厚生労働省の「2022年 国民生活基礎調査」によると、主な介護者のうち別居の家族等が介護を担っている割合は11.8%にのぼります。
遠距離介護には、距離があるからこその負担や不安がつきものです。今回は、遠距離介護のための準備のポイントや限界の見極め方、その先の選択肢を解説します。
【著者】小原宏美
実家に帰省した際、以下の項目で違和感を覚えることが増えてきたら、遠距離介護を考え始めるタイミングです。
・生活状況:冷蔵庫の中身、ゴミの分別、臭い(清潔感)、体重の変化
・服薬状況:お薬カレンダーや薬ケースの確認、残薬
・室内環境:室温や火の元の管理
・身体機能:歩行状態、立ち座りの動作
・認知機能:会話の際、話の前後やつじつまが合っているか
ひとつひとつはささいなことでも、複数当てはまるようなら、早めに次のステップを検討すべきタイミングです。
親の遠距離介護が現実味を帯びてきたら、以下の2点を早めに進めましょう。
1.親の意向を確認する
最も大切なのは、親自身が「これからどう暮らしたいか」を確認することです。
ただし、いきなり「介護が必要になったらどうする?」と聞くのはハードルが高いもの。テレビで介護に関するニュースが出たタイミングなどに、「お父さん、お母さんはどう思う?」と自然に話題を振ってみましょう。あわせて、以下のような内容もふだんの会話の中でさりげなく把握しておくと、今後の判断材料になります。
・健康状態:「最近、体調どう?」「通院してる病院はある?」
・日常生活:「食事は自分で作ってる?」「最近どこかにお出かけした?」
・交友関係:「近所の人や友達とは会ってる?」「困った時に頼れる人はいる?」
2.家族のなかで、ケアの役割分担を決めておく
兄弟姉妹がいる場合は、介護の「キーパーソン」(医療・介護サービスの契約や緊急連絡の窓口になる人)を決めておきましょう。
「キーパーソン=介護をすべて引き受ける人」ではないため、家族内で日常的に介護する人(主たる介護者)も同時に決めましょう。
その際、負担が特定の誰かに偏らないよう役割分担することで、後の介護トラブルを避けられます。
「事務処理が得意」「お得な買い物方法に詳しい」「人と話すのが好き」などそれぞれの得意分野を軸にして、役割を割り振るのもおすすめです。
1.地域包括支援センターに相談する
何から始めればよいかわからない場合は、親の住まいの地域にある「地域包括支援センター」に連絡しましょう。介護保険の申請手続きから、地域の利用可能なサービスの紹介まで、無料で相談にのってもらえます。
必要に応じて要介護認定を申請し、ケアプラン(サービス計画書)を作成すれば、訪問介護やデイサービスなどの介護保険サービスを利用できるようになります。
無理のない介護をするための準備については、こちらの記事でも解説しているのであわせてご覧ください。
2.現地スタッフ(ケアマネ・ヘルパー)と上手に連携を取る
担当のケアマネジャーをはじめ、介護サービスなどの契約時に「遠距離介護であること」を伝えておきましょう。連絡手段は、メールや電話だけでなくLINEのビデオ通話やZoomなども活用すると、よりリアルタイムな状況を共有できます。
ケアマネジャーや介護スタッフに連絡する際は、こまめに感謝を伝えて信頼関係を築くことで、安心して介護を任せられます。
3.自治体や民間企業などの安否確認サービスを利用する
安否確認サービスには、センサーで動きを感知できなければ通知が届くタイプやスタッフが電話で確認してくれるタイプ、お弁当の配達時に声かけをして様子を確認してくれる配食サービスなどがあります。
自治体が無料で提供しているものもあるため、まずは親の住む市区町村の福祉課に問い合わせてみるのがおすすめです。
また、MySCUEで「#見守りサービス」「#見守り家電」で検索すると、さまざまなサービスを閲覧できます。
4.地域の見守りを活用する
