今回お話を伺ったのは、日本最大級の介護施設・老人ホーム検索サイト「LIFULL介護」の編集長、小菅秀樹さん。老人ホーム紹介業の相談員としてキャリアをスタートし、1500件を超える相談に対応してきた経験をもとに、現在は記事や動画、SNS、テレビ、書籍など多方面で介護に関する情報を発信し続けています。そんな小菅さんに、「わくわくできる老人ホーム選び」のコツや多くのユーザーが頼りにする情報サイトの運営ポリシー、そしてSNSなどを通じて発信する、これからを見据えた介護のマインドセット、そしてMySCUEへの期待についてじっくりと語っていただきました。
●親しみやすい相談窓口の重要性: スーパーなど「日常の延長線上」で介護を相談できる場所の価値
●後悔しない老人ホームの選び方: 1500件の相談からわかった「困りごと」より「やりたいこと」を聞く重要性
●「人を不幸にするコンテンツ」を作らない理由: PV至上主義ではなく、読者の幸せと気づきを重視するメディア方針
●「親孝行の呪縛」を解く: 共働き時代における介護の選択肢の増やし方とSNS発信の真意
小菅さんが初めてMySCUEイオンスタイル品川シーサイド店を訪れたのは、パーソナルモビリティのWHILLが店舗で体験試乗会を行っていた日のことでした。
――初めて来店されたのは、WHILLさんの体験試乗会の時でした。
「そうです。WHILLさんには以前、本社に伺ったことがあって。今度品川シーサイドのイオンの(MySCUEの)店舗で体験会があると聞き、一般の方が試乗する様子を見たことがなかったので、良い機会だと思って伺いました。店舗がこちらにあることは知っていたのですが、なかなか来る機会がなく。せっかくの機会なのでと思って伺いました」
――そのときのMySCUEの印象はいかがでしたか。
「日常生活の延長線上に介護がある、というのがすごくいいなと思ったんです。介護の相談というと、ふつうは地域包括支援センターや病院でするケースが多くなります。家族が要介護や要支援に近い状態になったときに相談する、非日常的な行為という感覚があると思うんです。でも、日頃から食品や衣類を買うような身近な場所で介護の話を聞ける場所があるというのは、親しみやすくていいなと思いました。店内が明るいのも良かったです。通常の相談窓口は入りづらい雰囲気のところも多いので、明るくフラットで見渡しやすいというのはとてもいいなと感じました」
小菅さんが介護業界に足を踏み入れたのは、元々は決して介護に強い思い入れがあったからではなかったといいます。むしろ、そこには偶然と、ある一言との出会いがあったのです。
――小菅さんが今の道に進まれたきっかけを教えてください。
「元々はサービス業で店舗スタッフをしていましたが、その先のキャリアの展望も見えにくかったため、転職を考えていたときに、たまたま老人ホーム紹介業の相談員という仕事を見つけたんです。自分は祖父母も介護期間を経ずに亡くなっていたので介護の経験もなく、正直この分野への思い入れは強くなかったんですが、それでも何か気になって、話だけでも聞いてみようと思ったんです。
面接をしてくださった、のちの上司にあたる部長が、『我々の仕事は人生最後の住まいをサポートする仕事なんだ』と仰ったんです。仮に人生の九割が苦しい連続だったとしても、最後のステージを豊かに過ごして旅立てるようにサポートできる、非常に重要な仕事なんだと。その言葉にとても心を動かされました。それまでは物を売ることが当たり前でしたが、この仕事はご要望に沿った提案をする、時にはご本人が気づいていない点を提案する、そういう仕事だということに強く惹かれて転職を決めました」
小菅さんは相談員として4年間、1500件近い相談に向き合った後、入居相談のコールセンターの立ち上げを経て、LIFULL seniorへ転職。2019年からLIFULL介護の編集長を務めています。
相談員時代のエピソードとして、小菅さんは入社半年ほどのころに出会った、ある90代の女性の話を印象深く語ってくれました。
――特に印象に残っている相談者の方についてお聞かせください。
