前提にしない介護」の考え方をご紹介いたします。

実際に介護を続けるうえで避けて通れないのが、「気持ち」「時間」「お金」の現実です。まずは、介護者であるあなたの気持ち、時間、お金をあえて天秤にかけてみてください。在宅と施設、どちらで介護すると良いのかという例で簡単に説明しましょう。
仕事が忙しく親の介護に時間がとれない(自分の時間を優先する)なら、施設のプロにお願いする(お金を使う)。親の介護は自宅で自らの手でやりたい(気持ちを優先する)なら、自分の自由は少なくなる(時間を使う)。
このように、気持ち、時間、お金のすべてを完璧に思い通りにすることは容易ではありません。何かを優先するなら、他を少し譲る、あるいは諦めることを意識してみてください。優先すべき項目は、個人の考えや体調、周囲の環境によってその都度変わるものであり、決して唯一の「正解」があるわけでないのです。
ある40代女性の例をご紹介します。彼女は認知症の母親の介護を一手に引き受けた結果、睡眠不足で自身のキャリアを失いかけ、心身ともに限界を迎えていました。そんな彼女が選んだ“冷たい優しさ”は、母親を介護施設へ入所させることでした。はじめは罪悪感にさいなまれましたが、プロにケアを委ねたことで母親の生活は安定し、彼女自身も仕事に復帰。面会時には、以前のような笑顔で優しく接することができるようになりました。

介護が始まると、「手料理を食べさせなければ」「自宅で最期まで看取らなければ」と、理想の家族像に縛られがちです。しかし、その完璧主義こそが共倒れを引き起こす最大の引き金になります。
50代男性の例をご紹介します。彼は要介護の父親のために「自分が毎日バランスの良い食事を作らなければならない」と、時間をやりくりしつつ奔走していました。しかし、寝不足とプレッシャーから心身ともに限界を迎え、父親にきつく当たってしまう悪循環に陥ったのです。彼が実践したのは、「~でなければならない」を手放すことでした。週の半分を配食サービスやデイサービスの食事に頼り、自身は見守りと会話に専念。結果、心にゆとりが戻り、父親との関係も改善しました。
介護は長距離走であり、その方法に正解はありません。手抜きではなく、プロの手や便利なサービスを戦略的に使う「効率化」と考えてみてください。理想に縛られて倒れてしまう前に、まずは「~でなければならない」という思い込みを外してみてください。

介護における幸せのカタチは、家庭の数だけあるものです。他人と比べないことが、お互いの笑顔を守る鍵となります。
周囲の声やSNSなどから、「施設に預けるなんてかわいそう」「在宅で看取ってこそ素晴らしい」といった他人の評価が耳に入り、心が揺らぐことがあるかもしれません。しかし、置かれた環境も家族の絆の形も、すべて千差万別です。
ある50代の女性は、周囲の「親は大切だから最期まで自宅で親孝行すべき」という言葉に縛られ、排せつ介助や夜間対応で心身ともに限界を迎えていました。しかし意を決し、特別養護老人ホーム(特養)の入所を選択します。周囲の目が気になりましたが、施設で穏やかに過ごす母親の姿を見て救われたといいます。面会時に「いつもありがとう」と言い合える今、彼女は「これが私たちの幸せの形」と確信しています。
在宅か施設か、どれだけお金をかけるかに優劣はありません。他人の基準に振り回されず、自分たち家族が無理なくお互いに穏やかでいられる環境がすべてではないでしょうか。周囲のノイズは遮断し、目の前の親と自分自身の心地よいバランスだけを見つめていってください。
著者:渋澤和世(しぶさわ・かずよ)
在宅介護エキスパート協会代表
会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『親が倒れたら、まず読む本 入院・介護・認知症…』(プレジデント社)、監修『親と私の老後とお金完全読本』(宝島社)などがある。
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