近隣の方や民生委員に見守りをお願いすることも、本人が安全に暮らすための心強い手段です。まずは親の交友関係を把握し、近隣に頼れる人がいないかを確認しましょう。
民生委員に見守りを依頼したい場合は、市区町村の福祉課に問い合わせれば紹介してもらえます。ご近所にお願いする際は、以下の3点を意識するとスムーズです。
・まずは日頃の感謝を伝える
・お願いしたい事柄を具体的に伝える
・相手の負担にならないよう、無理のない範囲でお願いする
たとえば、「いつも母がお世話になっております。もしお時間があれば、週に1回程度、新聞が溜まっていないか見ていただけないでしょうか?」のように、日頃の感謝を伝えつつ、無理のない範囲でお願いするのがポイントです。
5.勤務先の介護支援制度を利用する
育児・介護休業法では、介護が必要な家族がいる労働者に対して「介護休暇」(年5日まで)や「介護休業」(通算93日まで)が認められています。
遠距離介護では急な帰省や付き添いが必要になることもあります。勤務先の人事・総務担当者に制度の内容や申請方法を事前に確認しておきましょう。
6.介護帰省割引を利用する
遠距離介護では交通費の負担も見過ごせません。片道3時間以上の距離では1往復あたり3〜5万円かかるケースが多く(出典:株式会社Speee「介護状況に関するアンケート」2023年)、帰省頻度が増えるほど家計への影響は大きくなります。
一部の航空会社では介護帰省割引を設けているほか、自治体や企業が独自の補助制度を用意していることもあるため、確認してみましょう。
以下の項目に複数当てはまるようになったら、遠距離介護の限界が近づいていると考えられます。
本人の状態に関するサイン
☐家の中での転倒やケガ、排せつ物の不始末などが頻繁になった
☐火の不始末や鍋の空焚きなど、火災リスクのある出来事が起きた
☐金銭管理ができなくなり、悪質な訪問販売の被害に遭った
☐医師から「常時見守りが必要」と診断された
☐近隣住民から、安否を心配する連絡が増えた
ケアラー自身のサイン
☐仕事や家庭との両立に限界を感じている
☐眠れない、食欲がない、気力がわかないなど心身の不調が出ている
☐「自分がやらなければ」という責任感で追い詰められている
2024年の厚生労働省「雇用動向調査」によると、介護・看護を理由に離職した人は年間約9.3万人にのぼります。ケアラー自身が倒れてしまう前に、家族やケアマネジャーと相談し、今後の介護について検討しましょう。
遠距離介護の継続が難しくなった場合、主に3つの選択肢があります。それぞれにメリットとデメリットがあるため、家族でよく話し合って判断しましょう。
① 施設への入居
24時間体制のケアや緊急対応を任せられ、ケアラーの負担は大きく軽減されます。一方で、入居待ちや費用面の負担、本人が環境の変化に抵抗を感じやすい点には注意が必要です。
② 親を自分の近くに呼び寄せる
日常的に様子を見られる安心感があり、ケアラーも仕事を続けやすくなります。ただし、親が住み慣れた土地を離れることで孤立しやすく、転居先で介護サービスやかかりつけ医を一から探す手間もかかります。
③ ケアラーが親の近くに引っ越す(または同居する)
親が住み慣れた環境で暮らし続けられ、地域の介護サービスもそのまま利用できます。ただし、ケアラー側の転職・退職が必要になったり、同居によるストレスが生じる可能性があります。
どの選択肢も、親の住まいや生活を変えることにつながります。しかしこれは親不孝ではなく、お互いが安全で快適に過ごすための前向きな判断です。
ケアラー1人で抱え込まず、親や他の家族、ケアマネジャーと一緒に考えることで、ケアラー自身の負担も和らぎます。
著者:小原 宏美
大学で音楽療法を学び、卒業後は児童養護施設、高齢者通所介護施設にて勤務。生活支援と並行して、音楽療法による利用者のQOL向上に取り組む。
現在はフリーライターとして、介護や音楽などに関する記事を執筆している。保有資格:保育士・介護福祉士・日本音楽療法学会認定音楽療法士(補)