「世田谷区で一人暮らしをされていた90代の女性で、現役の華道の先生でした。ご本人からの相談で、ご希望は『自由な生活ができること』と『月に一度でもお弟子さんを集めて教えられる和室があること』。何度もご自宅に伺ってお話を聞く中で、入居の条件以上にその方がどんな人生を歩まれてきたかを深く伺うようになりました。
最終的にあるホームへの入居を決められたのですが、決め手となったのは見学の際、そのホームの相談員が開口一番に言ったこの言葉だったそうです。
『これからどんな生活をされたいですか?』
一般的には『何かお困りのことはありますか?』と不安を解消するアプローチが多い中で、『やりたいことをサポートします』という姿勢に、ご本人は『この先も楽しいことが続けられる!』とわくわくする未来を感じられたそうです」
💡 ポイント:安心感+「生きがい」がホーム選びの鍵
老人ホーム選びでは、万全な介護体制や医療連携といった「安心感」はもちろん重要ですが、それ以上に、「入居後にわくわくできるか」「自分の生きがいを続けられるか」という視点を持つこと。入居者が、後悔しない施設選びの大きなポイントになると小菅さんは指摘します。
編集長として小菅さんが大切にしているのは、単なる情報量の多さではなく、コンテンツの方向性だといいます。
――編集長としてサイト運営で工夫されてきたことを教えてください。
「二つあります。一つは、掲載された施設数の多さだけで選ばれるサイトにはしたくないということ。老人ホーム探しは、選ぶ条件を自分で整理すること自体が難しい方が多いので、それをていねいに整理して伝えられるサイトにしたいと考えていました。
もう一つは、人の不安を必要以上にあおりPVを稼ぐような、「人を不幸にするコンテンツ」はつくらないということです。介護系のキーワードで検索すると、虐待のニュースや『施設に入ったのに大変な目にあった』というようなネガティブで扇情的な情報が目立ちます。そういう情報に人は興味を引かれがちですが、それでPVを稼いだとして、誰の幸せにつながるんだろうと思ったんです。介護の厳しい現実を扱うことは必要ですが、不安や恐怖だけを残すような見せ方はしないと決めました。読んだ後に学びや気づきが残るもの、ということを軸にコンテンツをつくっています」
この方針の背景には、小菅さん自身が相談員時代に感じていた「老人ホームのイメージを変えたい」という強い思いがあります。
入居前は施設に拒否反応を示していた入居者が、半年後に自宅に戻った際、「うち(施設)に戻りたい」と口にするようになった――そんな場面を目にしたことがあったのだそうです。施設への入居を拒否していた方がそこまで気に入って下さったこと、また、相性のよいホームを選ぶことで、その方の生活の豊かさも変わってくる、ということを実感したからこそ、老人ホームを憧れの選択肢の一つにしたいと小菅さんは語ります。
小菅さんはX(旧Twitter)やテレビ、ウェブ媒体以外の場でも精力的に情報発信を続けています。2025年には、自身の経験をモチーフにしたマンガが書籍化されました。
――Xでは、施設という選択肢を選ぶことなど、介護についての認識を問うような発信をされています。発信を続ける原動力は何でしょうか。
「日本人の親孝行に対する観念は、儒教にまで遡れるほど根強い、日本人に沁みついた文化だと思います。一方で令和の今、多くの家庭は共働きで、そのまま介護を抱え込むことは現実的に難しい。それなのに価値観だけが昔のままというギャップは、とても大きいと感じています。介護を続けるうえで大切なのは、いかに選択肢を増やせるかということ。老人ホームも時代とともに変わってきていて、実はホームに入ったほうが豊かな生活を送れる方もいる、ということを伝え続けたいんです。
SNSはもう5年以上続けていますが、一度伝えただけでは届かない、響かない方もたくさんいます。だからこそ、一度で届かなくても、繰り返し言い続けることに意味があると思っています」
マンガ化・書籍化に込めた想い
