シニアケアといえば「介護サービス」を想像しがちですが、実はその手前の「まだ大丈夫に見える時期」こそ、家族の悩みは深くなりがちです。この“空白の期間”には、身体介護以上に深刻な「経済的リスク」や「親子関係の歪み」が潜んでいます。

そこで今注目したいのが、将来に備えて家族の関係を整え直す「ケア活」です。単なる情報収集に留まらない、親子が「他者」として尊重し合うための基盤づくりとは?

今回は、法政大学教授の眞保智子様に、シニアケアにおける「予防」の本質と、民間サービスが果たすべき役割についてお話を伺いました。

1. 身体介護の前にやってくる「経済的・法的リスク」の正体

Q. 本日はよろしくお願いします。はじめに、シニアケアにおける「予防」と「備え」について、どのようなことが重要だとお考えか、お聞かせ願えますか?

「シニアケアの準備というと、どうしても『介護が必要になったときに何を使うか』や『公的サービスにつながる前の空白をどう埋めるか』といった、サービスや制度の不足を補う発想に意識が向きやすいのではないでしょうか。もちろんそれも大切ですが、実はそれだけでは十分ではないと考えています。

私が重要だと考えているのは、その空白の期間に起こり得るリスクを未然に防ぐこと、そして親子の関係性をあらためて整え直すことです。言い換えれば、ケア活とは単なる情報収集やサービス探しではなく、これから先の変化に備えて、家族の関係や暮らしの基盤を再設計していくプロセスなのだと思うのです。

介護はある日突然始まるように見えて、実際にはその前段階が長く続きます。その時間をどう過ごすかで、後々の負担や選択肢の広さが大きく変わってきます。だからこそ、シニアケアでは「起きてから対応する」のではなく、「起きる前に備える」という視点が欠かせません」


●「空白の期間」の実態は、介護の手前にある経済的なリスク

Q. 空白の期間に起こり得るリスクとは、たとえばどのようなことでしょうか?


「一般的に『介護の空白』と聞くと、身体介護や家事支援の不足を思い浮かべる方が多いと思います。ですが、現実に現れやすいのは、身体機能の低下よりも、経済的な判断や契約行為に関するリスクです。

たとえば、テレビの通販番組を見て同じ商品を何度も買ってしまう、訪問販売で不要な高額商品を契約してしまう、価値の低い不動産を購入してしまう、あるいは『信頼できる相手だから』と実印を預けてしまう。こうしたことは、まだ日常生活をしっかり送れているように見える段階でも起こり得ます。


この問題が難しいのは、ご本人にも周囲にも『まだしっかりしている』という認識が残りやすい点です。見た目には大きな変化がないため、家族も強く止めにくく、法的にも取引が成立してしまいやすい。つまり、介護の前にまず向き合うべきなのは、生活支援の不足ではなく、判断の揺らぎによって生じる経済的・法的なリスクだともいえます。だからこそ、ケア活を考えるうえでは、将来の介護サービスの話だけでなく、『本人の尊厳を守りながら、どう日常の意思決定を支えるか』という観点を早い段階からもつことが大切です」

●民間サービスが担うべき最大の役割とは?

Q.このようなリスクに対して、MySCUEのようなプラットフォームが役立てることはあるでしょうか?

「あると思います。その役割は単に商品やサービスを並べることではありません。民間サービスの価値は、利用者が感じる不安の源泉を理解し、それを減らすようにサービスを設計できるところにあります。

とくに重要なのは、取引や購買の場面における“安全設計”です。たとえば、高齢者に対して過度な契約が起きにくい仕組みをつくること。たとえば、同じ商品の重複購入にアラートを出すことや、購買や契約に関する情報を必要に応じて家族に共有できるようにすることなどは、日常の中で起きやすいリスクの抑制につながります。

高齢者にとって必要なのは、ただ便利なサービスではなく、『ここなら安心して使える』と思える環境です。そう考えると、MySCUEのようなプラットフォームには、情報とサービスをつなぐだけでなく、安心して選べる購買・相談環境そのものを整備する役割が期待されます。

MySCUEは情報提供に加え、相談、コミュニティ、イベント、商品・サービス紹介などを通じてケアラーを支えるプラットフォームですから、こうした方向性と親和性が高いと思います」


眞保智子先生

2. 「親は一人の他者」と心得る。親子関係を編み直すプロセスとしての「ケア活」

●親に対する言葉遣いを見直す

Q.では次に、ケア活に必要なのはどのようなことだとお考えですか?

