1. はじめに
食べるためには、ふだんどんな動作をしているでしょう。実は食べる動作をするだけでもたくさんの動きをしています。また同時に食事以外でも、さまざまな動きを並行して行っているのです。
食事の一連の動作
わたしたちは食べ物を食べるとき、以下のような一連の動作を行っています。
①食べ物を見て認識する。食べていいものかどうかの判断を行う。
②食べ物を口に入れて、噛みながらひとまとめにする。
③食べ物を舌や頬を使って、のどに送り込む準備をする。
④食べ物をのどに送り込む(飲み込む)。
⑤食べ物が食道を通って胃に入る。
この5つの動作を食事のときに繰り返し行っています。
2. 食事中はすることがいっぱい
食べながら行う、代表的な動きをあげてみました。食べながらでも、実は複雑な動作も無意識に行っています。
①食べながら呼吸をする
生命を維持するため、呼吸は食事中でも行っています。食べ物が、口に中にある時も呼吸をしています。飲み込むときは一瞬、呼吸を止めますが、飲み込んだら、すぐに再開します。
②食べながら会話をする
食事は、コミュニケーションの場です。食べながら会話をすることは、多いと思います。
食事中に会話をすることを禁止している家庭もあると思いますが、相手が話しているときは「うんうん」と相槌を打つことはあると思います。そして食べ物を、飲み込んだあとは、こちらが会話をしたりします。そのとき、体では飲み込むという動作のあとに、発声をするという動作の切り替えが行われています。
③食べながら考え事をする
わたしたちは、自分自身と常に会話をしています。誰かと話をするときも、相手の話の内容を理解したり、自分が話す内容を組み立てたりしています。
食事の時も「おいしい」「おいしくない」「このあと何をしよう」といった会話を自分の頭に中で行っています。もし、一緒に食事をする相手がいたら、相手の話を聞きながら内容を理解して、自分の意見をまとめるために考えています。
④食べながら周囲を見る
食べるときは、目で見て食べ物を確認します。食べ物を確認するほかに、周囲のものを見たりします。たとえば、
・テレビを見ながら食べる
・携帯電話の画面を見ながら食べる
・景色を眺めながら食べる
こともあります。
⑤食べながら身体を動かす
食事をするためには、手を動かして食べ物を口に運んでくる必要があります。また、食べ物が口に入ったら噛んだり、舌を使ったりします。食事をするために、座ることが必要なので姿勢を調整する必要もあります。
このようにただ、食べているだけでなく身体のさまざまな機能を同時に使って食事をしています。
3. 食事の流れが阻害されたとき
加齢や何らかの病気の後遺症で、食べにくくなる、飲み込みにくくなると何が起こるでしょう。
食べにくくなるということは、口の中に入った食べ物をまとめることが難しくなることです。
一方、飲み込みにくくなるということは、食べ物の空気の通り道である、気管に入りやすくなることです。食べ物が、気管に入りやすくなることを誤嚥といいます。
誤嚥することが多くなると、食べ物が肺に入って肺炎を引き起こす原因となるため、誤嚥したら咳をして食べ物を気管から出そうとします。咳をするだけでも、身体はカロリーを消費します。咳は肺炎を防ぐための正常な反応ですが、咳によるカロリー消費についてはあまり知られていません。実際には1回の咳で、2kcalのエネルギーを必要としています。たった2kcalと思うかも知れませんが、誤嚥による咳は1回ではすみません。
気管に入った食べ物が気管から出るまで、咳は続きます。食べ物が出たあとも、気管の粘膜に刺激が残っているため、刺激が落ち着くまでは咳は続きます。例えば、食事の時にむせて咳をして落ち着くまでに10回咳込んだとしたら、20kcalのカロリーが消費されます。一時的な咳込みならばそれですみますが、食べるたびに咳込むとなると、食事が終わるまでに少なくても食べた量の1/4のカロリーは咳込みで消費されるといわれます。