「書籍(『伝説の相談員が教える幸せになれる老人ホーム探し ~マンガでわかる高齢者施設~』)を出した経緯は、LIFULL seniorが運営する『tayorini(たよりに)』というオウンドメディアで、私の経験をモデルにしたマンガの企画をしたい、という編集者からの提案があったんです。私としてはニーズがあるのかわからなかったのですが、世の中の『老人ホーム探し本』を見てみたら、最初から最後まで読み切れそうなものがあまりないと思ったんです。そこで、まずtayoriniでマンガをはじめてみることにしたんです。マンガならどんな方でもなじみやすく、内容も入ってきやすいのでは、と思いました」
そのマンガの連載を数話続けたところで出版社から声がかかり、2025年の夏に本は出版されました。「一冊で体系的に学べる」「校閲を経た、一定の信頼性がある情報」といった本の利点を語る小菅さんは、サイトのユーザーなどにも「まず一冊、介護についての本を読んでみる」ことをおすすめしています。ネットやSNSなどに情報があふれている今だからこそ、本の役割の大きさも実感されているのだそうです。
きょうだい間の介護負担の差や親との関係性(必ずしも良好ではない場合も……)、施設入居を受け入れてくれない親に悩む子世代の例や食事などの条件によって変わる入居者のQOLなど、さまざまなケースをマンガならではの読みやすさであっという間に読ませてくれ、大事なポイントに気づかせてくれる一冊。「親の介護が頭をよぎり始めた40〜50代」 が最初に手に取る「介護(施設)本」として、MySCUE編集部からもおすすめです。
インタビューの最後に、小菅さんはMySCUEへの期待をこう語ってくれました。
――MySCUEに望むことがあれば教えてください。
「まだサービスの全容を理解しているわけではないのですが、店舗を見ていて感じたのは、高齢者の生活を支援する商品がたくさん並んでいるということ。だからこそ、『今こういう状態で困っている』という悩みを入力すると、『それならこの商品がいいですよ』と答えが返ってくるような仕組みがあるといいのではと思いました。
介護期間はどんどん長くなっています。最初はAという悩みだったのが、次はB、その次はCというように、状態は変わっていきますよね。会員登録された方であれば、どんな悩みがあってどんなソリューションが提示され、それで解消されたのか、という記録を蓄積していく。そうすればユーザーの傾向が見えてきますし、同じような悩みを持つ方にそのデータを役立てることもできるはずです。
こうした仕組みが実現すれば、介護が必要になってからだけではなく、その前から継続的に相談できるサービスになると思います」
日常の延長線上に介護がある場所をつくりたいというMySCUEの姿勢と、老人ホームのイメージをポジティブなものに変えたいという小菅さんの思い。立場も発信の手段も異なる二者ですが、その根底には「介護を特別なものにしない」という共通の願いがあるように思いました。また、最後にMySCUEへの期待として提案してくださった仕組みについては、さまざまな段階や状況にある被介護者やその家族の様子を見聞きしてきた方ならではのものだったように思います。情報サイトはもちろん、店舗などを通じ、多角的なサービスを目指すMySCUEの今後を考える上で重要な助言と受け取りました。
写真:高原マサキ
小菅秀樹(こすげ・ひでき)…介護施設の入居相談員として首都圏を中心に300ヶ所以上の老人ホームを訪問。1500件以上の入居相談をサポートした経験をもつ。2019年「LIFULL 介護」編集長に就任。「メディアの力で高齢期の常識を変える」を掲げ、親の見守りから介護、老人ホームに関するコンテンツの制作、セミナー登壇、YouTubeやXで介護や高齢期の情報発信を行う。大手新聞での介護解説や取材協力、テレビ出演も多数。
著者:MySCUE編集部
MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護をするケアラーに役立つ情報を提供しています。シニアケアをスマートに。誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。