「まず大切なのは、言葉遣いを見直すことだと思います。高齢の親にとって、子ども世代の存在は、ときに『自分が老いた』という現実を突きつけられる存在にもなります。こちらに悪気がなくても、ちょっとした言い回しで『見下された』、『馬鹿にされた』と受け取られてしまうことは珍しくありません。

たとえば『啓蒙』という言葉には、知らない人に教えるというニュアンスがあり、対人援助の現場では使い方に気をつけなければなりません。不用意に『ケア活を啓蒙する』などと言ってしまうと、上から目線に聞こえてしまうことがあるのです。この場合は自発的要素を含む『啓発』に変えるなど、まずは言葉選びから変えなければならないと思います。

ケア活を進めるうえでは、正しい情報を伝えること以上に、相手の尊厳を傷つけない伝え方を選ぶ必要があります。強い口調を避け、相手を尊重する意識をもって話すこと。その小さな積み重ねが、親子間の信頼を保ち、将来の話をしやすくする関係づくりにつながっていくのだと思います」

●親と子は「他者」だと考えることを基本に

Q.なるほど。まずは言葉遣いですね。ケアされる側とケアする側の関係性についてはいかがでしょう?

「これも、とても大切なことですね。『親だから何を聞いてもよい』、『家族だから踏み込んでよい』という前提を一度手放さなければなりません。親と子であっても、基本的には別の人格をもつ『他者』だと認識しましょう。

ケア活では、何でも話せる関係性が理想のように思われがちですが、実際にはその関係は自然には生まれません。会う回数を増やす、連絡の頻度を上げる、何気ない会話を重ねる。そうした日々の積み重ねの中で、親の変化や考え方を少しずつすり合わせていくことが重要です。

たとえば、年に一度しか会っていなかった関係から、月に一度は電話で話す関係に変えるだけでも、お互いの距離感は変わります。そこで初めて、判断力の変化や暮らしの不安に気づけることもあります。センシティブな情報を扱うときほど、親を「家族だから当然」と見なすのではなく、尊重すべき他者として接するべきです。その認識があるからこそ、必要以上に踏み込みすぎず、それでいて必要な対話を重ねることができます。ケア活、もしくは介護とは、親を管理することではなく、親との関係を組み直していく営みでもあるのです」

●気になる親の懐事情。でも、基本的には「聞かない方がよい」

Q.シニアケアの場合、どうしても「お金」に関することも気になります。

「そうですよね。しかしお金の話は、シニアケアの中でもとくに慎重さが求められるテーマです。親の資産額や年金額について、子どもとしては心配だからこそ知りたくなるものですが、基本的には聞かない方がよいと思います。

というのも、その質問1つで、長年築いてきた信頼が一気に崩れてしまうことがあるからです。『親だから聞いていい』という考えは、実はとても危ういものです。他人に自分の預金や収入を詳しく話さないのと同じように、親にも、話さないという権利があります。

もちろん、社会保険労務士やファイナンシャル・プランナーのような第三者が関わることで、話しやすくなる場合はあります。ただ、それは資格者だからというより、第三者が丁寧に話を聞き、信頼を積み上げるプロセスを踏んでいるからだと思います。子ども側にも、本来は同じような『聞く力』が必要なのです。

たとえば年金額。年金シミュレーターのようなものが開発されれば、勤務していた会社の規模や勤務年数などでだいたいわかるようになるでしょう。少し気長に待つのもいいのでは(笑)。

要は焦っていきなり本題に入るのではなく、まずは安心して何でも話せる関係をつくること。その信頼感が育っていけば、最終的には親の方から必要なことを話してくれる可能性も高まります。ケア活におけるお金の話は、情報収集の問題ではなく、関係性の問題です。経済面を把握することばかりに意識を向けるのではなく、話しても大丈夫だと思ってもらえる土台づくりこそ、先に取り組むべきことだと思います」


眞保智子先生

3. ケアラーが“安心して選べる”環境を。民間プラットフォームが担う「信頼の可視化」

●信頼されるサービスの条件とは?