食事のたびに咳込まないように意識して食べたり、飲み込んだりすると、食事をするだけで疲れてしまい、その結果、食欲が低下していきます。健康体の時は、意識しなくても食事をすることができます。
加齢や病気の後遺症があっても咳込むことのないようにするには、その方の状態に合った食事の形や軟らかさを工夫する必要があります。
4. 食事の形態について
加齢や病気の後遺症の状態や程度によって、提供する食事の形や柔軟らかさは違ってきます。一般的な食事形態の種類についてまとめてみました。
5. 軟飯(なんはん)・軟菜(なんさい)食
対象となる人:噛む力が弱い人
特徴:通常の食事よりも軟らかい。噛んだら口の中で簡単にばらける。
メリット:食材が軟らかく咀嚼(噛む・まとめる)しやすい。
デメリット:軟らかくしているため、歯ごたえや食感があまりない。
6. きざみ食
対象となる人:噛む力が弱い人
特徴:普通の食事をかみ切りやすく刻んでいる。
メリット:噛み砕く負担がない。
デメリット:口の中でバラバラになりやすい。
飲み込むのに時間がかかるため、誤嚥につながる可能性がある。
7. ソフト食、やわらか食
対象となる人:噛み砕く力が弱く、食べ物を歯ですりつぶす力は弱いが押しつぶす力、
飲み込む力がある人。
特徴:食材の形があり歯茎や舌で押しつぶせる。食材から水分が出て分離しない状態。
メリット:咀嚼の負担が少ない。
デメリット:軟らかいため食材の歯ごたえがない。
8. ミキサー食
対象となる人:舌を使って食事を口の中でまとめる力・飲み込む力がある人。
特徴:水分を含んでいる。とろみが加わって飲み込みやすい。軟らかい粒状を含む。
メリット:噛まなくてもいい。飲み込みやすい。
デメリット:食材に水分を多く含むため、誤嚥に注意が必要。見た目に工夫が必要。
9. ペースト食
対象となる人:飲み込む力がある人。
特徴:水分が少ない。粒がなくなめらか。まとまりやすい状態。
メリット:噛まなくても飲み込める。
デメリット:見た目に工夫が必要。
10. ムース食・ゼリー食
対象となる人:飲み込む力に重度の障害がある人。
特徴:粒がなくて均等。プリンやムースのように口に入れる前に塊ができている。
メリット:口に中でつぶさなくてもいい。喉越しがよく、飲み込みやすい。
デメリット:形がないため見た目の食材が何かわからない。
11. 在宅で作る介護食のポイント
食事形態の調整が必要になったとき、自宅で作るとなるとどうしたらいいのかと悩む方も多いのではないでしょうか?
刻んだり、軟らかくしたりする必要はありますが、ご家族と同じ食材を使っても大丈夫です。調理器具も特殊なものを使う必要はなく、ミキサーや料理用のはさみがあれば十分に介護食を作ることができます。
また、最近では手作りばかりでなく、市販の介護食もスーパーやドラッグストアなどに売っています。仕事で忙しい日や出かける日などは、こうした商品を取り入れることで時間の短縮となり、自分やご家族との時間に充てることができます。
さらに食品メーカーの介護食や配食サービスを使うことで食事の変化が楽しめます。メニューを参考に今後の食事に出してみてはいかがでしょうか?
12. おわりに
高齢者の食事は、食べたり飲み込んだりする能力に合わせながら調整することが必要です。ここで気を付けたいのは、食べにくそう・飲み込みにくそうといった理由で、食べやすくするために細かくしたり、やわらかくしたりすることは、かえって食べる機能を弱めてしまう可能性があるということです。
噛めるものはゆっくり噛んで飲み込むことで、口腔機能の低下を防ぐことができます。
それでも噛みにくそう、飲み込みにくそうであれば、いま作っている食事の形態が合っていない可能性があるため、変える必要があります。
また、ちょっとした体調の変化やかぜをひいたときは飲み込みが悪くなったように感じます。一時的な体調の変化は、体調が良くなれば戻ると思いますが、その判断は難しいと思います。判断に困ったときは、かかりつけの訪問看護や訪問診療の従事者、ケアマネージャーへお気軽にご相談くださいね。