Q. 今後、MySCUEのようなプラットフォームに期待されることはありますか?

「これからのシニアケア業界では、新しいサービスが次々に生まれてくると思います。たとえば死後事務のように、社会的な必要性は高い一方で、制度や監督の枠組みがまだ十分に整っていないサービス分野もあります。そうしたサービス分野では、利用者にとって『何を基準に信頼すればよいのか』が見えにくくなりがちです。

だからこそ、業界全体としては事業者任せにしない監査やガイドライン、複数のチェック機能をもったフェイルセーフな仕組みが必要になります。また一方で、収益性の高い民間サービス、たとえば高待遇で人材を集める富裕層向けサービスばかりが発達すると、公的サービスの担い手不足や疲弊をさらに深めるおそれもあります。シニアケアは、人の不安や弱さに向き合う業界です。そこで“儲かるかどうか”だけが先に立ってしまうと、業界全体への信頼を傷つけかねません。ですから、まず大切なのは健全なサービス体系をつくることでしょう。

MySCUEのようなプラットフォームに期待したいのは、そうした信頼の証(あかし)を利用者に見える形で示していくことです。どんな考えで情報を発信しているのか、どのような基準で商品やサービスを扱っているのか、どんな相談先につなぐことができるのか。そうした情報が整理されているだけで、ケアラーは安心して次の一歩を踏み出しやすくなります。
MySCUEは、ケアラーの悩みや課題解決を目的に、情報だけでなく商品やサービスとの接点も提供するプラットフォームとして展開していますよね? 今後はその“信頼の見える化”がさらに重要になっていくのではないでしょうか」


眞保智子先生

●「合理的配慮の社会実装」としてのプラットフォームの価値(需要×不安の解消)

「消費者が本当に求めているものを用意することと、そのときに感じる不安を取り除くことは、本来セットで考えるべきです。とくにシニアケアやケア活の領域では、『必要な情報があるか』だけでなく、『安心して選べるかどうか』が行動を左右します。

その意味で、丁寧な顧客対応やわかりやすい情報提供は、単なるサービス説明ではなく、利用者との信頼関係をつくる重要な接点です。専門家の知見をわかりやすく届けたり、実生活に寄せたコンテンツを継続的に発信したりすることは、利用者の不安を下げ、意思決定を後押しする役割を果たします。

プラットフォームの価値は、単に情報量の多さでは測れません。必要な人に、必要なタイミングで、理解しやすい形でそれを届けられること。そして、その情報の先に『相談できる』、『選べる』、『行動できる』という導線があることが重要だと思います」


●まとめ
ケア活は、親に介護が必要になってから始めるものではなく、その前の“まだ元気に見える時期”にこそ考えるべき備えです。大切なのは、経済的なリスクを早めに意識することや、親を他者として尊重しながら関係を組み直すこと。そしてケア活とは、親のことばかりでなく、自分自身の将来設計や経済的自立も含めて考えることだと改めて痛感しました。


眞保智子(しんぼ・さとこ)
法政大学現代福祉学部教授。博士(経済学)、修士(経営学)、精神保健福祉士。専門分野は、若年者就労支援とキャリアデザイン、障害者雇用、職業リハビリテーション、人的資源管理など。高崎健康福祉大学の講師・准教授を経て、2014年より現職。群馬県教育委員会の教育委員長を歴任したほか、厚生労働省の「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」委員や、日本職業リハビリテーション学会会長など、政府や学術機関の要職を数多く務める。休職者の職場復帰に関する支援プログラムの開発や、障害者雇用における企業の「合理的配慮」に関する研究など、多岐にわたる受託研究に従事している。著書に『障害者雇用の実務と就労支援~「合理的配慮」のアプローチ』(日本法令)などがある。現在は米寿を迎えた両親の介護に取り組み中。



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著者:MySCUE編集部

MySCUE (マイスキュー)は、家族や親しい方のシニアケアや介護をするケアラーに役立つ情報を提供しています。シニアケアをスマートに。誰もが笑顔で歳を重ね長生きを喜べる国となることを願っています。

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